因果の足音 p.3
シャムと楓が出会う少し前に、メリッサとルスト、二人の殺し合いは佳境に入っていた。
互いの銃が銃弾を放った反動で跳ね上がり、弾丸が二人の頬をかすめる。
二人は並走しながら弾丸を撃ち合い、渦の身体強化によって研ぎ澄まされた反射神経で弾丸を撃ち落としては回避していく。
だが、ルストは施設の屋根からメリッサへ弾丸を降らす一方、下から銃撃をするメリッサの弾丸は施設の壁に阻まれ、地上から頭上のルストの姿を追うのは困難を極める。
次第にメリッサは回避と迎撃にリソースを裂かれ始め、相手の攻撃が激しくなっていく。
『地理的に不利だぞ!』
「分かってる」
ルーズの訴えに短く答え、メリッサは爆炎の邪術を足元に発動。
爆発の推進力による高速移動、ラビットダンスによって宙を舞い、それは建物の高さを優に超え、ルストの頭上へと登る。
「全力で行くわよ、ルーズ!」
『よし来たぁ!』
ルーズから大量の渦が漏れ出している証拠の緑色のスパークが発生し、その光はルストの視界すらも一瞬奪う。
「転生開始――」
メリッサの呪文と共に、ルーズから出る光がさらに強まる。
「――私の弾丸は悔恨」
ルーズへと流れ込んでいく渦にはメリッサの悔恨が込められ、ルーズという銃を深化させ、その姿を二つに分断する。
激しい光が収まり、メリッサの手に握られたのは二丁のハンドガン、”|白の女王と赤の女王(ヴァイス&ロート)”。
二丁共に銃剣が装備され、細身の純白の銃は白の女王、対照的に厳ついフォルムをした銃は赤の女王と呼称されている。
美しさの中にまがまがしさを孕んだ二丁の拳銃を、メリッサは宙から真下にいるルストへと向ける。
「おぉ、おぉ。派手だねぇ」
切り札が披露されてもあの男はヘラヘラした態度を崩さない。
あのいけすかない態度の男へ鉛玉をぶち込む。
メリッサが放ったのは白の女王の連続射撃。
一秒間に五十発近い弾丸を飛ばすそれは、薙ぎ払えば対象を両断する銃弾の鞭へと変貌する。
「甘ぇよ!」
ルストが片足で床を叩く。
影の中から幾つもの死体が現れ、それは粘土のように引き延ばされるとルストを覆う簡易シェルターへと変貌した。
銃弾の鞭は横一文字にシェルターを削り去るが、ルストまでは届かない。
「今度はこっちの番だなぁ!」
ルストは銃弾を五発、宙にいるメリッサへと発砲する。
空中だろうと、ラビットダンスで宙を自在に駆けることが出来る。
爆炎の衝撃で右へとズレるが、異変は起きた。
ルストが発砲した銃弾が弧を描いてメリッサを追尾した。
「な!」
驚愕と衝撃は同時に襲ってきた。
メリッサが纏うロングコートは獣の死骸から出来た素材だ。
銃弾程度であればコートを貫通することはないが、衝撃までは逃がせない。
五発の銃弾がコート越しにメリッサを叩き、ルストのいる屋根へと突き落とされる。
落ちた衝撃で埃が舞い、その威力をまざまざと示す。
「もう終わりか、スリンガー」
ルストが埃に埋もれたメリッサへ言うと、返事の代わりに埃の向こうから赤い光が漏れ出す。
「お?」
埃を割いて現れたのは巨大な火炎弾。
屋根を抉りながら直進してくるも、ルストは動じない。
ルストの足元の影から噴き出したのは腐敗臭を帯びた血。
ルストはその血の上に両足を乗せると、高速移動で滑るように屋根の上を走り、火炎弾の軌道から回避する。
「つまらん攻撃しちゃってまぁ」
通り過ぎていく火炎弾を見送った瞬間、ガチャリ、と近くで金属音が鳴った。
振り向くと、両足から火の粉を纏って宙を舞うメリッサがルストの後ろに回り込んでいた。
「遅い」
至近距離から放たれたのは、さきほどの火炎弾を発射させた赤の女王の銃弾。
連射速度に長ける白の女王とは対照的にこちらは威力を最大限に拡大させた一撃を放つことが出来る。
ルストを包み込むほどのサイズとなった火炎弾は、目標を抱えながら床を突き破って建物の一階まで叩き落とす。
爆発は施設を一階まるごと吹き飛ばし、さきほどから戦闘の余波を受け続けた建物は、とうとう崩壊する。




