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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第二章 因果ノ楔
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エピローグⅡ『メリッサの歩む道』

 流石に今回の事は堪えたらしい。

 いつものツインテールもマフラーも脱ぎ捨てて、珍しく任務も全部断って、ここ数日ずっと部屋の中で寝そべってうずくまってやがる。


 久しぶりに見たな、素の”こいつ”を。

 俺はこいつのことを大分前から知ってる。

 初めて会ったのはこいつの家の書斎。


 壊れたペンダント型の触媒の俺は、こいつの父ちゃんと妹に隠されてたが、たまたま掃除をしていたこいつが見つけてしまった。

 そのおかげで俺は半身が欠けた状態で目を覚ました。


 こいつの第一印象は、そうだな、すげー弱っちい奴。

 ほんわかしたり、すぐに慌てたり、どこかオドオドしてる。

 姉ちゃんのくせにいつも妹に守られてて、情けないと思いながらかっこいい妹に憧れてやがった。


 たまに気の強い事を言ったりしてたのは妹譲りか? けど根っこは驚くほどにお人良しだ。

 俺に名前をくれたり、記憶が欠落した俺を助けてようと俺の半身を探しに出かけたり、おせっかいな奴だ。


 まぁ、流石に探してた俺の半身がこいつの街を壊滅しに現れた時には罪悪感は感じたさ。

 獣の襲撃で住んでた街が崩壊した時、こいつは中途半端に覚醒している俺と契約して契約者になった。


 妹を守りたい、街をこんなにしてしまったのは私のせいだ、とか何とか言って。

 ただ、不完全な契約だったからなぁ、そりゃーなー、微妙な力じゃむしろ足を引っ張っちまうよな。


 最後は俺の半身を封じ込めるのと引き換えにこいつの父ちゃんも妹も死んじまった。


『死ぬべきは私だった! メリッサじゃない!』


 こいつは何度も妹の屍の前でそう言って泣いてたらしい。

 らしい、てのはこの時だけ俺の意識が飛んでたからなぁ。後からサルヴァて奴から聞いたんだ。


 そっからなんやかんやあって、俺は探してた半身と一体化、スリンガーが使う銃を触媒に封印、そしてまた目を覚ました。


『この銃を握った時、お前はスリンガーとして生きることになる。その覚悟はあるか、アリス?』


 そうサルヴァがこいつ、アリスに問うた。

 俺が銃になって目を覚ました時に聞いた最初の問いだ。


『私は、メリッサとして生きる。あの子が生きたはずの道を、私が歩く』


 そう言って、サルヴァから、こいつ、アリス改めメリッサに俺が渡された。

 ここから新メリッサちゃんの超無双が始まる! なんてことはなかった。

 こいつは組織に入って初日の訓練から泣きながら帰ってきやがった。


『こんなの、無理だよ……』


 組織の訓練は厳しいらしく、容赦のない組み手でボコボコにされて、顔をパンパンに腫らして帰ってきた。


『で、どうすんだ?』


 こいつに握られるだけの俺はそう聞くしかない。

 スゲー怖い目つきで睨まれたけど、しばらく項垂れてからぱっと顔を上げる。


『メリッサは、諦めたりなんてしなかった』


 初めての任務を終えた夜も、『嫌だ、怖い、死にたくない』て延々と泣き言を漏らしてた。

 初めて一人で獣と戦った時も、大怪我をして死にかけた時も、仲間を亡くした時も、こいつは毎度心が折れちまってた。


 外では”メリッサ”を演じても、一人になると”アリス”に戻った。

 メンタルも弱いし戦闘の才能も元々ねぇ、ないない尽くしのメリッサもどき。

 けど、こいつは挫けはしても完全に諦めることだけはしなかった。


 何度も死にかけて無力さに絶望しても、何とか立ち上がる。

 そんなことを繰り返すうちに、こいつは段々”メリッサ”に近づいていった。

 今じゃ周りに俺しかいない時も、こいつは無意識でメリッサとして立ち振る舞う。


 そんな日々が長いこと続いたから忘れかけてたけどよ、素のお前はそれ(アリス)なんだよなぁ。

 シャムの嬢ちゃんは、ジークやリーエンと同じで訓練時代からの仲だ。

 四人ともバレッツになるまでずっと一緒だったもんな。


 へこむのも分かる、悲しいのも分かる、けどずっとそれで良いのか?

 お前はこれまで何度も立ち上がって来た。


 贖罪のために妹が歩いたはずの道を歩いて、もうお前のような人間が現れないようにする、そのために戦うんだろ?


 シャムの嬢ちゃんの埋葬が終わってから数週間が経ったころ、あいつは寝ていたハンモックから急に降りた。


 のそのそとリボンを取って髪を二つに結って、上下のインナー、いつもの緑色のロングコートを着て、マフラーで首筋の契約印を隠して、スリンガーの完成だ。

 ホルスターを腰裏に装備して、最後に俺を手に取る。


「……」


 久しぶりに面と向かって俺を取ったってのに、すげー睨んできやがる。いや、怖いって。


『で、どうすんだ?』


 久しぶりに、いつかの問いをまた投げる。


「”私”は、諦めない」


 両目とも泣き腫らしておいてよく言うぜ。

 必死に外面を保とうとするこいつに、俺はつい笑っちまった。


『ケハハ、もう何日も寝込んでるくせに気張るねぇ、”メリッサ”ちゃんよぉ』

「うるさいわよ、ルーズ」 


 あぁ、お前はこうでなくっちゃな。

 お人よしの弱っちいメリッサちゃんは、今日も俺を片手にもう一度立ち上がる。 


 そうでなくっちゃ、お前じゃねぇもんな。

これにて第二章、因果ノ楔終幕となります。思ってたより執筆に時間がかかった……

すれ違いが重なっていくメリッサとアゲハ、完全に対立関係となった組織と財閥、色々ありそうですが、第三章ではジークとリーエンを活躍させたいですね。もちろん引き続きメリッサも。

しばらく間を置くと思いますが、よかったら第三章も気長に待ってもらえたらと思います。


評価・ブクマ・レビュー等いただけますと、執筆の励みになります!それではまた次回!

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