這いずる過去 p.2
その強力な輝きは、戦闘をしていたメリッサとルストの手を止めた。
メリッサは思わず後ろを振り向き、アリスが何をしようとしているのかを目の当たりにする。
「アリス! ダメ!」
そう叫び、妹のメリッサがこちらに駆け寄ってくる。
しかし、一度始まった儀式は止められず、光はその場を覆いつくし、一人の契約者を誕生させた。
同時に、上空からは獣、ヴィクトが放った炎の雨が二人を襲う。
「うああああ!」
アリスは叫び、動かなかったはずの身体を叩き起こし、両手をあげる。
すると、両手からはヴィクトと同じ黒い炎が出現し、降ってくる炎の雨を横凪ぎに撃ち払う。
それを少し遠くから目撃したヴィクトとルストは警戒の色を出す。
「おいおい、どうなってやがるんだルスト?」
「……ハァ、契約を結びやがった」
呆れた様子で肩をすくめるルストとは裏腹に、苛立ったヴィクトは眉間に青筋を立てる。
「何してくれてんだ半分の俺!」
ヴィクトは苛ついた様子でアリスの手首に巻かれたペンダント、ルーズへ怒鳴る。
『うるせぇよ半分の俺! 助けてもらった借りを返してるだけだ! やっちまえアリス!』
「うん!」
頷き、射出した炎へ意識を向ける。
それは形を変え、炎で出来た兎、鷲、蜂、イルカなど、様々な動物の姿を模してヴィクトとルストを襲う。
「面倒臭ぇな!」
ヴィクトが地団太を踏むと、黒い炎の竜巻がヴィクトとルストを覆い、飛来してくる黒炎を削る。
それを見ていたアリスは額に大粒の汗を流しながらも希望の糸口を前に目を光らせる。
「やった、効いてる――ぅっ!」
突然訪れたのは両手の痛み。
黒い炎はアリスの手のひらすら焼きはじめ、思わず邪術が解除される。
「アリス!」
メリッサが倒れかけたアリスを支える。
アリスの手のひらについた炎だけは消えることなく、徐々にアリスの腕を炙っていく。
『クソったれ、やっぱ不完全な契約じゃ暴走しちまうか』
「貴方何をしてくれたのよ! アリスを契約者にしたの!?」
メリッサが鬼の形相でルーズを睨むが、ルーズの口調はいつものように飄々としている。
アリスの首に巻かれたマフラーから覗く素肌には、首輪を模した契約印が刻まれているが、それは消しゴムで中途半端に消しかのように擦れている。
アリスの攻撃が止んだ事で、ヴィクトを覆っていた炎も消えた。
「ったく、ウゼぇなぁ!」
炎の渦から再び現れたヴィクトとルストにこれといったダメージはない。
ルストは現状の変化に対し煩わしそうに頭をかく。
「こりゃ、面倒になる前にさっさと終わらせた方が――」
言いかけた途端、空気を震わせる銃弾の一撃が飛ぶ。
それはルストの胸を直撃し、貫通した。
ルストが後ろへ振り向くと、そこにはもう一人のスリンガーが駆け寄ってきていた。
年齢の割には疲れ切った風貌に丸い眼鏡が特徴の男。
男は続く銃撃を数発五月雨に撃つと、それはルストに着弾し、身体を何度か震わせたのち、ルストは血を吐いて倒れた。
「サルヴァ!」
アリスの肩を支えたメリッサが現れた男の名を叫ぶ。
「遅くなった。どういう状況だ」
男、サルヴァは辺りを見渡す。
地面にうずくまっているアリスと、それを隣で支えるメリッサ、そして人の姿をした獣ヴィクトに、今しがた撃ち殺した”教団”の手先の遺体。
状況が好転しかけているが、それを喜ぶ余裕などアリスにはない。
「は、離れて、メリッサ……」
「え?」
小声でメリッサに呟き、己の手のひらを見る。
さきほど放った黒い炎が未だ収まらず、手から肘、肩を伝う。
身体が焼けるのを感じながら、アリスは叫んだ。
「抑え、切れない!」
途端、アリスの身体中から黒い炎が吹き荒れた。
「ああああああ!」
黒炎はメリッサ、サルヴァ、ヴィクト、周りの建造物に関係なくその高熱で燃やしにかかった。
「アリ、ス!」
メリッサは重力の邪術を黒炎へ対象にかけ、地面に炎を押しつぶすが、アリスの身体から炎は次々と噴き出る。
さらに炎は容赦なくメリッサを巻き込んで焼き、身体がみるみると燃えていく。
「メリッサ、離れて!」
アリスは叫ぶが、メリッサは手を離さない。
「メリッサ、お願い、メリッサ!」
声は段々と木霊していき、意識が夢から覚めていく。




