覚醒の儀式
前略
「それでは覚醒の儀式を行います。手を女神像に向けて祈りの言葉を捧げましょう」
「「神様、私たちに『力』を授けてください……」」
朝焼けの残像がようやくあたりを照らし始めたような早朝のこと。
大人たちが固唾を呑んで見守る中、僕たちは女神様に静かに祈りを捧げていた。
一筋の風が入り込み、ろうそくの灯りが消えて聖堂の中が暗闇に包まれる。
直後、窓から差し込んだ朝日が僕らを鮮やかに照らし、何かが僕の中に入り込んだ。
「ステータス オープン!」
「ステータス オープン!」
「ステータス オープン!」
周りの子供たちにも同じことが起きたのか、みな好き勝手に『公開』の呪文を唱えて、自分自身に宿った新しい力を確認している。
さっきまでの静けさがまるで嘘のように、聖堂内は阿鼻叫喚に包まれた。
僕の幼馴染の女の子も、差し出していた右手を握りこみ、ゆっくりと目を開いて口を動かす。
「ステータス オープン! ……えっと……やったぁ! ねえ、見て! 『剣聖』のスキル! ほら!」
普段おしとやかな彼女でさえも、ここまで興奮させるのは、スキルの内容は人生に大きな影響があるから。
「別に、役に立たないスキルでも、生きていくことができなくなるわけじゃない」
それは僕たちの先生が常々言っていたことだった。
だけど彼はついに一度も「役に立つスキルでも、活躍できるとは限らない」と口にしなかった。
それぐらいに、僕たちが生きるこの世の中で、スキルというのは絶対視されている。
別に僕は、スキルなんかに頼らなくても、強く生きて見せる。
だから、そう。たとえ役立たずの代名詞みたいなスキルを引いても、だれにも文句は言わない。
……うそだ。
僕は今、自分自身にうそをついた。
強いスキルが欲しい。
勇者にでも賢者にでもなれるような、そんなスキルが欲しい!
役に立たないスキルでもいいなんて、そんなのは弱い人間の言い訳だ!
意を決して息を吸い込んで息を止め、ふうと吐き出してから口を動かす。
「ステータス……オープン」
言葉を口にした瞬間に、僕の中の曖昧だったスキルが徐々に形を明らかにする。
【濃縮還元】
どうやらこれが、僕のスキルの名前らしい。
聞いたことがない名前のスキルだ。
もしかしたら新種のスキルなのかもしれないけれど……ただ何となく雰囲気から伝わるのは、
「……はずれ、かなぁ」
濃縮して、還元する。よくわからないけれど、飲み物の保管や輸送に役立ちそうだ。
少なくとも、戦いの役に立ちそうな感じではない。
ガクリと肩の力が抜ける。
だめだ、ここでうつむいたら、僕は負け組になってしまう。
まだ役に立たないと決まったわけじゃない。
僕はまだ、諦めるには早い!




