二片
【お障り】二二〇二年七月二十九日
触れたらご利益のある木なんて誰が言い出したのかしら。
お陰で自慢の木肌が手垢で汚れてしまったじゃないの。
「この木って触ったらご利益貰えるんだよね!? 触っとこ!」
「前も触ったけど全然良いことなかったなぁ。今回は良いことありますように!」
だから私も障ってあげることにした。
【芸術家】二〇二二年七月三十一日
何度も同じミスを繰り返しては人を呆れさせ、余計な一言を言っては人を怒らせ、奇妙な振る舞いで空気を凍らせる。
そんな同僚に理解のあるフリをした上司が世話を焼くが、
「他人の顔で個性的な表情を創るのが趣味なので」
無個性から個性を引き出す天才は、一瞬にして作品を創り出した。
【うわきもの】二〇二二年八月一日
一時になったら照明器具、二時になったら絵画、三時になったら窓、四時になったらピアノ――――――
一日に二回だけ私を見てくれる彼は、私の元に戻って来ても、またすぐに出かけて行く。
動いている限り、目移り癖は治らない。
飽きもせず、一時の逢瀬をその身に刻み続ける。
私の彼は、浮気物。
【眼の鏡】二〇二二年八月四日
私のぼやけた世界をくっきりと見せてくれる不思議な鏡は、私以外の人にはぼやけた世界を
見せる。
二つの鏡の間に橋があって、狛犬のように向かい合う位置に、蝶が二頭とツルが二羽。
私の大切な御守り。
「目が悪くて可哀そうね」
「今の顔、鏡で見てきたら?」
その意地悪な顔のほうが、よっぽど可哀想よ。
【恋愛レストラン】二〇二二年八月五日
色んな顔を見せてくれるパスタも、弾力と重みのあるステーキも、あっさりしたサラダも、甘い香りのケーキも、どれもとても魅力的。
中でもケーキは格別。
形を崩さないように、丁寧に少しづつ食べる。
私の気分で切り回す快感を味わいながら。
私は、ケーキをナイフで刺すような恋がしたい。