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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第二章 因果ノ楔
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強襲作戦 p.12

 作戦会議の準備をしているから、ちょっと外で待っていて。

 そうヒンメルに言われ、アゲハは施設内の廊下を一人歩く。


「よぉ。アゲハちゃん、で良いんだよね?」


 どこで時間を潰そうか考えていると、アゲハの後ろからまたしてもあの男が声をかけてきた、ルストだ。


「……なんですが?」


 不意に心の底からこの男への嫌悪感が溢れてくる。

 いつでも刀の柄に手を伸ばせるよう、片方の手は鞘を握り、空いた手をふらつかせる。


「そう怖い顔しないで欲しいなぁ。同じ仲間のはずなんだけど俺たち」

「私は貴方のことが嫌いみたいです」


 自然とそんなセリフを吐いていた。

 どうしてだろう、この男を見ていると、メリッサに助けられたあの街で嫌な思いをさせられた親子、四楓院親子を想起してしまう。

 ルストは少しだけ目を見開くと、笑いを噴き出した。


「ぷっ、あははは! 良いねぇ、正直者は好きだよ俺」

「用が無いなら去りますが」

「まぁまぁ、待ってくれよ。さっきはろくに話せなかったから、お近づきの印に良いことを伝えたくてね」


 腹を抱えてどうにか笑いを収めたルストは、壁に寄りかかってまたあの怪しいニヤけ顔を晒す。


「君のお友達のスリンガー、メリッサと会ったよ」

「っ!」

「ヒンメルから軽く君の事を聞いていたからね、伝えておいた方が良いと思ったのさ。元気そうにしてたぜ、彼女」


 メリッサが来ている?

 今回の護送作戦で組織と戦闘があった街はここからそう遠くはない。


「たぶんこれから組織側の攻勢が始まるだろうな。この拠点も引き払わないと」

「何が言いたいんですか?」

「相手もこちらがトンズラする前に抑えたいだろうし、メリッサのいる部隊がそのままここに来るんじゃないかな」


 この男、この状況を楽しんでいる。

 楽しそうにアゲハの感情を逆なでしてくるルストを睨む。

 それを知ってか知らずか、ルストはわざと肩をすくめた。


「嫌だよねぇ、友達が問答無用で女子供関係なしに殺しにかかってくる様子を見るのは」

「貴方にメリッサの何が分かるんですか」

「一応旧知の仲ではあるからねぇ。君も彼女の容赦のない姿を見たことがあるんじゃないかい?」


 そう言われ、フラッシュバックするのはメリッサが無抵抗になって降参を訴えた四楓院を容赦なく撃ち殺していた光景。

 だが、それと同時に思い出すのは一緒に出かけて楽しい一時を過ごし、他愛のない笑顔を見せてくれた少女としてのメリッサだ。


「貴方には関係ありません」


 そう吐き捨てアゲハはルストを置いて立ち去った。

 もう迷っている時間はない。



 作戦会議を終え、アゲハは自室に戻っていた。

 ふと目を閉じ、会議で出てきた結論が心の中で反芻する。

 撤退戦。


 組織側にこちらの所在が割れた可能性があり、拠点から非戦闘員を即時退避させつつ確保した原典の頁も同時に移送、現状の兵力を持って組織の足止めをする。

 こちらには財閥が開発した強化外骨格と契約者の能力を保有した兵士達がいるが、相手は数で勝る。


 どちらが有利かと断言できない状況を前に、アゲハはそっと瞳を開けた。

 部屋の真ん中に正座し、横には母の形見である刀と鞘を、目の前には蝶流剣術の最後の道場で押収した刀箱とその中身が眠っている。


 ちらりと横に置いた自分の刀を見ると、相変わらず刀の中腹からぽっきりと折れており、折れた部分の刃は存在しない。

 刀箱に手を触れ、そっと蓋を開けたところで部屋の扉がノックされる。


「アゲハちゃん、入るわよ」

「えぇ、すみません、急に呼び出しちゃって」


 入出を許可すると、入ってきたのはヒンメルだった。

 いつものニコニコとした笑顔で入ると、「わお」と声を出してアゲハがちょうど開いた刀箱の中身に驚いた。


 刀箱の中には、柄や鍔のない、抜き身の刀身を晒した刀が一本収められていた。

 刀身は外の光に照らされると紫色の怪しい反射光を放ち、灯りを消した薄暗い部屋ということもあって、あやしい雰囲気を際立たせる。


「なぁにその刀。とんでもない量の渦と怨念を感じるわ」

「妖刀、胡蝶こちょう鬼遣おにやらい。蝶流剣術の創始者、秋ノ道政宗が使っていた刀で、私が最後に訪れた道場に収められていたんです」


 アゲハは妖刀を前に座し、見る物に畏怖の念を抱かせる雰囲気を纏うそれを負けじと睨む。


「蝶流剣術は鬼を払う剣術として作られたと言われてましたが、今にして思えば獣を追い払うために剣術と邪術を組み合わせて作られた流派だと理解できます。この剣術は、あまりにも邪術との相性が良すぎる」


 ヒンメルは妖刀の柄部分に彫られた謎の文字を眺め、ふむと頷く。


「なるほど。術式が彫られているわね。この刀に渦を込めれば何かしらの邪術が使えるわ。昔の剣士が邪術に精通していた証拠ね」


 刀を眺めるヒンメルは刀が放つ雰囲気に感服した様子で顎をさする。

 アゲハは刀をそのままに、立ち上がるとヒンメルの前へ歩み寄って決意の瞳を向けた。


「ヒンメルさん、お願いがあります。私を次の撤退戦に参加させてください」

「……どうしたのかしら、急に」

「もし近々組織がここを襲撃するのなら、私が知ってるスリンガーがいるかもしれないと聞きました」

「メリッサちゃん、という子かしら?」

「はい」


 アゲハは頷きつつ、肩越しで視線を刀へと戻す。


「メリッサにかけあって、財閥と組織で話し合いが出来ないか交渉します。彼女も私も、一度すれ違っちゃったけど、話し合いならきっと応じてくれると思うんです」

「アゲハちゃん。戦場はそう甘くはないわ。貴方と、そのメリッサちゃんが応じても、一度始まった戦いを止めることは簡単じゃない」

「それでも……楓や他の避難民を守れる可能性が高まるなら、私はそれに賭けてみたい」

「……分かったわ。けれど覚悟してちょうだい。場合によっては貴方も組織の敵として認識されるわ。刃を交えることにもなる」

「はい。そのために、私はこの刃を母の形見にのせます」


 改めて、刃にアゲハはそっと触れる。

 邪術は発動していないというのに、アゲハの身体からゆっくりと何かが抜き取られていく感覚に陥った。

 瞼をぴくりと揺らすが、アゲハは負けじと妖刀に触れ続けた。


「私は今度こそ、間違えたくないんです」


 妖刀へ誓いを立てるように、アゲハは戦場へ踏み入れる覚悟を決めた。

ここで第二章は折り返しになりますね。

組織と財閥の衝突が始まり、これからメリッサやアゲハ、スリンガーや契約者達がどうなっていくのか分かりません。


よかったらブクマや感想いただけますと嬉しいです。

それでは続きもお楽しみください。

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