這いずる過去 p.4
輸送用ヘリ数台が朝日を背景に飛び、目的地へ一直線に向かう。
メリッサとシャムはそのうちの一台に搭乗し、二人は団員達を席に座らせたまま全員の前に立つ。
「本作戦の指揮は本部からの指示を元に私とシャムがそれぞれの班へと命を下すわ。引き続きバレッツ二名の動員で戸惑うこともあるかと思うけれど、よろしく」
メリッサの一言に、目の前の団員たちは「了解!」と声高々に了承する。
「それじゃあ、作戦を発表しまーす!」
シャムが意気揚々と、天井から吊るされたモニターへびしりと指差す。
すると、ドローンで撮影された作戦区域の写真が表示された。三日月形の山の中心には小さな集落が出来ており、木々を縫うように建造物が建てられている。
「本作戦の第一目標は”原典の頁”の確保! 今財閥の拠点に潜入捜査しているクロエが目標物の所在を割り出せていればスムーズに目的を達成出来るけれど、そこのところは出たとこ勝負になりそう」
「財閥側はこちらが既にスパイを送り込んでいる事に気づいている可能性が非常に高いわ。既に拠点の撤退を始めてもおかしくない。相手の撤退が完了する前に私達で”原典の頁”を抑える必要がある」
「そして第二目標!」
シュバ! と音が出る勢いでシャムが天高く指を二本かかげる。
無駄に元気ね、と心の中で呟きつつ、メリッサは団員達を見渡す。
「敵の殲滅。可能であれば情報引き出しのために捕虜を一人か二人、確保するのも視野に入っているわ」
そう説明しつつ、メリッサの頭の中に浮かぶのは一人の少女。
アゲハは本当に財閥と行動を共にしているのだろうか。
もしそうだとしたら、組織へ、スリンガーへ、ひいては自分自身に恨みを持ってしまっているのだろうか。
晴れない疑問を反芻していると、隣に立っていたシャムがメリッサの肩を叩く。
「メリッサ、今はブリーフィング中だよ。しゅーちゅー」
小声でシャムに諭され、メリッサは咳払いをして雑念を抱いていたことを誤魔化す。
「こほん。前回同様、避雷針による敵の拠点を異界に移して閉じ込める。一個小隊に避雷針の防衛を任せ、私は戦場の前線に立って場を乱れさせ、シャムは単独で原典の頁回収を行う」
モニターの表示が切り替わり、出てきたのは前回の戦闘で撮影できた財閥の兵士。
「ここからはクロエから入手した敵の装備、所属している要注意人物の情報を共有するわ」
画面には兵士がアサルトライフルと防弾チョッキを装備し、背中には強化外骨格と、僅かに見える皮膚には契約者の印が見えている様子が映される。
「相手は邪術と強化外骨格を組み合わせた戦法を使ってくるわ。やりにくい相手ではあるけれど、数ではこちらが勝っている、各個撃破を心がけて」
メリッサの注意事項に沿ってもう一度別の画面へと切り替わった。次に出てきたのはくせ毛とニヤついた顔が目立つ男、ルストだ。
「これは、要注意人物。かつて私達が討伐した獣を支持していた団体”教団”の”代理人”を名乗っていた男、ルスト。この男を目撃した際は私かシャムへ連絡して随時位置を伝えること。相手の情報が不足していることから、戦闘はなるべく回避するように」
メリッサの目線に従い、画面がまた切り替わる。そこに表示された少女を見て、メリッサはつい無言の間を空けてしまう。
「……最後に。秋道アゲハ。彼女は私が前回日本で決行した任務の際、獣によって契約者にされた人間。彼女の意図は把握できていないけれど、財閥に保護されていると思われる。私たちへの敵意は不明、そして彼女の戦闘力はバレッツに匹敵している。反撃を試みるようであれば……」
そこまで言うとメリッサは言葉を詰まらせるが、すぐにシャムが前へ一歩出る。
「いつもと変わらないよ、獣の味方をする者は討つこと。以上、作戦開始まで待機!」
再度了承のサインが隊員達より上がり、各々が装備の最終チェックを始めた。
「ありがとう、シャム」
言葉少なくシャムへ礼を言うも、脳裏からアゲハの笑顔が消えない。
気を紛らわせるために自らも装備のチェックへと回る。
その様子を、シャムは心配そうに伺うが、当の本人は上の空でそれに気づくはずもなかった。




