因果の足音 p.7
「転生開始――」
ドッ、と衝撃派が生じ、アゲハは一歩後ずさる。
光り輝き、変形を始めた銃はその銃身を伸ばし、口径も変化していく。
「――私の弾丸は悲哀」
最後の呪文を終えると、シャムの手元にあったのはハンドガンの名残りが一切ない、散弾銃へと変化していた。
トリガーに隣接されたレバーをコッキングさせることで次弾装填させる、レバーアクション式のショットガンだ。
あれを撃たせてはいけない!
アゲハの直感が警笛をならし、真正面からシャムへと突っ込む。
「甘いよ」
シャムが引き金を引くと同時、アゲハのアドレナリンが最高潮に達し、全ての動きがスローモーションに再生される。
変形したシャムの銃からは無数の弾丸が同時に発射された。
単発ずつで撃たれるならまだしも、面制圧で撃たれるとアゲハの刀捌きでは至難を極める。
ギリギリ切り落とせるか。
アゲハは立ち止まり、刀を振るう。
紫のオーラを纏った妖刀は弾丸を切り裂くと同時、渦で出来たそれを吸収し、刀に蓄積された渦をさらに増加させる。
面として向かってきた十発の弾丸中、直撃コースだった四発を払いきった時、アゲハは息を飲んだ。
一度撃ったはずの弾丸が、シャムがいる方角から途切れることなく、発射した以上の数が飛来してくる。
急ぎ体制を崩し、地面へと伏せるも、三十発近い弾丸のうち数発がアゲハの腕と胸に直撃した。
轟音と嵐のような無数の弾丸はアゲハの頭上を飛んでいき、遠くで着弾の破裂音が響く。
アゲハは血反吐を吐きながら立ち上がり、無理やり居合の構えへと移行。
傷の再生は始まっているものの、スリンガーの弾丸で受けた傷は治りが遅く、鈍痛で眩暈が起こる
「君も知ってるよね。スリンガーが持つ切り札、転生。要は獣が人を殺し続けて深化するのと同じように、獣で出来たこの銃も深化して、新しい力を解放することが出来る」
シャムは見る者を威圧させるほどに黒光りする長身の銃を片手で構える。
「私の銃が解放した邪術は”増殖”。放った邪術を増やすことが出来る。それは、渦で出来た弾丸も例外じゃない」
「く!」
次弾を撃たれる前に、アゲハは地面へ斬撃を見舞う。
渦を込めた斬撃はアゲハとシャムの間を阻むように横一文字に地面を切り裂き、砂埃を立ち上げる。
視界を奪われたシャムが弾丸の嵐を乱暴に放つが、斬撃と同時に横へと逃げたアゲハはギリギリ攻撃を交わす。
もはや攻撃の規模が桁違いだった。
一度に百発近い弾丸を放つシャムの攻撃はまさに暴風が如く。
「もう終わりにしよう! きっとメリッサは君を救うために自分を犠牲にする。私はあの子にそんな選択を取って欲しくない!」
叫び、シャムが持つ残り三つの心臓のうち一つが爆ぜた。
心臓の渦がショットガンへと注ぎ込まれ、銃身が怪しく光り、邪術が銃へと乗せられた。
同時に、砂埃が晴れ、互いの姿が再び曝け出され、アゲハはシャムを睨む。
あぁ、相手はどちらかが死ぬまで戦う気だ。
悟り、身体の重心をこれまで以上に低くして居合の構えを取り、シャムの次の攻撃に備えた。
迷っていたら殺されるのはこちらだ。
「ランダムバレット!」
引き金が引かれた。
潰した心臓から発動させたのは”再現”の邪術。
過去に目撃した邪術を再現するコピー能力というシャムのとっておきの一発。
シャム自身の九生魂 ( ナイン・ソウル )と銃の”増殖”の能力が組み合わさり、その効力は尋常でないほどの威力へと昇華する。
飛び出したのは百を超える弾丸それぞれに個別の邪術が付与され、シャム自身も何が起こるか分からない。
邪術の嵐を前に、アゲハは一歩も引くことなく、真正面から受けて立つ。
「--蝶流、奥義」
炎、水、風、岩、氷、色とりどりの邪術の群れを前に、アゲハは一歩前へ踏み込み刀を鞘から抜き放つ。
「華武鬼舞・阿羅堕!」
アゲハが放ったのは周囲を埋めつくす無数の斬撃と、斬撃一つ一つから発生するかまいたちの二段構えの居合技。
斬撃を繰り出すほどに倍増していく衝撃は降り注ぐ弾丸を切りはらっていく。
だが、降り注ぐ猛攻全てを払い落すことは出来ず、アゲハの身体中に毒、酸、衝撃を纏った弾丸が直撃した。
「くっ、あああ!」
苦悶の表情を浮かべて耐え、刀を鞘へ納刀し、二発目の奥義を発動。
気合一閃。
斬撃とかまいたちに加え、さらに妖刀の飛ぶ斬撃を発動した。
斬撃の範囲が拡張され、それは嵐の弾丸を切り裂いていく。
無双の斬撃は嵐を貫いてシャムの身にも届き、シャムはその身を切り刻まれていく。
頬の半分がはじけ飛び、腹は裂かれ、右足が切り落とされ、片耳が切り離される。
「まだだぁ!」
シャムは左腕が斬撃で斬られる前に、心臓をまた一つ潰した。
同時に左腕が吹き飛ぶも、心臓から放たれた渦はショットガンへと流れ込み、弾丸へ邪術が込められる。
片足を亡くして地面へ倒れながら、シャムは右腕一本でショットガンのレバーを起点にくるりと銃身を回すスピンコックを行い、銃口を空へ向けて次弾を発射させた。
「カオスダイブ!」
散弾の弾は空へと舞い上がり、頂点へ達すると同時に増殖が始まり、二人が戦闘をしている野原を覆うほどの数へと増殖していく。
すると、宙で増殖しきった弾丸全てに雷の邪術が付与される。
無数の雷撃は天から降り注ぐ槍となり、アゲハだけでなくシャムすら巻き込んでいく。
それはまさにシャム渾身の自爆技。
だが、シャムには最後の心臓が残っており、それを再生に回す算段だ。
シャムの体内で生成される全ての渦が増殖の邪術に当てられ、百種に及ぶ邪術の嵐ランダムバレットと空からの雷撃カオスダイブの二つがアゲハを押しつぶしていく。
「ああああああ!」
アゲハは叫び続け、何度も奥義を発動させるが、その身は徐々にシャムの弾丸によって削られていく。
だが、それはシャムも同じ。
降りかかる雷により身体は焦げ落ち、アゲハの斬撃で四肢は全て吹き飛んだ。
同時に、シャムの再生がオートで発動する。
ダメージを負いながらも、心臓に内包されている渦の量が許される限り、再生は継続される。
負傷と再生を繰り返しながら、シャムは霞む視界の中、それを見た。
「う……そ……」
弾丸の嵐の中、アゲハは剣舞を舞っていた。
回避可能な弾丸は踊りながら避け、直撃コースの攻撃は刀で切り落とし、妖刀による斬撃拡張の邪術でうち払い、さらには自前の念力の邪術も発動させて弾丸の軌道を逸らす。
二つの邪術を同時発動させた上で蝶流剣術の奥義も繰り出し、あまつさえ舞いによる回避行動を行う異常性を前に、シャムは呆気に取られてしまう。
だが、渦が続く限り増殖の邪術で弾丸の嵐をアゲハに降らせ続けることは出来る。
そう確信したのも束の間、シャムの視線がアゲハの舞にくぎ付けになってしまい、全身の力が抜けていく。
それはメリッサからの報告であった、蝶流剣術の舞自体が邪術として成立してしまう能力、魅了の邪術。
無意識化で惚けたシャムは増殖の邪術が解け、暴風雨のように荒れ狂っていた弾丸達が一斉に消え去る。
「……っ! しま――」
そう気づいた時には遅かった。
アゲハは全身血だらけになりながらも演舞を解き、力強い一歩でシャムとの距離をゼロに縮めた。
再生の効果が既に切れたシャムへ、アゲハ渾身の連撃全てがその身に直撃した。
斬撃と衝撃で、身体が後方へ吹き飛ぶ。
意識も飛び、最後に視界に入って来た曇り空を眺め、シャムの脳裏に遠い記憶が走馬灯のように流れはじめた。




