四片
【山となる】二〇二二年九月二十六日
「これ、まだ受け取りに来てないんですか? いつも理不尽な要求をしたうえ、暴言まで吐いて作らせてるのに」
「その人、もう一生来ないよ」
「……ああ」
悪行を働いた人間の残り時間を、被害にあった人間に分配する制度が導入されたこと、ご存じなかったのね。
「塵も積もれば何とやら、ね」
【価値観からの解放】二〇二二年十月二日
今はもう昔の話、ウエディングドレスとステンドグラスがあれば、幸せになれる夢を見ていた。
割れたグラスを拾い上げ、解けたドレスの糸を辿れば、夢を見ていた頃の私がいた。
鋭い破片で糸を切った瞬間、私は感謝に満ち溢れた表情で軽やかに走り去っていく。
私は、私を愛することを誓います。
【未練】二〇二二年十月二十日
雨の日も腫れの日も私を守ってくれた傘を、私は自ら手放した。
そのあと選んだ傘は、雨を凌いではくれるけど骨の折れた傘、見栄えはいいけど雨漏りする傘、晴れの日しか使えない傘。
何の疑いもなく信用できた最初の傘が、一番よかった。
私はまだ、あなたに似た傘さえ見つけられずにいる。
【磨きあげた歯】二〇二二年十二月十八日
幼い恋をしていたときは、甘いスイーツのような言葉が麻酔だった。
虫歯だらけの恋。
「君のためなら死ねるくらい、愛してるんだ」
今は、昔の私じゃない。
そんな歯の浮くような言葉じゃ、歯が立たないわよ。
「詰め物だらけの被せ物に興味ないの」
虫歯菌は歯牙にもかけない虎威。
【涙の理由】二〇二三年一月二十日
今日は何を作ろうか。
ハンバーグか、ミートソースパスタか、ロールキャベツか。
玉ねぎを刻むと涙が出る。
私はその涙と共に、誰にも理解されない憂悶を流す。
「玉ねぎが目に染みた」
そうやって言えば、辛気臭さは覆い隠されて、易しく理解されるから。
今日はそんな気分。
Twitterアカウントでの活動を終えたため、尚花の花片は四つ葉のクローバーの形で完成となります。
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