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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第二章 因果ノ楔
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因果の足音 p.8

 診察台に乗せられ、そこから見上げた光景には、太陽のように光る診察用ライトの数々と、見知らぬ大人達の顔。

 眩しい光を手で遮ろうにも、幼いシャムの両手足は診察台に縛られ、固定されている。


「これより被検体J-15番の第三十六回、獣因子移植実験を行う」


 大人達は淡々と言葉を連ね、脇に置いていたメスを取ってそれをシャムの腹部へと刺す。


「くぅああああ!」


 痛みで悲鳴が上がるが、大人達は構わず作業を続ける。

 健康上なにも問題ない臓器が取り出され、取り出した分何か別の肉を体内へと縫合されていく。


 何度目と分からないこの手術を、シャムは最後まで慣れることはなかった。

 すると、部屋の白い壁に亀裂が入り、猛烈な勢いでコンクリートの外壁が吹き飛ぶ。


「な、なんだ!」


 大人達が叫ぶと同時、警報が鳴り、施設内全体が途端に騒がしくなる。


『スリンガーの襲撃! 全職員は直ちに退避! 退避だ!』


 意識が朦朧としているシャムには何が起こっているのか分からない。

 ただ、穴の空いた壁からぞろぞろと知らない人達が突入してくるのが見えた。

 全員が深い緑色のロングコートにいかつい銃を装備している。


「”機関”のメンバーだな! 人と獣を使った人体実験、これ以上はさせないぞ!」


 銃を持った人達はそう言ってあっという間にその場の大人達を制圧した。

 事態はすぐに収束し、突撃してきたスリンガー達がシャムを囲むように立って見下ろす。


「これは……ひどい。どうする、楽にしてやるか?」

「いや、施設の実態の証拠として本部に連れて行こう。その後の判断は上に指示を仰ぐ」


 シャムはそれを聞いたのを最後に、意識がぷつりと途切れた。



 組織に拾われてからしばらく経ち、シャムは他の子供たちと同様に組織が用意した施設に保護された。


 組織はシャム達へ定期的に検査をするも、前にいた”機関”のような非合法は実験を強いることは決してなかった。


 経過観察と判断されたシャム達は組織に育て上げられ、獣へ転生する兆候はなしと断定されてからは正式に組織の一員となっていった。


 経緯が経緯だけに、獣への復讐心が強いスリンガーの部隊へ配属はされず、シャムと同じ施設にいたほとんどの者は後方支援部隊へと配属していった。


 そんな中、シャムと数名の者がスリンガーの適正を見い出した。

 シャムはこれ以上自分のような被害者を出さないためにも、後方支援ではなくスリンガーになることを決意した。


 だが、スリンガーの部隊に入ったものの、風当りは冷たい。

 ある日食堂で一人食事を取っていると、少し遠くにいる団員達の声がシャムの耳に届いて来る。


「おい、あいつが噂の獣人間か?」

「上の連中も何を考えてやがる。始末する対象を部隊に入れたんじゃ意味ねぇだろ」

「私嫌よ、あの子と同じチームなんて」


 思わず口に運ぼうとしていた食事の手を止め、俯いてしまう。

 身体のいたるところが、仇である獣の肉で出来ているのだ。気味悪がられても無理はない。

 そう思っていると、ふとすぐ横に人の気配がした。


 ゆっくりと視線だけを向けると、同い歳くらいの少女が立っていた。

 金色のツインテ―ルにロングマフラーを巻いた仏頂面の少女、メリッサだ。


「隣、良いかしら?」


 メリッサはそれだけ言うとシャムの隣にどかりと座った。

 え、聞く意味あった?

 そんなツッコミが湧いてくるが、今は押さえる。


「えっと、メリッサ、だっけ? 昨日、訓練で一緒だった」

「えぇ。貴方はシャムでしょ。よろしく」

『そして俺はルーズだ!』


 メリッサが机の上に置いたヴォルフが声を張り上げた。

 喋るヴォルフを所持しているとは聞いていたが、実際に直で見るとやはり驚く。

 だが、そんな事よりもメリッサが気になってしまい、どうしてもそわそわしてしまう。


「……何よ?」

「その、私と話して嫌じゃないの? 私が何て思われてるか知ってると思うけど」

「知ってるけど、それが?」


 メリッサは本当に気にも留めない様子で食事を始めた。

 遠くでそれを見ていた団員達がまた何やらひそひそと話し始め、シャムは慌てる。


「私、あんまり周りによく思われてないよ? その……身体が獣と混ざってるし」

「結果を出せば何でも良いじゃない。上位スコアを叩き出せる優秀な人と、何の成果も出せずに呑気にご飯を食べてる人とじゃ雲泥の差があるわ」


 メリッサはさきほどまで小声で話していた団員にわざと聞こえるように声を張り上げて言った。

 シャムは陰口を言っていた団員達に視線をこっそり飛ばすと、バツが悪そうにして席を立っていく。


 そこでふとシャムは何かに気づいた。

 他にも空いている席がある中、わざわざシャムの隣に座ったメリッサ。

 おそらくさきほどの陰口をメリッサも聞いていたのか、咄嗟に隣に座ってくれたのだ。


「獣さえ全員討伐出来れば、過去なんて関係ないのよ」


 去っていく団員達の背中へ、メリッサはぼそりと言うが、『ぷくくく』と隣のルーズが笑いを堪えた声を上げる。


『と、訓練スコア最下位の方が偉そうに語っております』

「……ルーズうるさい」


 メリッサは苦虫を潰した表情を浮かべ、机に置いたルーズを睨む。

 シャムも思わず笑いが込み上げるが、メリッサに睨まれて必死に堪える。


 あぁ、人に優しくして貰えたのはいつぶりだろう。

 自然とシャムの頬がゆるみ、この子の事をもっと知りたい、と心の声がささやいた。

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