表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第二章 因果ノ楔
77/87

因果の足音 p.4

 宙を舞っていたメリッサは、瓦礫の山となったそこに着地するが、警戒は未だ崩さない。

 いつの間にか異界の空間が解かれ、現実空間に戻されたことで、空から雨が降り始めていた。

 顔に雨が当たり、メリッサは空を見上げると、空で待機させていた輸送ヘリを視界に捕らえる。


「作戦通り、そこで待機」


 徐にヘリへそう指示を出し、耳元のインカムから『了解コピー』と返事が返ってくる。


『おいやべーぞメリッサ。乱戦続きからのこいつとの戦闘だ。あんまり渦が残ってねぇ』

「分かってるわよ」


 鬱陶しいと言わんばかりにルーズへ返答をするが、状況が芳しくないのは事実だ。

 すると、瓦礫を蹴破り、十メートルほどの柱が上る。


 それは、腐敗した肉とボロボロの骨で出来た柱だった。

 その頂点には、さきほどの攻撃で体中がボロボロのルストが立っている。


「良いねぇ、アリスちゃん! あの弱虫泣き虫アリスちゃんだった頃と比べたら本当に成長したなぁ!」

「あの時死んだのはアリスだ! 今ここにいるのはメリッサだ!」


 言い返して放ったメリッサの渾身の弾丸はしかし、ルストの足下に伸びる柱から新たな壁が作られて弾かれる。


「人間の弱さはそう簡単になくなりはしねーよなぁ、アリスちゃん」

「だからその名で私を――」

「秋道アゲハ」


 唐突に出てきた名に、メリッサの手が思わず止まる。

 ルストはそれを見て楽しげに笑った。


「あの子、良い娘じゃねぇの。お前の事話したら”貴方にメリッサの何が分かるんですか”だとよ」


 さきほどからルストの話術に気を動転され続け、目眩がしてくる。

 メリッサは照準を外さぬようにルストを睨む。


「今頃どうしてるかねぇ。財閥にしばらく身を寄せて知り合いやお友達も作ってたみてーだし、今回で被害も出ただろうよ、スリンガーに恨みを芽生えさせたりしてな」

「……アゲハに何をした」

「何も。”あいつには”何もしてねーよ。本当だ」


 どこまで減らず口を。

 メリッサは両手の銃を構え直し、身体の中に残った渦を回す。


「あの子は人を恨むような子じゃない。私も彼女も、理解しあえる事が出来る」

「契約者とスリンガーだ! お前等は恨み恨まれるのが定めなんだよ、諦めな!」


 ルストも両手を広げ、渦の気配が空気中へ広がる。

 これ以上こいつと会話をする意味は無い。

 メリッサは白の女王を空へと向けて戦闘態勢に入る。


 最初に動いたのはルスト。

 足下の死体の柱へと両手を叩きつけた。


「目を覚ませ死霊ども! ゲヘナゲート!」


 瞬間、メリッサを囲んで八つの死体の柱が現れた。

 柱一本毎から、人間や動物、獣の死体が飛び出し、メリッサへと一斉に襲いかかる。


 だが、敵の最大火力を予想していたメリッサも準備は既に終えていた。

 渦をため込んだ白の女王から、激しいスパークが溢れる。


「バレット・ダンス!」


 巨大な火の玉が空へと駆ける。

 銃を転生させた状態で放ったそれは、前回財閥と戦闘した際に披露した威力とは桁が違う。

 上空へ上がった玉の数は五つ。


 火炎の大玉が破裂すると、その玉一つずつから、数百の弾丸が地上へと降り注いでいく。

 地上を覆うゾンビの群れへ、空から降り注ぐ隕石に似た弾丸が襲う。


 爆炎の隕石はゾンビや地面に激突する度に小規模の爆発を起こし、数え切れないほどの爆炎があちこちで上がる。


 メリッサとルストはその中をくぐり抜けながら、互いに銃弾を放る。

 極限状態の中での激しい攻撃を迎撃できるはずもなく、メリッサとルストは身を削り合っていく。


 肩をゾンビの爪に裂かれ、ルストの銃弾で腹も撃ち抜かれるが、それでもメリッサは攻撃の手を止めない。

 ルストは爆炎の雨に飲まれ、その身を焦がすが、致命傷を負っても立ち上がる。


「もうここで終わらせましょう、ルスト。貴方との因縁は、教団が潰えた時から終わってるのよ!」

「それは俺の台詞だ!」


 互いに一歩も譲らない状態だったが、拮抗が崩れたのはメリッサが放った銃弾の雨が止んだ時だった。


「く!」


 思わず歯噛みするが、相手はそれを見逃さない。


「渦が切れたか!」


 好機と見たルストが空いた片手をメリッサへ向ける。

 すると、爆炎によって身体のほとんどを欠損していたゾンビ達が形を変え、ルストの身体にまとわりつくと、一つの個体に収束していく。


 それはまさに生きた津波。

 ルストの周りをぐるぐると周り、その勢いを増していく。

 対するメリッサは赤の女王を持ち上げ、津波と、その向こうに立つルストへ照準を合わせる。


 確かに渦はほぼない。だが、赤の女王が持つ能力で一発限りの大技を放てる。

 赤の女王からもスパークが漏れ、その発光はメリッサが戦闘を行った一帯に発生する。


 地面や宙を走る大量のスパークは赤の女王へと収束していき、銃へ込められていく渦の量が増大していく。


 赤の女王の邪術、”収束”はメリッサが放った邪術を渦に変換して集めることが出来る。

 互いの余力をかき集め、最後の一撃が放たれる。


「死体の波に溺れ死ね! カダヴァーウェーブ!」


 死骸の血肉と骨は黒死の荒波となってメリッサへ襲いかかる。

 だが、メリッサもこの一撃に賭けて、最後の引き金を引いた。


「アンコール!」


 赤の女王から放たれたのは渦の奔流を一点へと放出させる赤熱の炎。

 爆炎の光線は死体の波に激突し、それを焼き討たんとその威力を上げる。


 収束させた分の渦を全て放出するまで銃の振動は止まず、メリッサはそれを必死にルスト目掛けて照準を合わせ続ける。

 死骸の津波と爆炎の奔流が互いにぶつかり合い、周囲へ強烈な衝撃を飛ばして地面を揺らす。


 爆炎は津波を次々と蒸発させていき、ルストへ向かって貫通していくが、その勢いは目に見えて落ちていく。


『メリッサ、限界だ!』

「く!」


 ルーズが叫ぶと二丁だった拳銃が元の一丁の銃へと戻り、メリッサは同時に前へ突進した。

 爆炎は死骸の波のほとんどを削りきったところで消失するも、僅かに残った死の波はルストを守らんと薄い盾となって居座り続けた。


 邪魔をする最後の壁を、メリッサは体当たりで無理矢理ルストへの道をこじ開けた。


「ルスト!」


 メリッサが銃を構えた途端、それはルストが放った銃弾によって手元から弾かれた。

 メリッサの接近を予測していたルストが一枚上手だった。

 死体の波からメリッサが身を出したと同時、照準を手元のルーズに合わせていたのだ。


『メリッサー!』


 メリッサの手から弾かれたルーズが遠くで叫ぶ。

 銃もなく、ナイフもなく、渦もほぼ切れて無防備状態になったメリッサを前に、ルストはこれまで以上の笑みを浮かべた。


「あばよ、アリスちゃん」


 爆音は、二つ上がった。

 一つはルストの銃、もう一つは、メリッサの片足から生まれたラビットダンスによる小規模の爆炎。


 僅かな加速によってルストの銃弾の狙いからギリギリ逸れたメリッサはルストの懐へと潜り込んだ。


「おいおい――」

「あああ!」


 叫び、放たれたのはメリッサ渾身の拳。

 ステゴロで来られるとは思っていなかったルストは思わず後退するが、その顔面にメリッサの拳がたたき込まれた。


 同時に、搾りカス程度に残っていた渦から捻出した爆炎が発動し、ルストの頭部を吹き飛ばす。

 死に至らしめることは出来ない、だが、数秒ほど再生で身動きが取れなくなるはずだ。


「今よ!」


 メリッサがインカムを通して合図を送った。

 遙か上空で待機していた輸送ヘリから、一本の槍が射出された。


 それはこれまで使用されていた避雷針に酷似した小型の髑髏の槍。

 地面に大の字で倒れるルストの胸に、その槍は深々と突き刺さった。


「ごほあ!」


 頭部の再生が終わった直後に大量の血を吐き出したルストは、己に刺さった槍を見上げる。


「んだ、これ……渦が、うまく回らない」

「捕縛用の呪具、邪殺槍ソリッドランス。それに貫かれている間、邪術がうまく発動できなくなる」


 ルストは槍を抜こうとするが、力が入らず、その手はすぐに滑り落ちる。


「詰みよ、ルスト」


 長年の因縁を捕らえることに成功し、メリッサは王手を宣言した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ