エピローグⅠ『アゲハの歩む道』
数週間前の激戦が嘘のようだ。
アゲハは目の前に広がる一面の白い花を眺めて物思いに耽る。
いつもの藍色のセーラー服でこの場にいると、目立ちすぎていないだろうかとつい思ってしまう。
隣には小さな墓石が立っており、似たような物が一定の距離を置いて多く並べられている。
アゲハはそのうちの一つの前に屈むと、そこに刻まれた名前を心の中で読む。
楓。
しっかりと苗字も聞いておくべきだった。
好きな食べ物は? 部活はしていた? 放課後はいつも何をしてたの? 遊びにはどこに行く?
これから長い時間共に過ごすものだと思い、後の楽しみとして聞かなかったことがたくさんあった。
ほんの少しの間だけしか共に過ごせなかったが、彼女は確かにアゲハの一番弟子だった。
アゲハはポケットに入れていた小刀を取り出し、それを楓の墓の前に置いた。
「もっと、お話ししたかったな」
じんわりと涙が浮かぶが、アゲハがそれを零すことはない。
今アゲハがいるのはとある都市部の真ん中に位置する超高層ビルだった。
そのビルの屋上に設置された広い花壇には、財閥の兵士や所属していた者達の墓石が並んでいる。
ぼんやりとその情景を眺めていると、ふと背後から足音がした。
振り返ると、そこにはヒンメルと、見知らぬ男が立っていた。
銀髪の髪に赤と白を基調にしたロングコート、腰には煌びやかな装飾が施された片手剣が帯刀されている。
おとぎ話にでも登場しそうな騎士の風貌に、アゲハはぽかんと口を開いて眺める。
「やあ、君が秋道アゲハか。可愛らしさと鬼神の如き強さを持っていると聞いてるよ」
男は爽やかな笑顔ながら、どこか豪快さを感じさせつつ、アゲハへ手を差し伸べる。
「シグ・フリーデンだ。財閥の頭首をやらせてもらっている。君を歓迎するよ、アゲハ」
「うふふ、一応偉い人よ、彼」
突然現れた最高責任者に、アゲハは屋上の風で乱れた髪を慌てて整え、手を握り返す。
「は、初めまして、アゲハと申します!」
「そう固くならないで。英霊達も驚いてしまうよ」
そう柔らかく言い、シグは丁寧に紙に包まれた花を、楓の墓石に添える。
それは花壇の花と同じ種類の真っ白な花だった。
「君の大切な人だったようだね」
シグの落ち着いた態度はアゲハの緊張もほぐし、肩の力も抜けていった。
シグの問いに、アゲハは静かに頷く。
「友達で、私の一番弟子でした。もう、これ以上こんな目にあう子を私は見たくない」
「その願い、必ず叶えよう。そして我々も、君のような覚者が必要だ。そのために、財閥は存在するのだから」
シグは立ち上がり、ゆっくりと屋上の出口へと手を向ける。
「さぁ、他の覚者達にも会わせよう。組織との全面抗争に立ち向かう仲間を紹介したい」
シグに誘われ、アゲハは足を運ぶ。
室内の扉をくぐる前に、アゲハはもう一度だけ楓の墓石へ振り返り、決意の表情と共にシグと扉をくぐっていった。
次で第二章おしまいです。




