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The endless world 学び舎の光栄  作者: The endless world 学び舎の光栄
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第2話 始まり

挿絵(By みてみん)


 第2話 始まり


 日山は光栄学園の門の前に立っていた。


 (で、でっか!!)


 光栄学園は国が支える国立の高校であり、日本最大の高校だ。門もでかければグランドも、校舎もでかい。全てがでかいのだ。


 (い、田舎者の僕がこんなところに本当に来てよかったのかなぁ…)


 不安が一気に心の底から押し寄せてくる。けれど、その不安も案内役の教師の声で難なくかき消された。


 「こらから入学式の会場に行きます!!なので絶対に離れないように着いてきてください!!」


 その声を合図にみんな一斉に動き出す。日山も1歩を踏み出す。その足取りは明らかに緊張していた。けれど、それは日山だけではなく皆同じだった。


 (いよいよ始まるんだ…!僕の戦い…!)


 日山は歩きながら深呼吸をした。そして、大きくそびえる門をくぐった。門を通ると雰囲気はガラッと変わった。学園が東京都の真ん中にあるということもあって門の外はガヤガヤとしていたが学園内に入ると一気に静まり返っていた。


 (こ、こんなに静かなものなのかな…?もっとこう、入学式って賑やかなものじゃないの…?)


 そう心の中で不満を言う日山。だが、そんなものはお構い無しに案内役の教師はある場所へと案内する。


 「ここに荷物を置いたらまたここに集合してください!!」


 そう言って連れてこられたのは、広い物置のようなところだった。日山は自分の持ってきていた荷物をその場所に置いた。その瞬間荷物がどこかへ消えてしまった。日山は衝撃的な光景に思わず声が漏れてしまった。


 「え?!」

 

 日山は、はっ!として振り返ると後ろの人は驚いた顔をしていた。その瞬間顔が沸騰するぐらい恥ずかしくなりその場を直ぐに離れた。後ろからは日山を笑う声と不満を言うものの声が聞こえた。日山は恥ずかしくて、恥ずかしくてたまらなかった。


 (うわぁ…!やっちゃったぁ!恥ずかしい…)


 顔を真っ赤にしながらみんなが集まっている場所に戻る。科学技術の発展は地域や県によって異なる。日山が住んでいた地域では東京よりもだいぶ発展が遅れていたため物を置くだけで転送してくれる装置を見てあのような反応してしまったのだ。


 (入学初日でこんなことしちゃったよ…大丈夫かな僕…)


 そう考えながら前の人について歩く。思い出すだけで恥ずかしくなって自然と体温が上がる。その時前の人の足が止まった。日山は前を見る。


 「ここが会場になります!受付で席番号の紙を貰って自分の席に着いてください!」


 日山は会場となる体育館を見る。


 (でかい…何もかもでかいよ…)


 体育館も、ものすごく巨大だった。日山の小学、中学の体育館は1階建てだったのにも関わらず光栄学園の体育館はなんと3階建てだった。何もかものスケールが違いすぎる光栄学園。日山は正直緊張より恐怖を覚えていた。そして、受付をする順番は直ぐに来た。


 「はい、どうぞ。」


 「ありがとうございます。」


 席番号を貰った日山は入学式の会場に入った。そこにはたくさんの椅子が並んでいた。年間何百万人という受験者がいるこの学園。受かるのはほんの僅かな人間のはずだがそれでも、ものすごい人数の入学者がいるのがこの会場を見るだけでもわかる。


 (す、すごい…、こんなにもいるのか…)


 そう思うと緊張感が増す。この中の一人なのだと思うと怖さが襲ってくる。日山は席番号の紙をもう一度見る。そこには36番と書かれていた。


 (36番、36番の席は…)


 36番と書かれた席を必死に探す。こんなに椅子があれば探すのも一苦労だ。その時だった、後ろから誰かに声をかけられた。


 「あ、そこの君」


 日山は振り返る。そこに立っていたのは日山より少し背が高く、肌はいい感じに日焼けをし、芯の通った綺麗な黒い瞳。髪型はショートの右流しの髪をした少年だった。日山は不思議そう顔をして返事をする。


 「は、はい」


 バスの中では誰とも話さなかった日山。ここに来て始めて人と話したせいか少しだけ緊張して言葉が詰まってしまった。少年は日山に近づいた。


 「君何番?」


 「さ、36番、です。」


 何故か敬語になってしまった。日山は昔から初対面の人には敬語で話すのが癖だった。少年は答えを聞いて満足したのかニカっと笑った。


 「おぉ!奇遇だな!俺35番なんだわ!」


 そう言って少年は日山に自分の席番号を見せてくれた。日山は正直なんと返したらいいのか分からず苦笑いをしながら答えた。


 「そ、そうなんですね。奇遇ですね」


 少年は終始笑顔だった。日山も頑張って笑顔を作る。


 「そういえば、君、名前なんて言うの?」


 少年は日山にそう聞いた。


 「日山 泰輝です。」


 日山がそう答えると少年はまた笑った。その笑顔は人懐っこく日山の緊張感を少しだけ和らげてくれた。


 「へえ!なんか名前かっこいいな!」


 そう言われた日山は正直嬉しかったがどう反応していいか分からず苦笑いすることしか出来なかった。


 「俺は杉本 零助!よろしくな!」


 そう言うと少年は日山に手をだしてくれた。日山はその手を握った。


 「はい、よろしくお願いします。」


 「タメでいいよ!堅苦しいから敬語やめようぜ!」


 そう言われた日山は少し嬉しそうに頷いた。そして、二人は一緒に席を探した。席は無事に見つかった。式が始まるまで二人はたわいもない話をしていた。


 「でさぁ、やばかったんだよ!」


 「え?!それはやばいね!」


 終始ふたりは笑っていた。まだであって数時間も経っていないというのに打ち解けていた。日山は昔から人見知りが酷く。簡単には他人に心を開くことが出来ない性格だったのだが、杉本は違った。その人懐っこい笑顔と、話を聞いていて飽きない話し方。全て日山と相性があったのだろう。そして、アナウンスがかかった。


 《えー、これから式の予行を行います。まだ席に着いてない生徒は速やかに席に着いてください。》


 そう放送がされると日山も杉本は自然と静かになっていた。そして、式の予行は無事に終わり本番に入った。式は順調に進んで行った。そして、校長先生のお話が回ってきた。


 《起立!!》


 アナウンスが入った。


 《礼!!》


 一度練習しただけというのに概ね綺麗に揃っていた。これが光栄学園に入学出来たもの達の違い。日山に緊張感が走る。


 《着席!!》


 みんなが一斉に座る。パイプ椅子の音が一斉に揃う。気持ちいい音ともに緊張感の電流が身体中を駆け巡った。


 《この度は皆さんご入学おめでとう。》


 武藤 ひさし校長先生。この学園のトップであり、もと特殊部隊員。超エリートだ。


 《皆さんがこの学園に入学したのには色々な理由があると思う。だが、これだけは忘れないで欲しい。みな志は同じだということだ。生まれ育った環境も違えば、価値観も全くもって個人で違う。だからといって、いじめなどを絶対にしないよう。そんなものをするものはこの学園に必要ないとみなし、即退学とする。》

 

 そう言う武藤校長先生の表情はとても怖かった。今までにあってきた男性とは雰囲気がまるっきり違う。これがトップ、この光栄学園を築きあげて来た人間の風格。


 (全然一般人男性とは風格が違う…遠目からでも分かる…やっぱりレベルが違う…)


 日山の表情が自然と引き締まる。そして、武藤校長先生の話が終わると思ったその時だった。


 《こらから、入試で一番いい成績を残したものをここで表彰する。呼びれたものは前へ出てくるように。》


 そう、武藤校長先生言った。予行ではこんなことするとは言われなかった。日山は正直焦った。


 (え?!予行ではそんなことしなかったのに!)


 そう少し焦っている日山を置いて、武藤校長先生が表彰される人物の名前を呼ぶ。


 《ではまず、普通科から。普通科、指原晃介。看護科、名原舞。医学科、陽原幸来。工学科、遠藤昌。特進科、杉本零助》


 その瞬間日山は横の杉本を見る。杉本は綺麗に立っていた。日山は動揺を隠せなかった。さっきまで仲良く、ニコニコと話していた杉本がまさか入試で一番をとった優秀な人材だとは思いもしなかったのだ。


 (え?!!嘘?!思っちゃダメだけど、そんな風にはぜんっぜん見えなかった!!え?僕失礼なこと言ってないかな…)


 そんなことを考えていると杉本はいつの間にか前へ出ていた。一人一人壇上に昇っていく。その後ろ姿を日山は真っ直ぐな目で見つめていた。


 (すごい、かっこいいな!)


 《君たちは、入学前から優秀な成績を残してくれた。これからも勉学、身体能力向上に励むように。以上》


 《ありがとうございます!!》


 五人の声が一斉に揃った。気持ちいいほどに体育館中に響き渡った。


 

 そして、式は無事に終わった。

式のあとは、教師の案内で学校案内をしてもらった。その間も日山と杉本は一緒に行動していた。


 「食堂の飯、上手いのかな?」


 そう聞く杉本に日山は少し苦笑いしながら答えた。


 「んー、どうだろうね」


 そう言われた杉本は日山を見る。日山が緊張していることを杉本は気づいていた。なんせ。わかりやすいのだを本人は顔に出していないつもりなのだろうが残念ながら顔に出ている。


 (多分本人気づいてないだろうけど、緊張感してるの凄いバレバレなんだよなぁ…)


 そう思うと自然と苦笑いしてしまった。学校案内も終盤を迎えた時、案内役の教師が言った。


 「校内の案内は終わりです!次は寮の説明をするので呼ばれた人達は言われた札を持っている先生の所に言ってください!」


 そう言われた日山と杉本は顔を見合せた。杉本は少し困った笑みを浮かべた。


 「寮、一緒だといいな」

 

 日山は正直少し驚いてしまった。こんなことを言って貰えるとは思っていなかった。出会ってほんの少ししか経っていない相手にこんなことを言われるなんて思ってもみなかった。


 「うん。そうだね。」


 日山は微笑んだ。杉本もこの言葉は本心だった。杉本も正直緊張はしているのだ。だが、それを顔に出さないだけなのだ。本当なら、日山のように緊張感を前面に出したいが杉本にはそういうことがあまり得意なタイプでは無いのだ。


 「えー、杉本零助!」


 「はい!」


 杉本は呼ばれた。さっきまでの浮ついた表情ではなかった。真剣な顔つきをしていた。日山は切り替えの早い人だと思った。


 「杉本は、西棟だ。」


 そう言われた杉本は西棟と書かれた札のところに行った。そこにはたくさんの生徒がいた。寮は学科関係なくわけられるため何科の人と一緒になるかは分からない。


 (一緒がいいなぁ…)


 そう思っていると直ぐに日山も呼ばれた。


 「日山泰輝!」


 「は、はい!」


 緊張感して言葉が詰まってしまった。


 「君は西棟だ。」


 そう言われた瞬間日山は杉本の方を見る。杉本も日山を見ていた。日山は杉本の方へ行く、杉本は満面の笑みで笑っていた。


 「やったな!棟一緒だぞ!」


 そう嬉しそうに笑う杉本。日山も笑う。


 「うん!安心したよ!」


 そう笑うふたりを他所に案内役の先生が話し始めた。


 「お前らの棟観を務める相根だ。よろしく。」


 相根先生。見た目はまだ二十代ぐらいの若い先生だった。何科の先生なのかはまだ分からない。


 「部屋の振り分けをここでしておくからちゃんと覚えとけよ。いちいち言わないからな。」


 そう言うと相根先生は部屋の振り分けを声に出して言って言った。その間も日山はドキドキしていた。棟は一緒になったとはいえ、どうせなら部屋も一緒になりたいものだ。


 「杉本、お前は204号室だ。」


 「はい!ありがとうございます!」


 杉本は呼ばれた。日山の緊張感が高まる。そして、遂に発表の時が来た。


 「日山。お前は204号室だ。」


 「はい!ありがとうございます!」


 そう呼ばれた瞬間体の気が抜ける感覚がわかった。日山は杉本を見る。杉本は日山を見て微笑んだ。そして、グッとをしてくれた。日山は嬉しくてたまらなかった。


 「よし、お前らの部屋に案内するからはぐれずに着いてこいよ。」


 そう言うと西棟に向けて前進し始めた。歩き出して直ぐに杉本が日山に話しかける。


 「やったなぁ!部屋も一緒だ!!」


 そう嬉しそうに笑う顔。日山も満面の笑顔で返す。


 「うん!僕もすごく安心したよ!もし一緒の部屋じゃなかったらどうしよう…って気持ちでいっぱいだったから!!」


 そう言うと杉本はとても嬉しそうな顔をしていた。そして、あっという間に自分たちの自室の前に来た。部屋の入口は普通で、プレートに「204号室」と書かれた下に日山と杉本、あと二人知らない人の名前が書いてあった。


 (島谷優陽さんと…これ…なんて読むんだう…?)


 日山が首を傾げていると杉本に呼ばれる。


 「おーい、日山、入らないのか?」


 そう聞かれて日山はハッと我に返る。


 「ごめん!入ろう!」


 そう言って杉本がドアノブに手をかける。そして、扉を開けた。そこに居たのはさっきプラートの下に書かれていた人達だろうか。二人の少年がいた。


 「あ、君たちが日山君と杉本君?」


 そう聞かれて日山と杉本は頷いた。


 「俺は島谷優陽。よろしく。」


 そう言って手を出してくれた。島谷の容姿は、黒髪にセンター分けの髪型。肌の色はいい感じに日焼けをしていた。瞳は濃いブラウン色。日山と杉本は一度顔を見合わせてから間を置いて順番に手を取って握手を交わした。


 「俺は、杉本零助。よろしくな。」


 杉本がそう言うと島谷はニコッと笑った。その笑みには何やら意味が含まれているようだった。


 「知ってるよ。表彰されてたしね。いやー、すごいね。そんな人と同じ部屋だなんて俺嬉しい限りだよ。」


 そう言われた杉本は少しだけ眉間に皺を寄せた。どうやらあんまりいいようには受け取っていないらしい。日山はその様子を横目で見ていた。何やら最初から少しだけ不穏な雰囲気が漂っているのを感じ取っていた。


 (あれ、これ結構まずいやつかな…?空気良くするために僕が頑張らないと)


 そう思った日山は急いで自己紹介をした。


 「僕は日山泰輝です。よろしくお願いします。」


 そう言うと島谷はまたニコッと笑ってくれた。だが、その笑みは心の底から笑っていないのがわかった。


 「なんか、いい人達そうで安心したよ。とんでもない奴らが来たらどうしようと思ってたからさ。」


 そう言われた日山達は苦笑いをした。そして、もう一人の少年が立ち上がった。


 「あ、こいつは俺の幼なじみの権藤勝。よろしくね。」


 そう言われて日山達は権藤を見る。権藤は二人を睨んでいた。容姿は、髪型は短髪で髪が硬いのか少しだけつんつんとしている。髪色は少しだけ赤毛かがった濃い茶。瞳はとても意思の強い色素の薄い茶色。


 (ごんどうっていうんだ…というか…すごく睨まれてるんだけどもう僕嫌われてる…?)


 そう思うと急に不安になってきてしまった。だが、その不安は当たっていたようで日山が権藤に視線を合わせると即無視をされてしまった。


 (やっぱりもう嫌われてる…!!なんでぇ…!)


 泣きそうな気持ちを抑え、頑張って権藤に挨拶をしようと近寄った。


 「あ、あの。僕は日山…」


 そう言いかけた時、権藤から舌打ちをされてしまった。あまりの行動に日山の顔も驚いた表情になった。


 (え?!舌打ち?!なんでぇ!!)


 そう思った時だった。権藤が衝撃的な発言を放った。


 「俺はお前らと仲良くするつもりなんてさらさらねぇよ。」


 あまりの爆弾発言に日山は固まってしまった。権藤は相変わらず日山達を睨んでいた。日山が困っていると、横にいた杉本がぬっと前に出た。


 「俺の方こそごめんだわ。お前みたいなクズ野郎と。」


 杉本までもが爆弾発言をしてしまった。もう場の空気は最悪なことになっていた。日山は島谷に視線を送る。島谷は何事も無かったような顔をしていた。日山はもう何をどうしたらいいのか分からなくなり頭の中に星が飛んでいた。


 (まだ初日だよ?!なんで?!僕が悪かったのかなぁ…!どうしよう!何とかしないと!)


 必死に停止してしまった思考を動かそうとする日山。睨み合う杉本と権藤。何も動じない島谷。完全にカオス状態だ。


 「しょうちゃん。睨み合わないって約束したよね?」


 そう発した島谷。日山は島谷を見る。島谷には全くもって表情は変えていなかった。


 「うるせぇよバカ。」


 そう権藤が言う。杉本の顔が怖い。日山はあたふたとしながらこの状況を打開策を考えていた。島谷がまた口を開く。


 「はは、ほんとにしょうちゃんは餓鬼だね。変わんないねぇー、恥ずかしいと思わないの?初対面の人にそんなこと言ってさぁ。」


 島谷は権藤を貶し始めた。日山の体から血の気が引いていくのがわかった。


 「黙れクズ。」


 そう言われた島谷は怒るのかと思えばただ微笑んで権藤の頭を拳で殴った。


 「ってぇ!!何すんだよ!!」


 そう痛がる権藤を他所に島谷はこっちを見て言った。


 「ごめんねぇ。こいつこんな感じのやつだけど、悪いやつじゃないんだわ。だから、仲良くしてやってね。杉本君もごめんね。後できつーく言っとくから。」


 そう言うと島谷は権藤の首に手を回して肩を組んだ。明らかに権藤は嫌そうな顔んしていた。日山は杉本と顔を見合わす。


 ((とんでもない人達がルームメイトになった…))


 二人の思考はシンクロしていた。


 こうして四人の三年間による共同生活が始まった。部屋の内装は、二段ベッドが四つ並べられ、机がよっつ、タンスが4つ丁寧に並べられていた。まるで本当の自分の家のようだった。そして、誰がどこで、上か下かどっちで寝るかをジャンケンで決めることになった。


 「よーし、じゃあ俺上がいいー!」


 そう言う杉本。


 「よーし、ジャンケンするよ!」


 そうジャンケンをしようとした時一人足りないことを思いました。


 「しょうちゃ〜ん、ジャンケンするよー、


 そう島谷が呼びかけたが権藤はイヤホンをしていて聞こえていなかった。島谷にはやれやれと溜息をつきながら立ち上がると権藤の頭を拳でまたひと殴りした。


 「っ!いってぇな!!何すんだよこのクズ野郎!!」


 そう殴られたところを擦りながら権藤が言う。島谷には終始微笑みながら言った。


 「ベット、どっちが下か上か決めるよ。あ、参加しないってのはなしね。どうせ、どうせね。後で僕に文句つけてくるんだったら今ここでやっといた方が良くない?」

 

 日山と杉本は終始微笑みながらそう言う島谷を見て、少しだけ恐怖を感じた。


 ((この人絶対に怒らしちゃいけない人だ…))


 またもや二人の思考がシンクロした。そう言われた権藤は渋々みんなの輪に入った。そして、ジャンケンが始まると思った矢先、島谷がある提案を出した。


 「あ、その前にさ。グッパしない?」


 そう言われた三人はキョトンとした表情をしていたが、杉本がそういうことか!という顔をした。


 「なるほどな!誰がペア組むかってことだな!」


 そう言われた島谷は頷いた。


 「そう!」


 盛り上がる二人を日山は微笑んでみていた。こんなにも直ぐに打ち解けられるとは思っていなかった。それよりも見た目のことをいじられると覚悟していたが。杉本も島谷も権藤も、誰一人としていじってこなかった。日山はそれが何よりも嬉しかった。この見た目のせいで小学生の頃ずっといじめを受けていたのだから。それが、ここでは無いかもしれない。そう思うだけで嬉しくて、安心できたのだ。


 「よーし!グッパすっぞー!」


 杉本のその掛け声とともにみんな一斉に拳をつきだす。権藤もだるそうにしながらも、乗ってくれた。


 「「「「グッとパーで別れましょ!!」」」」


 結果は、日山と島谷がパー、杉本と権藤がぐーだった。その結果を見た瞬間杉本と権藤が叫んだ。


 「はァ?!!!」


 そう言ってお互いの顔を見合わす二人。そして、一分もしないうちに2人同時に不満をこぼす。


 「ぜってぇ嫌だ!こんなやつと一緒のベットとか絶対に!死んでも嫌だ!!」


 「俺だっててめぇと同じベットはごめんだ!」


 そう言っていがみ合うふたりを呆れた顔で見る島谷と、焦った顔で見る日山。日山は島谷に問いかける。


 「と、停めなくていんですか…?これ結構やばい様な…」


 日山がそう言うと島谷は日山を見る。日山はどうしたらいいのか分からず視線が激しく動く。島谷はそんな日山の表情が面白かったのか少し笑っ後に口を開いた。


 「まぁ、まだいいかな。好きなだけ言わせてやらないとね。グッパで決めたわけだし、平等だしね。。あ、敬語じゃなくていいよ。堅苦しいからやめよ。」


 「わ、わかった。敬語やめるよ。そ、それより…取っ組み合いになってるしそろそろ停めないと、もし、棟観来たら怒られちゃうよ…」


 そう怯える日山。島谷をそんな日山を少し呆れた顔で見たあと。二人のもところに歩いていき、取っ組み合いをしている二人の真ん中に入り喧嘩の仲裁に入った。


 「はーい、終わり終わり。ジャンケンで決めたんだから平等でしょ?だから子供みたいに駄々こねない。」


 そう言われた権藤と杉本は喧嘩を辞めた。だが、まだお互いの胸ぐらは掴んだままだ。杉本は日山を見る。日山の顔は青ざめていた。そんな日山を見て杉本は権藤の胸ぐらから手を離した。


 「お前、俺が寝てる時になんかしたら許さねぇからな。覚えとけよ」


 そう杉本が言うとまた権藤が杉本を睨みつける。もう一戦開始されそうな雰囲気になったが今度は二人とも喧嘩はしなかった。きっと、島谷のおかげだろう。


 「良かったぁ…殴り合いになったらどうしようかと思ったよ…」


 日山がそういうと杉本は少し呆れた顔をした。


 「あんな奴、殴りたくもねぇよ。」


 そういうとまた権藤が杉本を睨みつける。日山は先が思いやれる気持ちしか出てこなかった。こんなに嫌悪感満載な二人を同じ二段ベットにしてもいいのか。その他もろもろ心配事は沢山ある。


 (本当にこのメンバーで大丈夫なのかぁ…不安しかないよ…)


 そんなことを思っているとノック音が聞こえる。その瞬間みんなの空気が一瞬にして固まる。さっき喧嘩していたのを聞かれてしまったのではないかとみんな一斉に不安になる。一人を抜いて。


 「お前ら、晩御飯の時間だぞー。並んで行くから廊下並べ」 


 ノックをしてドアを開けたのは、寮官相根だった。日山達はほっと胸をなでおろした。


 「びびったァ…怒られるかと思ったわ。」


 「ほんとね…僕心臓やばいよ。すごい、バクバクしてる。」


 三人はお互いの顔を見合わす。みんな焦ったような顔をしていた。そして、何事も無かったかのようにみんな一斉に立ち上がった。


 「じゃんけんは帰ってきてからやろっか。」


 「そうだな、このジャンケンはマジで負けらねぇ!」


 そう言いながら杉本は権藤を見た。権藤は杉本を睨む。そして、その喧嘩を杉本が難なく勝手でた。


 「お前は下だ!絶てぇ下!!」


 日山はもう呆れることしか出来なかった。島谷は相変わらず顔を色を変えない。


 (怒られたらどうしよう…何されるんだろう…)



 そして、怒涛の一日が終わった。じゃんけんの結果は日山が二段ベットのしたで、島谷が上。そして、杉本と権藤ペアーの結果は、杉本が上、権藤が下となった。上下ジャンケンの時も案の定二人の喧嘩が勃発し、島谷が無言の圧で止めてくれたおかげで何とか収まった。日山は寝床に入った。


 (はぁ…色々怒涛だったなぁ…)


 そんなことを考えていると部屋の電気がいきなり消えた。


 「うわ!!」


 思わず声が出てしまった。日山は急いで自分の口を閉じる。あいにく誰にも聞こえていなかったようで安心したつかの間、上から島谷が顔をひょっこり出してきた。


 「なーにー?驚いたの泰ちゃん。」


 (た、泰ちゃん……?そんなあだ名で呼ばれてたっけ?)


 島谷は上のベットでニヤニヤとしていた。日山は恥ずかしくなって布団をガバッと被った。


 「はは、可愛いね泰ちゃん。」


 日山は恥ずかしすぎて耳を手で覆った。


 「あのさ、泰ちゃん。ひとつ聞いてい?」


 そう言われて、日山は布団から少し顔を出す。島谷は相変わらず上から顔をのぞかせていた。これが思った以上に怖いのだ。


 「う、うん。いいよ。」


 そういうと島谷はニコッと笑った。部屋の中は完全に真っ暗という訳ではなく、廊下の灯りが少し差し込んできてくれるおかげで島谷の表情が少しだけ見える。


 「なんで、泰ちゃんは、光栄学園に入ったの?」


 そう聞かれた日山は少し考えてから答えた。


 「…親友が目の前で殺されちゃったんだ。だから、多くの人を救いたいと思ったんだ。だから、光栄学園に入学したんだ。」


 そう答えた日山は島谷に見る。島谷は真顔だった。そして、少しの間を開けて島谷が口を開いた。


 「いいじゃん。かっこいいね。」


 そうニコッと笑った。だが、その笑顔には少し裏があるような気がした。日山は恐る恐る島谷に問いかける。


 「あ、ありがとう。し、島谷君はなんで光栄学園に入ったの?」


 そう聞きと島谷がまた真顔に戻った。そして、顎の下に手を当てて少し考えてから答えた。


 「優ちゃんでいいよ。堅苦しいし。んー、そうだなぁ…わかんない。」


 そう答えた島谷を日山は驚いた顔で見ていた。島谷はそんな日山の顔を見て少し笑いそうになってしまった。


 「え?それ本気で…言ってるの…?」


 そう日山が問いかけると島谷は満面の笑みで頷いた。日山は思わず目を見開いてしまった。その表情を見た瞬間耐えきれなくなったのか島谷は吹き出してしまった。

 

 「ぷは!そんな顔しないでよー!面白い顔!あはは!」


 そう笑った時、1人の罵声が飛んでくる。


 「うるせぇよ馬鹿ども。消灯時間来てんだろうが。当直も周りにくんだからさっさと寝ろやばか。」


 そう言われて2人は布団に潜る。日山は布団の中でさっきの島谷に言われた言葉を繰り返す。日山には正直理解し難い答えだった。なぜなら、ここまで来るのに血が滲むほどの努力をしてきたからだ。学力も運動も何もかも努力をしてここまで来た。それも全て、多くの人を救うため。そして。この世界になぜコラプションが生まれたのかを解き明かすため。それなのに、島谷は分からないと言ったを世の中には色々な人がいると日山は分かっているがその言葉だけは理解が出来なかった。布団の中で一人悶々とする日山だったが。気づかないうちに落ちていた。


 こうして怒涛の一日が終わった。


 日山達の学園生活はここから始まった。

 この先一体何が待っているというのか

 日山達は無事に卒業できるのか

 過酷な学園生活の3年間が幕を切った。

初めまして!伊秩と申します!


ご愛読ありがとうございます!

今回は少しギャグ要素が多めだったのかなと思いました!

前回がなかなかに重い内容だったので少し明るめにしようと思ってギャグを入れ込んでみました!


次回からは日山のクラスメート達がどんどん出てきます!楽しみにしていただけると幸いです!

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