パイリの森の狐
目が覚めると見渡す限り木々が生い茂っている都会では見ることの出来ない光景だ。上を眺めると羽の生えた人間っぽい生き物が空を浮遊していた。配達用ドローンかと思ったが人型の何かだ。
「やったぁ、召喚成功」
と言う女声が後方から聞こえ、振り返ると2人の女性がいた。
<オリーバ人物描写>
1人は緑を基調としたはしゃいでいる女性と杖をもった赤毛のキツネに近い女性だ。
よく見ると僕を取り囲むようにさっき見た魔法陣が描かれている。頬をつねってみるが痛みはある。
「ハズレなのです。すごく弱そうですね」
「前の方がもっと強かったなぁ」
「オリーバ様、仕方ないのです。召還はガチャ。思い通りのおもちゃが出るにはそれなりの魔力と時間が必要なのです」
「なんだここは……冗談だろ」
自宅でもネットカフェでもない。ここはどこなんだ。
[翔太の表情]
「でもコレットのおかげで魔法が使えたよ。初期魔法だけど」
「召喚したのは私なのです。天才魔術師であるこの私。死にたい召喚獣と召喚獣を遣いたい魔術師の結びつき……」
一息ついて更に言葉を続ける。
「さぁ今のうちに主従契約をするのです」
「やっぱいらない。もっと強いのがいい」
「そうですか。仕方ないですね」
キツネ耳の女性がこっちを凝視して近づいてくる。
「ねぇそこの召喚獣。あなたはいらないらしいの。さっさと大人しく元いた世界に帰るのです」
「それはないだろ。勝手に呼んどいて」
「分かったのです。殺処分ですね」
赤毛の女性が言っていることは分かるのに全然言葉が通じていない。
大きく杖を振りかざす。
「待ってコレット!やっぱりこの子飼うよ」
「オリーバ様が言うなら」
赤毛の女性は杖を下ろす。
「確かこの首輪をつけて唇にキスするんだっけ」
犬がつけてそうなチェーンつきの首輪を持った女性がこっちを凝視してくる。ちらっと耳が見えたが鋭く尖っている。ということはエルフか。
「そうです。それで主従契約完了なのです」
エルフとコレットが歩み寄る。逃げたいのだがなぜか体が動かない。石のように重く手足の感覚が全くない。
「な、なんなんだよ。お前ら、こっちに来るな」
「ふむ。おもちゃのくせに生きがいいですね。しつけなのです」
[どういった表情か]
メイド服を着た女性が僕の足を思いっきりヒールで踏みつけた。人によってはご褒美とか言う人もいるが、そんなレベルの痛みではない。我慢できない痛さだ。
「いってぇ。何するんだ」
「主人に従うしか能のない召喚獣に発言を許可した覚えはないのです。痛みをもって反省し、三本尻尾の子豚のように許しを乞うのです」
[コレットの特徴をアピール]
*こいつを敵にまわしたら厄介だと思わせる
「や、やめようパレット」
「コレットなのです」
「そうそう、コメット」
「召喚獣のくせにこの私を侮辱しているのですか。いいでしょう、私の力を見るのです」
怒っているような口調だが顔は笑顔のままだ。これはそうとうやばいやつだ。
異変に気づいたエルフが僕とコレットの間に入り、コレットを制止させる。
「この子だって生き物なんだよ、暴力はダメ」
「躾は最初が肝心なのです」
更に大きく杖を振り上げる。
「ちょっと待ってくれ。僕が召喚獣? 躾? 何の話だ」
「ふむ、やはり分かってないようですね。ここは私が……」
長い杖を僕の鼻先に向けたコレットを見てエルフが慌てて呪文を唱える。
その瞬間、解読できない文字列が書かれた魔法陣が光り出す。僕がこの世界に来たときと同じやつだ。
「わわわ。コレット、強制転送」
「くっ、こんなところでその呪文を使うとは。後悔するですよ」
コレットが魔法陣の中に吸い込まれる。
「ふぅ、コレットはオリーバの召喚獣になんてことするの」
エルフは腕を組んで呆れた顔をしている。
こほんと咳払いをしたエルフが短いスカートの裾をつかみ挨拶する。
「はじめまして、オリーバの召喚獣。名前はええっと、ショタだったかな」
何度か名前を確認していたにも関わらず間違えた。
エルフが手を差し伸べてくれる。差し出された手を掴み立ち上がろうとするとエルフは驚いた顔で手を引っ込めた。
手をかしてくれたんじゃないのかよ。
立ち上がろうとするがやっぱり力が入らない。
「ショタじゃない、翔太。黒瑚翔太だ」
「そっかそっかごめんね。これからオリーバのためにこの世界を壊してね」
エルフがにっこりとふてきな笑みを浮かべる。
「オリーバのためにこの世界を壊してね」
エルフの言っていた意味は分からなかったけどこのエルフは敵ではなさそうだ。
「ここは?」
「木の実がいっぱいとれるパイリの森だよ」
「そういうことを聞いてるんじゃない。この世界はどこなんだ」
「オリーバも分からない」
使えないエルフだな。
「ここで何をしていたの」
「新しい召喚獣の召喚」
「そうだ。高い所から見ればどこかわかるかも」
「たしかにそうだな」
でもどうやって登る?数メートルはある杉の木だぞ。自力で上れるような木じゃない。
「おい、エルフ。高い所に行くんじゃなかったのか」
キョロキョロと何かを探しているエルフについていく。こんなところで迷子にでもなったら本当に死んでしまう。この森を抜け出せるのか。
「正直歩き疲れた。少し休みたい」
「ちょっと待ってて。今忙しいから」
「何探してるんだ」
「木のつるだよ。この太さなら大丈夫そうかな」
「今は遊んでいる暇はない」
「違う、これで空を飛ぶんだよ」
「これで空を? あたま大丈夫か」
太さからして人の体重を支えるのは無理そうだ。だって女性の力で簡単にちぎれてしまうツルだろ。男性が乗ったら切れるに決まってる。
「あー信じてないな」
プクっとエルフの頬が膨らんだ。
「ホントに大丈夫か。ものすごく切れそうなんだが」
「オリーバが強化魔法使っておいたから」「確か魔法使えなかったんじゃなかったのか」
赤毛のコレットと話していたときそんな話を聞いた気がする。
「簡易魔法くらいオリーバって出来るよ」「そういうものなのか」
「そう」
恐る恐るツルに腰掛ける。座った感じでは少し心もとないがしっかり体重をささえてくれている。
「じゃあいくよ」
「ああ」
ふわりと足が浮きその瞬間急上昇する。上にレールが付いた巨大ジェットコースター。あれに近い感じだ。
一面森が広がっている。ぱっと見一面緑だ。建物や人がいそうなものとかはないな。
「やっぱり周りは森ばっかりか」
進行方向と逆向きに座っていることに気づく翔太
「ちょっと待て。これなんかおかしくないか」
「え、普通じゃないの。後ろが見えていいじゃない」
「まぁいいか」
後ろから何かがやってくる。目をこすりながらもう一度よく見るが何かがこっちに向かってくる。
「なぁ、アレなんだ」
「あれってどれ」
「後ろからなんか来るぞ」
「たぶんエルフタクシーでしょ」
「エルフってそんなに早く飛べるの」
「トイレ我慢してるとか」
その何かと距離が縮まりだんだんシルエットがはっきりしてくる。
長い翼に鋭い爪が生えている。さっきまで見ていたエルフとは似つかぬ顔だった。
「ちょっと待った。ドラゴンだ」
「何でこんなところに」
慌てるエルフ
「魔法がもたないから一旦降りるよ」
急降下で地上に降りる。
「どうしよう。これじゃ空飛べないよ」「おいエルフ。これからどうするんだ」
「歩くしかないね」
「めっちゃ笑顔で言うな」
「歩くって言ってもどっちに行けばいいんだ」
切り株に腰掛けて考え込む。切り株の年輪を見れば方角が分かると聞いたことはあるがエルフが住む世界ではそんな常識通じなかった。
「それなら大丈夫。川を下っていけばオリーバが住んでる村につけるから」
「助かった。早速行こう」
しばらく下流に向かって歩く。体感にして一時間くらいは歩いたと思う。
「なー、あとどれくらい歩くんだ」
「あと一時間くらいかな」
「まだ歩くのか」
日が沈みかけた頃ようやく村らしき場所にたどり着いた。看板には文字が書いてあるがさすがにエルフ語は読めない。
青々と茂った大きな世界樹がお出迎えする。
「ようこそ! ここがオリーバの村、パイリだよ」