這いずる過去 p.9
「そいや!」
間の抜けたかけ声とは裏腹に、シャムの蹴りは人間のそれを大きく上回る。
財閥の兵士は強化外骨格の腕で防いだものの、鋼の腕はひしゃげた。
衝撃で吹き飛ばされ、兵士は窓を突き破って建物の中へと叩き入れられた。
シャムは追撃のため、同じ窓から建物へと飛び込む。
「舐めるなぁ!」
飛び込んできた勢いで宙に浮いたままのシャムへライフルをお見舞いするが、シャムは宙で身体をぐにゃりと曲げた。
それはまるで猫のような俊敏さと柔軟さ。
銃弾を避けながら放たれた蹴りは、兵士の頭ごと地面へとたたき落とされた。
その一撃で気を失いかけた兵士を持ち上げ、シャムは後ろに待機していた隊員へ振り向く。
「よし、お願いして良いかな?」
「了解」
女性隊員はシャムが下ろした兵士の頭に触れる。
それを準備完了と認識したシャムは兵士を見下ろす。
「質問。原典の頁はどこかな?」
「そんな事、教えるはずがないだろ」
男は意識が朦朧としながらも、口を割らない気でいる。
だが、兵士の頭に手を当てていた女性隊員が頷いた。
「原典の頁自体はまだこの拠点にあるようです。もう少し話をしてみてください」
「な、に?」
兵士は驚きの声を上げ、シャムは得意げにその様子を見る。
「この子の邪術だよ。読心系の邪術。君が頭の中に思い浮かんだ事を読むから、教えたくないことは、ぜーったいに考えないこと」
考えるな、と言われると逆に考えてしまう。
それを知っている上でシャムは兵士へとアドバイスを送った。
露骨に焦り始める兵士に、シャムは再度質問をする。
「原典の頁は、どこにあるの? もしくは、誰が持っているのかな?」
「クソッたれが」
脂汗を浮かべる男は悪態をつき、女性隊員はしっかりとそこから情報を抽出していく。
だが、女性隊員は怪訝な顔を浮かべ、シャムへと振り向いた。
「分からない、とのことです。どうやら、財閥の中にいる誰かに銀色のケースに入れられた原典の頁が渡されていて、それが誰なのかは全員教えられていない、と」
「うわ、その作戦考えた人せこいことするねぇ」
しかし、何かしらの情報は引き出せた。
そう思っていると、男が笑い出す。
「はは、見たことか悪魔ども。お前達への罰は今に--」
男の悪態を聞き終えることなく、隣にいた女性隊員が男を銃で撃った。
脳天を撃ち抜かれた男はそのまま事切れ、場に静けさが残る。
「どうしますか? この様子だと他の兵士を捕まえても同じ内容しか出てこないかと」
何事もないという態度で女性隊員はそう言い、シャムはその女性と討たれた男を見て頷く。
「……しらみ潰しするしかないね。全隊員に今の情報を通達しておいて」
「了解」
女性隊員はそう答え、シャムから少し離れて耳のインカムから全員への連絡を始めた。
それをよそに、シャムは事切れた男をもう一度見下ろす。
「罰は受けるよ。でもそれは今じゃない」
誰にも聞かれないほど小さな声で、シャムは一人ささやいた。
四方八方から降り注いでくる銃弾の中を、アゲハは全速力で走る。
「なんだあいつのスピードは!」
スリンガーのウチ一人が声を上げるが、アゲハは返答の代わりにその者へ峰打ちを放つ。
その一撃で肋骨を折られたスリンガーは白目を剥いて気絶した。
渦の量と質によって身体能力の向上は個々に違うが、獣の祖の本体と直接繋がって支配下に置いているアゲハは、獣の祖が所有する渦をそのまま貰うことが出来、ほぼ無限の量と高品質な渦を手に入れている。
アゲハは誰も追いつけないほどの速さで戦場を駆け、スリンガー達の銃弾を避けながら、直撃コースの弾は光の速さで抜かれる居合いの刃で打ち払っていく。
アゲハがいるのは避雷針が落とされた近く。
前回の強襲でメリッサがその避雷針の防衛に回っていたと聞いていたことから、ここにいる可能性が高いと踏んだが、アテが外れたかもしれない。
次々とスリンガー達を峰打ちによる殴打で昏倒させ続けるが、探し人が見つかる気配がない。
遊撃を許可されているアゲハは他の場所へいつでも向かうことを許されている。
他を当たるか、と検討していた時、スリンガー達の反撃が財閥の兵士達へと放たれる。
「怯むなぁ! 撃ち返せ!」
負けじと兵士達もそれぞれの武器と邪術でスリンガー達と戦い、場は拮抗する。
奇しくもアゲハがいるのは激戦区。
避雷針さえ落とせば非戦闘員の退避を始めることが出来る。
そう考えるとどうしてもメリッサを探しに行く前にアレを落とす必要がある。
何名ものスリンガーに阻まれて遠くに見える槍を睨み、歯がゆさにアゲハは肩を震わせ、渦中へと飛び込んでいく。




