這いずる過去 p.8
財閥の拠点と思われる上空にたどり着いたのを確認し、メリッサは耳につけたインカムに触れる。
「これより敵拠点への強襲を始めるわ。各々、作戦に沿って動くこと、いいわね」
メリッサが乗っている輸送ヘリと、その周りを飛ぶ他のヘリに搭乗している隊員達から『了解』と返事が返ってきた。
いよいよ作戦が始まる。
そう心の準備をしていたとき、突然メリッサの顔面に黒い双丘が襲う。
「メリッサ-!」
「ぅぐ!」
その正体はシャムの胸。
インナー越しでも分かる大きさの胸を押しつけられ、柔らかいながらもメリッサの呼吸を止めるには十分だった。
「ぶは、ちょっとシャム!」
「メリッサ、元気ないよー、これからが本番なのにー」
『もっと言ってやってくれよシャムの嬢ちゃん。ウチのメリッサはどうも辛気くさくて息が詰まりそうになっちまう』
ちゃらんぽらんなシャムとルーズの態度に、メリッサは目をつぶって必死に怒りを抑える。
「貴方たちね、作戦開始前よ、ふざけてる場合じゃないでしょ」
「開始前だからだよ、リラーックス」
未だ胸を押しつけられ、メリッサの怒りの沸点が頂点に達しようとしていた。
この邪魔なブツ、もぎ取ってやろうか。
唐突にシャムの拘束から解放されると、シャムがメリッサの顔を覗き込んできた。
「メリッサ、約束して。困ったことがあったら私を頼ること。私はいつだってメリッサの味方なんだから」
「……分かってる」
思わず目を逸らすが、シャムの想いは十分に伝わってきている。
二人がそうこうしていると、ヘリの後部ハッチが開き始めた。
シャムはにしし、と笑いながらメリッサから離れてVサインを送ってくる。
はいはい、と適当にあしらうが、いつの間にか笑みを浮かべていた。
ハッチが完全に開くと外との気圧差で大量の空気が外へと流れ出すが、渦による身体強化で簡単にその場で踏みとどまる。
財閥の拠点を肉眼でヘリから見下ろすことが出来る。
メリッサとシャムがハッチの縁に立つと、それに習って隊員たちも後ろで整列した。
すると、輸送ヘリの合間を縫って、何かが目標の拠点へと音速の域で飛んでいった。
獣の骨で組み上げた巨大な邪術槍、避雷針。
骸骨の槍は拠点のほぼ中心部へと落下し、遠くからでも確認出来るほどの土煙を上げた。
瞬間、紫色の光が立ち上り、拠点とそれを三日月型に囲む山、そして接近していたメリッサ達のヘリを飲み込んで異界を形成した。
全員が檻に閉じ込められたことを確認し、退路がなくなったところでメリッサは手を上げる。
「作戦開始!」
号令と同時に、全員がヘリから飛び降り、眼下に広がる財閥の拠点へと落下していった。
ヘリから飛び降りてくるスリンガー達に対し、地上で待ち構えていた財閥の兵士達がすぐに応戦してきた。
全員が強化外骨格をすでに装備し、銃弾で迎え撃ってくる。
スリンガー達も落下しながら銃弾をお見舞いした。
銃弾の応酬が合図となり、組織と財閥の再戦の火蓋が切って落とされた。
遠くから飛来してきた避雷針は、拠点に着弾した衝撃で辺り一面を大きく揺るがした。
アゲハもその衝撃で足をすくわれそうになるが、踏みとどまる。
同時に、異界の展開が始まり、天地がひっくり返るようなあの不快な感覚がアゲハを襲う。
ぐらりと頭が揺れ、気づくと空は紫一色に染まりきっていた。
その空を見上げていると、ヘリが数台飛んでいるのが見えた。
そこから黒い影が幾つも落ちていくのが見え、あの一つ一つがスリンガーであることは、容易に想像できる。
財閥の兵士達と肩を並べてそれを見ていたアゲハは、手に持っていた刀を強く握る。
「メリッサ……あの中にいるんだよね」
自然と声が漏れるが、それを聞く者は誰も居ない。
兵士の誰かが「応戦開始!」と声を上げ、全員が走り出す。
アゲハもそれに続いて駆け出し、戦場へと突撃した。
地上へ激突する直前、メリッサは両足から爆炎を撒き散らし、落下の衝撃を相殺して着地した。
辺りにあるのは林と数件の建物。
だが、すぐにそこへ財閥の兵士達が現れた。
「出たなスリンガー!」
兵士が手に持ったアサルトライフルを乱射してきた。
だが、メリッサはラビットダンスによる高速移動でそれを容易く回避し、兵士の頭上を舞う。
「その程度で立ち向かわないで」
一言を添え、銃弾を放つ。
それは兵士の頭を撃ち抜き、絶命へと到らせた。
『おぉ、おぉ、メリッサちゃん容赦ないじゃないの』
「こんな時まで茶化さないで。今はそんな気分じゃない」
そう言ってメリッサは拠点の中心部へと走り出す。
頭上からは次々とスリンガー達が降下し、それぞれの邪術によって地上に着地してきている。
メリッサの役割はなるべく戦場で敵のヘイトを買ってシャムが原典の頁捜索に時間を割けるようにすること。
身体の中の渦を練り、ルーズへとそれを流し込むと、装填されていた銃弾に爆炎の邪術が付与される。
「敵を引きつけるわよ!」
『そうこなくっちゃなぁ!』
メリッサが撃った弾丸は近くの建造物へ着弾すると同時、五メートルほどの爆発を巻き起こす。
コンクリートは抉れ、建物の半分が消し飛ぶ。
その威力により、メリッサが戦力的に要注意であることを敵に示した。
狙い通り、財閥の兵士達がメリッサへと群がってきた。
アゲハ、どこにいるの?
胸中に渦巻く疑問を抱えながら、メリッサは兵士達へと応戦する。




