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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第二章 因果ノ楔
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強襲作戦 p.8

 地上の大通りでは引き続き戦闘が繰り広げられている一方、その直下には一本道の地下通路が設置されており、普段は歩行者が通りを横断するために使われている。

 シャムとクロエの二人はその地下道を並走しながら地上を目指す。


「それで、財閥へ侵入は出来て、私たちに護送ルートを流せた所までは良かったけど、武装も教えて欲しかったなぁ」

「無茶言わないでくれよ。俺だって護送が始まる直前まで連絡する隙も手段の確保も出来なかったんだ」


 痛いところを突かれてクロエは口をへの字にするが、シャムはニヤつきながら首を横に振る。


「甘いなークロエ、甘々だ。リーエンならもーっと段取りよく情報を流してくれてたと思うよー」

「悪かったな。所詮バレッツ候補の俺じゃこれが限界だ」

「そんな後ろ向きな事言ってー。『俺は、リーエンさんを支えたい』てキメ顔で言ってたあの頃のクロエ君はどこに行っちゃったのかなー?」

「掘り返さないでくれ! 俺は必死に仕事してるだけだ!」


 つい顔を赤らめるクロエだが、お喋りに興じる時間はないと判断したのか、ニヤつくシャムを睨んではぁとため息を吐く。


「それよりもシャムさん、これ」

「お?」


 クロエは懐から金属製の筒を取り出してシャムへと放り、シャムはしげしげとその筒を眺める。


「今回財閥が確保した原典の頁だ。それと、これも」


 もう一つポケットから取り出したのは手のひらに収まるメモリードライブだ。


「把握できた範囲で財閥の拠点と本部の位置、メンバーの情報を入れてる」


 そう話しているうちに、二人は地下道の端までたどり着いた。

 あとは目の前の階段を駆けあがれば二人がいる真上のビル一階に出ることができ、すぐ外では組織と財閥の勢力が争う戦場が広がっているはずだ。


「シャムさん、すぐに隊を引いてくれ。俺はこのまま財閥側に戻って撤退を提案してみる」

「え? 何で? 捕虜を数名確保出来たらあとは殲滅が命令だよ?」

「いいや。今外で戦ってる財閥の部隊が拠点との連絡を絶った時点で財閥の援護部隊が向かってる頃だ。これ以上は消耗戦になって無駄な被害が出る」

「うーん、それもそうか……けどねぇ」


 クロエから受け取った筒を手玉のようにポイポイと投げつつ、シャムは思考する。

 この作戦の必要最低限の目標である、クロエとの合流と財閥についての情報引き出しは出来たが、他に出来ることはないだろうか。


「戦力を削れるだけ削るのも悪くはないと思うんだよね。強化外骨格なんて装備、そう量産出来るものでもないんじゃないかと思うけど」

「……なぁシャムさん、本当に財閥と戦うのは正しいのか?」

「はい?」


 クロエの質問につい間の抜けた返事をしてしまった。


「財閥の中には獣に無理やり契約者にされた人達が大勢保護されてるんだ。中には子供だっている」

「ハァ……君もメリッサも、どうしてこう……」


 ついさきほど、メリッサも似たような迷いを見せていたな。

 どう説得したものか、つい頭をぼりぼりとかく。


「いい? 一度契約者になった人は元に戻らないし、いずれ無差別に人を襲う獣になる。それを止めるために私たちは獣も契約者も狩ってるんだよ。

 それに……私達はもう、たくさんの契約者を手にかけた。私達の仲間もたくさん契約者や獣に殺された。今外でやってる殺し合いがずっと続いて今があるんだ」


 回り始めた怨嗟の歯車は止まらない。

 契約者達が膨れ上がらせた憎悪は既に財閥というグループを作り、シャム達スリンガーと組織とぶつかるに至っている。

 クロエに伝わると良いのだが、とうの本人はどこか悲しそうな表情でシャムを見つめ返す。 


「つらそうな顔して言われても説得力ねぇよ」


 その一言で、思わず己の頬に触れ、いつの間にか顔が強張っていたことに気づく。

 一瞬だけ、シャムの脳裏に過去の情景がフラッシュバックする。


 幼い頃に、同い年の子供達が目の前で獣へと変わり果て、死に行く情景が。

 「ふん!」と頬を大きく膨らませてその記憶を無理やり振り払うと、手に持った筒でクロエの頭を軽く小突く。


「一丁前に言ってくれるじゃん。けど、そういうのはもう少し上手に任務をこなせるようになってから言いたまえ少年」


 クロエは「痛い」と呟いたが、筒が頭にぶつかった音があまりにも軽いことに気づき、慌ててシャムから筒を奪う。

 筒の蓋を取り外し、中を覗いたクロエは驚愕の表情を浮かばせた。


「中身が……空っぽ……」

「勘づかれてたみたいだね。クロエがスパイだってことまでバレてるのかな?」

「悪い、分からない。ただ、向こうがスパイへの警戒はしていたのは事実だ……くそ」


 あまりの体たらくにクロエは肩を落とすが、今はフォローを入れる余裕はない。

 これではすぐ外で戦っている仲間たちが無意味に命を晒していることになってしまう。

 状況を理解したシャムが人差し指を上げた。


「第一目標ロストは確定したけど、第二目標のクロエとの接触はできた。通信機渡しておくからクロエも一旦財閥の部隊と退却して、原典の頁の所在探しておいて」


 シャムは懐から取り出した小型の通信機を投げ、クロエはそれをキャッチする。


「あぁ、分かった。失敗は結果で取り戻す」


 そう言って二人は階段を登り、ビル一階へと出た。

 途端、ビルの窓から見える紫色の空に、大きなひび割れが発生した。

 それは避雷針リードランスが破壊され、解除された異界から現実空間へ引き戻される予兆を示す。


「嘘、メリッサが避雷針リードランスの防衛に失敗したの?」


 驚きで目を大きく広げ、胸騒ぎがシャムの不安をかきたてる。

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