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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第二章 因果ノ楔
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因果の足音 p.12

 財閥拠点強襲作戦が終えた数日後、”組織”は慌ただしくなり、とある孤島に位置する組織の本部でも人の出入りが横行していた。


 肩を振って風を切り、ライオンのたてがみを想起する金色の髪を揺らし、ジークは本部内廊下をズカズカと歩く。


 その隣を、歩幅がジークより圧倒的に短いリーエンがトコトコと足早に速度を揃えてついていく。

 相も変わらずリーエンは性別の判別が難しく、中性的な顔立ちのまま無表情を保ち、後ろに結った髪が歩く度に尻尾のように揺れる。


 ただでさえ人より身長が低いのも相まって、ジークの隣を歩くことでより小さく見える。

 だが、長年コンビで活動している二人にとっては今更の光景だ。


「バレッツ含めた全団員の招集だぞ。メリッサの奴どこにいやがる」


 いつものように眉間にしわを寄せ、ジークは愚痴をこぼす。

 それを聞き、リーエンはふむ、と顎をさすった。


「部屋から出てこないらしい。流石にシャムの件が響いてるようだ」

「……チ、俺様達に仲間の死を悼む暇なんざねぇんだぞ」

「流石は我が王だ。訃報を受けた後暴れてヤケ酒をしたクセによく言う」

「ンだと?」


 憤怒の形相でリーエンを睨むが、ぷい、と顔を逸らされた。

 だが、思う節はあるようで、リーエンは小さくため息を吐く。


「……まぁ、正直私も今回のは堪えた。もう四人揃うことはないんだな」

「あぁ、そうだ。だからこそ、シャムをやられた借りは必ず財閥へ返す」

「クロエも囚われていることだしな。工作員として死に損なっているのは恥だが、生きていてよかった。今回の件で、あいつが得た財閥についての情報は大きい」


 そうこうしているうちに、二人は本部の中央に位置する大ホールへと出た。

 黒い壁に囲まれた、開けた空間ではあるのだが、そこには整列しているスリンガー達でひしめいている。


 ざっと見渡す限りその数およそ三千人。

 それは組織に所属しているスリンガーのほぼ全員が集まっている状態を示している。

 彼/彼女らは世界中へ赴き、日々獣の討伐へ身を投じている。


 普段から人手不足と獣の繁殖力に手が回るかどうかの状況の中、全メンバーの集合は異例中の異例だった。


 スリンガーの中でもトップと目されるバレッツの称号を持つ者達は、ホール内の最前列に整列することとなっており、ジークとリーエンは指示通り前列に立つ。


 二十名に満たないバレッツですら招集がかかっているのだが、現在この場に出席したのはおよそ十名そこいらだった。


 貴重な最大戦力が引っ張りだこなのもそうだが、性格に難がある者も複数名存在するため、一概に欠席者全員が都合が悪く来れないというわけでもない。


 ジークとリーエンが整列すると、ちょうどよく男が一人、大広場の壇上に上がる。

 四十代後半で白髪交じりの男は年齢相応の貫禄と共に、室内だというのにサングラスをかけているところに、どこか砕けた態度があることを伺える。


 組織の副団長にして団長の側近、ヴィクセントだ。

 しばらく前までは本部に留まり、前線へ出撃してしまう団長に代わり指揮を取っていたが、現在ではそのヴィクセントすら前線に駆り出されるほどに人手不足が深刻化している。


 そのヴィクセントが久しぶりに本部に姿を現し、広場に集まった一同は組織がかつてない状況を前にしていることを実感する。


「おし、全員とまではいかねーが、ほとんど集まったな。お前ら全員聞け! 俺達が獣へ復讐を誓ったあの日から、大きな節目が見えてきた。これより団長サルヴァから直々に全体命令が下る」


 マイクはいらないのではないかという大声でヴィクセントが言うと、彼の後ろからもう一人の男が壇上へ上がる。


 頬が少しこけ、疲れたような表情でいながら特徴的な丸眼鏡から覗く眼光は鋭い。

 全スリンガー達と同じ団服を纏った男、サルヴァは壇上に立ち、出席した全員を見渡す。


「皆、集まってもらったのは他でもない。我々が続けていた原典の頁収集の終わりが見えてきた。知っての通り、原典の復元に必要な原典の頁は六百六十六枚。我々はその内、五百八十三枚の回収に成功し、残った原典の頁の所在はすでに割れている

 未討伐となっている獣の祖共が三十二枚を所有しており、これらは今まで通り我々が指示したチームに討伐及び回収の任を負ってもらう」


 終わりが見えてきている。

 その言葉に、団員達が一斉にどよめいた。

 ある程度反応を予測していたサルヴァは頷き、話しを続ける。


「問題は残りの所在。”財閥”と名乗る契約者の集団が原典の頁回収に乗り出し、残った五十一枚を保有している。財閥の目的は未だ不明ながら、獣と組んでいる可能性は非常に高い。この状況を前に、我々”組織”は原典の頁回収任務が最終局面へと移行していると認識した」


 状況を飲み込み始めた団員達が少しずつざわつき始めるが、サルヴァは止まらない。


「財閥の目的は不明ながら、既に我々への被害は出ている。過去の”教団”との抗争以来、初めてバレッツの一人を失った」


 バレッツという組織のエースが殉職したことはこの場にいる者全員が把握している。

 不安をよびらせる団員達へ、サルヴァは鼓舞するように拳を上げる。


「敵は強い、だが我々の目的への大きな一歩がすぐそこにある! 我々はこれより、財閥が保有する全ての原典の頁回収を目標とし、ほぼ全ての団員を財閥との全面衝突へ投入するとを決定した。この作戦が成功したとき、原典が完成され、獣壊滅という我々の悲願へ大きく近づく!」


 地ならしのような歓声と雄たけびが、団員たちから上がった。

 サルヴァが意味したのは、組織、引いては全スリンガーが切望していた獣の祖の完全封印。


 原典さえ完成すれば、地中深くに眠る獣の祖を意のままに操ることで永遠に眠りにつかせることができ、新たな契約者やそこから派生する獣の群れも生まれなくなるのだ。


 一連の演説を眺めていたジークは、組んでいた両腕をさらにきつく締めあげ、リーエンもゆっくりと眉を潜める。


「……見えてきたぞ、リーエン。俺達の旅路の終点だ」

「あぁ。シャムの仇討ち、滅ぼされた祖国と民の無念、必ず晴らす」


 団員達がサルヴァの宣戦布告に高揚の雄たけびを上げている中、ジークとリーエンは静かに前を向く。

 歓声が上がる中、ふと、ジークは誰もいない隣を睨む。


 なんでこの場にお前らもいねぇんだよ。

 ここにはいない二人の戦友の姿を探しながら、二勢力の闘争が激化していくのを肌で感じた。

次回エピローグ二話分更新&第二章完結

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