強襲作戦 p.9
折れた避雷針の上に立つルストを見上げ、メリッサは奥歯を強く噛む。
「”教団”を潰した時に貴方も死んだものと思っていたけれど、生きていたのね」
「あの時はどうも。せっかくこっちは最強の獣どもを揃えたってのに、アンタのせいで計画は全部破綻したよ」
”教団”という名にメリッサは心当たりがある。
数年前まで、獣を人類の神と崇める獣神教という宗教団体、教団が存在していた。
教団は古代に地球を統治していたとされる災厄の獣と呼ばれた強力な獣達を復活させ、メリッサ達組織を壊滅に追い込んだ。
多くの犠牲を払い、組織の六割の戦力が削られた結果、メリッサ達陣営の辛勝となった。
その教団に代理人と名乗って暗躍していたのが目の前にいるルストだ。
ルストは世界中に眠っていた災厄の獣を復活させた主犯の一角であり、組織としても無視出来ない存在であった。
しかし、メリッサにとってルストはそれだけに留まる存在ではない。
さきほどからルストが現れたことでチラつく記憶に歯噛みし、メリッサは手元の引き金を引いた。
轟音が響き、弾丸が飛ぶ。
弾丸は狙い違わずルストの頭蓋に命中し、後頭部を貫く。
派手な血しぶきを上げ、避雷針から落ちかけるルストだが、糸に引かれているかのように、その場に踏みとどまる。
「……何がどうなってるのよ」
気に食わない。
本来、獣や契約者はスリンガー達が使う銃で頭を撃ちぬかれると、再生能力を発揮されることなく死に至らしめることが出来る。
だが、目の前にいるあの憎らしい男は頭から血を吐き出しながらヘラヘラと笑っている。
『あいつ、核を撃ち抜かれたはずだろ、なんで生きてやがる!』
ルーズも思わず声を上げる現象だが、答えが返ってくるわけもない。
ルストが煩わしそうに額の血を拭い払うと穿たれた風穴はみるみると塞がれていった。
「あー、痛ぇな。一応痛覚はあるんだから手加減してくれよ」
「貴方は、契約者なの、それとも獣?」
「さぁな。ただ、これで俺は死なねぇ」
そうこうしていると、異界の空にさらなる亀裂が入り、現実空間の空が広がっていく。
それを見上げたルストは「もう終わりか」と呟いた。
「なぁ金髪、ここはお互いに引こう。あと少しでこちらの増援がつくが、戦闘が泥沼化しても互いに損だろ」
「それを決めるのは貴方じゃない」
「お前達が探してる原典の頁がない、と言っても同じことが言えるか?」
こいつは何を言っているんだ、と心の中で疑問を浮かべていると、メリッサの無線にシャムから通信が入る。
『メリッサ、こちらは対象Kへの接触完了。第二目標はクリアしたけれど、肝心の原典の頁を相手部隊がはじめから運んでなかった』
この護送作戦自体がブラフだった?
メリッサは僅かに眉を潜めるが、ルストはそれを見逃さない。
「その様子だと、お前たちの獲物がないのは分かったみたいだなぁ?」
ヘラヘラ笑うルストは、避雷針の陰に隠れて飛び降りた。
「待ちなさい!」
メリッサはすぐに追撃の銃弾をお見舞いしようとしたが、避雷針越しに飛び降りたルストの姿が見えない。
「すぐにまた会えるさ。それまで英気を養えよ、嘘つき”メリッサ”ちゃん」
少し遠くからルストの声が響き、それ以降敵の気配が消え去った。
異界が解除され始めてから、財閥の兵士達も三々五々に散り、ルストが兵士達の撤退のきっかけを作りに来たのが目的と察す。
「あいつ……」
銃を握る手が自然と強まり、メリッサはさきほどまでルストが立っていた避雷針を睨む。
組織と財閥の初戦はこうしてあっけなく幕を下ろした。




