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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第二章 因果ノ楔
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這いずる過去 p.10

 外から響く爆音は、施設内で負傷者の手当をしていた楓の耳にまで届く。

 施設が揺れる度に、非戦闘員でありながら後方支援に買って出た楓達は恐怖で背筋が凍る。

 楓は目の前の負傷兵に包帯を巻いていくが、男は痛みでさきほどから唸り続けている。


「あいつら……絶対に地獄にたたき落としてやる!」


 兵士の怨嗟が楓にも伝わってきた。


「大丈夫です。きっと、他の兵士さん達がスリンガー達をやっつけてくれます。だから貴方も頑張って」


 必死に兵士を励ましていると、爆発が楓のいる施設を直撃した。

 人々が悲鳴を上げ、施設の一部が倒壊する。

 外へと繋がる大穴が出来ると、そこからスリンガーが数名入り込んできた。


「財閥の勢力を確認、応戦しつつ、原典の頁を探せ! 銀色のケースに入っているはずだ!」


 スリンガーが叫び、銃を構えた。


「立ち上がれお前等! 非戦闘員を守れ!」


 誰かが叫び、負傷兵と護衛に回っていた兵士達が一斉にスリンガー達へと立ち向かう。

 場は悲惨の一途を辿った。


 ほとんどが負傷兵しかいないこの空間で、スリンガー達の攻撃を防ぎきることが出来るはずもない。

 武器を持たない負傷兵は非戦闘員を覆い、肉の壁となって銃弾から守る。

 それは、楓が手当をしていた兵士も同じ行動をとる。


「ま、待ってください! やめて!」


 楓は覆いかぶさって来た兵士に向かって必死に訴えるが、地面に抑えつけられてうまく身動きが取れない。

 男は背中に無数の銃弾を受け、苦痛で顔を歪めるが、唸りながら激痛に耐える。

 だが、弾丸の雨を凌げるはずもなく、男は力を失って楓の横に逸れて倒れた。


「逃げ……ろ」


 男はそれだけ言うと身体中から力が抜けて事切れる。


「い……や」


 楓はそれを見て頭を振る。

 脳裏に浮かぶのは父がスリンガーに殺されたあの日。

 過去のトラウマが楓の呼吸を荒くする。


 気が動転して今にも卒倒しかけた時、懐に入れていた物が手元にこぼれ落ちた。

 それはルストから手渡されていた、銀色の筒型ケース。

 中に本物の原典の頁が入っているか定かではないが、ルストの言葉が今になって思い出される。


『それは俺たちにとって身を守るための切り札だ』


 楓はケースを拾い上げ、スリンガー達が開けた大穴とは逆方向の出口へと這う。

 出口近くへ到着した頃には、防衛に回っていた兵士のほとんどがすでに討たれてしまい、残っているのは負傷兵と非戦闘員のみだった。


 もう恐れている場合ではない。

 楓は大きく息を吸って、力の限り叫ぶ。


「私がケースを持ってる! 追ってきなさい!」


 それだけ言うと、楓は全力で走り出した。

 背後でスリンガー達が「追え!」と叫ぶ声がした。


 追いつかれる前に早く遠くへ逃げなくては。

 そう決心したのも束の間、楓のすぐ横に沿っていた壁が吹き飛ぶ。


 楓もその衝撃で飛ばされ、床へと叩きつけられた。

 スリンガー達は楓が逃げた方向へ雑に邪術を撃ったのだ。

 痛みで動けなくなった楓に、スリンガー達が歩み寄る。


「ケースを発見。中身を確認する」


 スリンガーの一人がそう言って楓へ銃を向けた。


「お父さん、アゲハ」


 死を覚悟して楓が目をつぶると、銃声が鳴った。

 だが、その銃弾が楓を穿つことはなかった。


 銃弾は楓の前に立ちふさがったスリンガーの心臓へ直撃していた。

 そのスリンガーは身体をびくりと震わせ、床に崩れ落ちる。


「……え?」


 楓が疑問の声を上げると、外から施設内へと増援の兵士達が流れ込んでくる。


「スリンガーを撃て! 非戦闘員は逃げろ!」


 必死の形相で兵士達はスリンガーと戦闘を繰り広げていく。

 楓の元へも、兵士達が乱入してきた。


「くそ、契約者どもが!」


 スリンガー達も悪態をついて応戦するが、不意を突いてきた兵士に挟撃され、死の弾丸を前に倒れる。

 敵の返り血を浴び、放心した楓に駆け寄ってきた兵士が身をかがめる。


「君、大丈夫か! て、それは……」


 兵士は楓が手に持ったケースを見て状況を理解した。


「私とついてきなさい。君だけを放っても奴らに殺されてしまう。護送車で逃げ回るぞ」


 兵士が楓の腕を抱えて無理矢理立たせた。


「は、はい!」


 楓は卒倒しそうになるのを必死に堪え、ケースを握り締めた。

 だが、そのケースの底から、小さな赤いランプが点滅しているのを、その場の誰もが気づかないでいた。



 クロエが目を覚ますと、体中が鎖で縛り上げられ、口には猿ぐつわを巻かれていた。

 広めの部屋の中には、三十名ほどの人々がいるが、ほとんどが女子供だ。


 どういう状況だ?

 そう見渡していると、クロエの隣に立っていた兵士が気づいた。


「よう、目が覚めたか」


 そう言われても、口を塞がれたのでは返事は出来ない。

 クロエは兵士を睨むが、襲われることはないと理解している兵士は鼻で笑う。


「ふん。お前をすぐにでも撃ち殺したいところだが、ヒンメルさんがお前を捕虜にしたいんだとよ。万が一の時はここの避難民達を守るための人質になってもらう」


 組織の者達が一人のために躊躇するような集団ではないことをクロエは知っているが、捕虜になって組織の情報を抜かれるのはまずい。

 身動きの取れない状況で、クロエが唯一分かるのは外で戦闘が既に始まっていること。


 外がどうなっているか分からないが、”保険”がそろそろ働くはずだ。

 アゲハに取り押さえられた部屋で原典の頁が入ったケースを見つけた時、クロエはすぐにとある細工をしていた。


 頼むから気づいてくれよ、メリッサさん、シャムさん。


 

『こちら管制室。銀色のケースを所有した財閥の一員が五名確認されました』

「えぇ!? ダミーも紛れ込ませてるの? 用意周到過ぎだよ!」


 戦場を走るシャムはつい泣き言を漏らす。

 少しずつ敵の情報を引き出せてきてはいるが、決定打に欠ける。

 やきもきしていると、再度管制室から通信が入ってきた。


『信号を受信しました。これは……クロエさん?』

「もう! クロエったら自分の位置情報送る暇があるなら通信で直接話してよ!」


 シャムは頬を膨らませて苛立つが、すぐに違和感に気づいた。

 そうだ、直接話さずに位置情報だけを送ってくるとはどういうことだ?

 財閥への襲撃を始めてからクロエから連絡がないところを見ると身動きが取れない状況のはずだ。


 戦闘が始まって大分経ってからの救難信号というのもおかしい。

 それではこの信号の意図は。

 そう逡巡し、シャムはインカムに触れる。


「管制室! その信号、どの辺りで観測されたの?」

『ケース発見の報告があった位置とほぼ同じ箇所です』


 クロエが原典の頁に発信機をつけたんだ!


「私がその信号を追う! ナビして!」

了解コピー


 オペレーターの声を頼りに、シャムは方向転換をして再び駆ける。

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