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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第二章 因果ノ楔
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因果の足音 p.6

 この尋常じゃない対応力は一体……

 シャムは内心驚きつつも、あくまで平静を装ってアゲハへの攻撃を続ける。

 八つの心臓のうち一つを潰し、放ったのは圧縮の邪術。


 一定の領域内の物質を原子レベルまで圧縮させる邪術だが、さきほどからアゲハは勘の良さで圧縮が発生する前に、効果範囲から異常な速さで抜け出していく。


 アゲハが逃げ出す先を狙って銃弾をお見舞いするが、そのいずれもがアゲハが凪いだ刀によって全て切り落とされていく。


 その間アゲハが接近の隙を探ってシャムの周りを走り、そうはさせまいと圧縮の邪術と銃弾の連携で相手との距離を保つが、その均衡が破られるのは近い。


 シャムが放った銃弾を切り落とされるたびに、アゲハの持つ刀の気配が増していくのを感じ、背中から嫌な汗が噴き出る。


 あの刀、何か細工がある。

 思考し、シャムは一つの手段に出た。

 圧縮の邪術を解除し、次の心臓を握りつぶす。


 発動したのは風を自在に操って放つ”かまいたち”。

 野球ボールサイズの竜巻を手のひらに乗せ、シャムはそれをアゲハめがけて投げる。


 竜巻は空中で二つ、四つ、八つと数を増やしていき、三十二個の小さなかまいたちの竜巻が変則的な軌道を描いてアゲハを四方八方から襲い掛かる。


「――フッ!」


 短い呼吸を入れ、アゲハは立ち止まって居合の構えから刀を抜刀。

 刀は複雑な曲線を描き、かまいたちの竜巻を切り裂いていく。

 その瞬間を、シャムは見逃さなかった。


 刀はかまいたちを切りさく瞬間に、それを刀身へ吸い込んでいる。

 あの刀、邪術を吸収して自分の力に変えているんだ!

 確信を得た瞬間だった。


 アゲハがまたしても居合の構えに戻り、シャムへと身体を向ける。

 距離は二十メートルほど。

 明らかに刀では届かない距離だが、シャムの直感が自身の身体を横へと側転させた。


 瞬間、アゲハが縦に刀を抜き放ち、その軌跡に沿って紫色のオーラを帯びた斬撃が大地を抉って天へと駆けていく。

 斬撃は三十メートルも飛び、シャムの後方の木々を斬りはらう。


 吸収した分の渦を放出させて飛ぶ斬撃にしたのか。

 ギリギリの所でそれを避けたシャムだったが、アゲハの追撃が容赦なく襲ってくる。

 一瞬だけ斬撃へ意識を持っていかれた隙を突かれ、アゲハはシャムの目の前まで接近していた。


「はやっ!」


 思わず驚きの声を上げ、シャムは邪術を発動させようとしたが、遅かった。

 弾丸のように突撃してきたアゲハはシャムとすれ違いざまに刀を全力で振るった。


 一瞬で放たれた四連続の斬撃はシャムの右肩、左ふともも、さらには邪術で出現させていた残りの心臓六つのうち二つも切り裂いた。


 身体全体を震わせる衝撃がシャムを襲い、その身を吹き飛ばされて地面へ激突した。

 水たまりに落ちたシャムは泥に塗れ、激痛に追い打ちをかけられるが、すぐに立ち上がり、アゲハへと銃口を向ける。


「ハァ……ハァ……邪術を斬るなんて反則じゃない?」


 強がって笑って見せるが、シャムはちらりと横に浮かんでいる心臓へと視線を向けた。

 まだ六つも残していた心臓が、強制的に切り割かれて残り四つとなっている。


 本来渦の塊である心臓は術者のシャム以外触れることすら出来ず、これを消滅させる相手は今まで現れることがなかった。


 攻撃も回復も、心臓のストックを中心に戦うシャムにとってアゲハは相性最悪だ。

 途端、斬られた傷口が痛み出し、シャムの力も抜けていく。

 地面へ膝をつくが、どうにか銃口だけはアゲハに向け続ける。


「うわ、その刀、斬った相手の渦も吸収出来るんだ……」


 気づけば渦による身体強化が弱まっており、常人のレベルに近い身体に戻ったことで痛みに拍車がかかる。

 戦況有利であるアゲハは、苦悶の表情でシャムを睨んだ。


「私は戦いを望んでいません! もう止めましょう!」


 そう彼女は叫ぶが、シャムはにやりと歯をのぞかせて笑い、首を横に振る。


「悪いけど、そうはいかないかな」


 そう言って心臓をもう一つを握りつぶす。

 心臓は渦へと変換され、シャムの身体へと流れ込んでいく。


 このまま邪術を発動させれば、心臓の元の持ち主の邪術を渦が続く限り使えるが、この過剰な渦をシャムは自身の身体に眠る獣の因子へと送る。

 身体が震えだし、体内で欠損した部分の肉が膨張して傷口を塞いでいく。


「再生能力⁉ まさか……」 


 驚愕するアゲハを放り、シャムは完治した両足で立ち上がり、銃口を下げる。

 体内の渦を回し、その全てを手元への銃へ一気に流し込んでいく。


「私は契約者じゃないよ。獣を操る実験で獣の因子を身体に埋め込まれた、獣人間のなり損ない。組織では誰もが私を忌避した。けど、メリッサだけは私に優しく接してくれたんだ」


 銃の側面から渦が溢れだし、緑色のスパークが強く光り輝く。


「だから分かるんだ。きっとメリッサは組織で立場を悪くしてでも君を助けようとする」


 強烈な渦の気配が辺りを充満し、アゲハは刀を構える。

 シャムは銃へ渦を注ぎ続け、アゲハを睨む。


「組織も、財閥も後に引けないところまで来てる。きっと二人が願っても、和解は訪れないし、二人とも復讐の渦に飲まれて死ぬかもしれない。それなら、私はメリッサを守るために、君を討つよ」


 臨界点にまで達した銃をかかげ、シャムは口をゆっくり開き、切り札発動のトリガーを紡いだ。


転生開始リバース・オープン――」

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