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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第二章 因果ノ楔
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這いずる過去 p.7

 海斗ことクロエを拘束後、ヒンメルとアゲハは分かれた。

 ヒンメルはアゲハが避難民の誘導の手伝いへ行くのを見送った後、奪われかけた原点の頁と、空っぽの筒入れを四本持って廊下を歩く。


 これが今回の作戦の要、ね。

 そう心の中で反芻していると、正面からルストが歩いてきた。


「よぉ、スパイを捕らえたんだってな。撤退戦が始まる前で良かったぜ」

「そうね。それよりもルスト」

「あ?」

「貴方本当は何しに財閥へ来たのかしら?」

「前に言ったろ。”教団”が潰れて暇してたから手伝いに来ただけだ」


 ヘラヘラと笑うルストだが、ヒンメルも不適な笑みを浮かべて睨み返す。


「貴方は嘘をつかない、正直者じゃなかったのかしら?」


 話を逸らそうとしないヒンメルに観念したのか、ルストは面倒そうに頭をかく。


「嘘は言ってねぇし、アンタの”財閥”にどうこうする気はねぇよ。ここはアンタの縄張りだ、指示にゃ従うさ」


 廊下の窓際に身体を預け、ルストは外で慌ただしく走り回る兵士達を見下ろす。


「俺は”母”の命令通り俺ら”代理人”の頭数を揃えた。”教団”を使って母を呼び寄せる準備も完了させた。役目自体は終わってんだよ」


 窓の外を見ていたルストは、ふと、外でアゲハと楓が立ち話をしている様子を捉えた。

 それを見て、ルストは口角を小さくつり上げる。


「財閥に来た理由を強いて言うなら、あの金髪ウサギに嫌がらせしたくてたまらないってだけさ。仮にも俺が手塩にかけて作った教団を潰されたんだ、腹は立つさ」


 そこが本音なのだろう。ルストの瞳に僅かに灯った苛立ちの火をヒンメルは見逃さなかった。

 悪戯をしに来たわけではないようね。

 そう判断したヒンメルは、ルストへ五本の銀の筒を渡す。


「それなら良いわ。なら、もう少し手伝いなさい」

「これは?」

「原点の頁がこのどれかのうち一つに入ってるわ。中身を見ないで兵士の誰かに渡してきてちょうだい」

「あぁ、スリンガーの連中が来たら散らせて陽動に使うのか」

「そう。どうせ向こうも異界を展開させて私達の逃げ場を抑える気よ。なら、このダミーを兵士の誰かに渡して異界の中で逃げ回ってもらう。それで時間を稼いでる間に、展開された異界の解除に力を注ぐわ。異界が解除されたらシェルターに隠していた非戦闘員から優先的に撤退を行う」


 ふーん、とどうでも良いようにルストはヒンメルの話を聞き、原点の頁がいずれかに入っているであろう筒を全て受け取る。


「アンタが人間と馴れ合おうとする行動は良く分からねぇけどよ、最終的な着地点は嫌いじゃないな」


 窓から離れ、ルストはヒンメルと別の方向へと歩き出した。


「あら、どういうことかしら?」

「結局のところアンタも俺と同じで、人間を消すことに変わりないのが面白い、てだけさ」

「言ってくれるじゃない」


 二人は暗い微笑みを浮かべ、それぞれが向かう先へと歩き出した。



「撤退戦に参加するって、どういうことなの楓!」


 非戦闘員の避難を手伝っていたアゲハは、外でばったり会った楓の言葉に驚きを隠せないでいた。


「私も、ここの人達の役に立ちたい、と思ったから」

「危険だよ! ただの戦場じゃないんだよ、契約者とスリンガーが衝突することになる!」

「後方支援の手が足りないって聞いた、それくらいなら私も出来る!」


 今まで感情の一切を見せてこなかった楓がここまで食い下がり、アゲハは困惑した。


「どうして、そこまで」

「子供達が泣いてたんだ、スリンガーが来るって知って」


 それを聞いてアゲハはハっとする。

 退去準備と海斗の取り押さえで頭がいっぱいになり、そこまで気が回らないでいた。


「アゲハ、言ってくれたよね。ちょっとずつ楽しい思い出作って、嫌なこと全部塗り潰そう、て」


 そう言われ、思い出すのは数日前のこと。

 子供達と踊った後に楓へかけた言葉だ。

 楓は意を決してアゲハに詰め寄る。これまで希薄だった楓の瞳に、生気が戻っていた。


「私は、楽しさを少しでも思い出させてくれたあの子達を守りたい。どんな形でも良いから!」


 楓の想いはテコでも動かないと察したアゲハは観念し、深いため息を吐く。


「……分かったよ。でも、無茶はしないで。楓は私の一番弟子なのに、教えなきゃいけないことがまだたくさんあるんだから」

「うん!」


 まだ納得いかないが、仕方ない。

 アゲハは抱えていた刀袋のポケットへと手を突っ込む。

 一体何を? と首をかしげる楓をよそに、アゲハが取り出したのは真っ白な小刀。

 アゲハはそれを楓へそっと手渡す。


「私が実家にいたころから持ってた護身用の小刀。万が一の時は使って。銃や財閥の兵器の使い方は分からないでしょ?」

「う、うん」


 楓は戸惑いながらもそれを受け取り、小刀を少しだけ鞘から抜く。

 真っ白な鞘と同様、小刀の刃は太陽に照らされて白い光を反射する。

 楓が小刀をしまうと、アゲハは彼女の両肩に手を置く。


「それを抜くのは最後の手段。教えた蝶流剣術の舞も基礎の触り程度だから戦闘になんか役に立たない。基本は逃げて隠れること、約束して」


 アゲハの必死の訴えに、楓はゆっくりと頷いた。

 アゲハも頷き返し、楓へ背を向ける。


「それじゃあ、私もそろそろ配置に向かわないといけないから。無事でいてね」

「うん。アゲハも気をつけて」


 まだ言いたいことはたくさんあるが、楓に見送られながらアゲハはその場を立ち去った。


 

 健気に自衛のための小道具なんてあげて、泣けるねぇ。

 そうせせら笑いながら二人のやりとりを物陰に隠れて見ていたルストは、一人になった楓へと歩み寄る。


「やあこんにちは。君、確か後方支援の子だっけ?」


 突然現れたルストに驚いた楓は「へ?」と間の抜けた声を出した。


「いやぁ、ごめんごめん。ちょっと秘密の作戦を任されちゃってね。これを適当に出会った人に渡すように言われてさ」


 そう言って差し出したのは銀色の筒。

 それを見ただけで楓は中身を察したのか両目を見開いた。


 事前の通達で財閥の兵士だけでなく楓を含めた非戦闘員達も撤退戦の概要は聞いているはずだ。

 動揺したままの楓に、高身長なルストは彼女の身長に合わせて少しだけ身をかがめた。


「よく聞いてくれ。それは俺たちにとって身を守るための切り札だ。作戦が始まったら全力でこれを持って逃げること。兵士達もそれがどれだけ重要か分かっているから、必ず君を助けてくれる。大丈夫さ、君は一人じゃない」


 それだけ言うと、ルストは楓を置いて立ち去った。

 さぁ、下準備は整えた。

 あとはお前が来るのを待つだけだな、金髪ウサギちゃん。

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