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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第二章 因果ノ楔
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強襲作戦 p.7

 ルストが乱入してくる少し前、シャムの戦場は終わりが見え始めていた。

 財閥の兵士達が操る強化外装と邪術に苦戦しつつも、シャム率いる部隊はどうにか優勢を保つ。

 メリッサの部隊よりも多くの団員をあてがわれたシャムは数にものを言わせ、複数人で財閥の兵士を一人ずつ撃破させた。


 少し遠くで他スリンガー達が財閥の兵士を追い込んでいく中、シャムは邪術で生んだ大樹の蔦で兵士数名を捕らえた。

 身動きが取れず、恐怖で顔を引きつらせた兵士を前に、シャムが右手をかかげるとそれは青い炎をまとう。


「九生魂 (ナイン・ソウル )」


 シャムがその邪術の名を呼ぶと、青い炎はその強さをさらに増す。


「ひ、やめーー」


 言い終わるのを待つことなく、シャムは右手の手刀を兵士の胸元へと突き立てる。

 血肉をかき分け、悲鳴を上げる兵士に構わず、シャムは目的の物を掴んで引き抜く。

 それは、引き抜かれてもなお鼓動を刻む兵士の心臓だった。


 シャムの邪術により活きた状態のまま引き抜かれた心臓は、見えない概念としてシャムの周囲で保存され続けることとなる。

 シャムは他者の心臓を引き抜き、保存することが出来、さらにその心臓を破壊することで一時的に元の持ち主の邪術が使えるという特殊な能力を備えている。


 いつも明朗快活なシャムからは考えられない残虐行為だが、当の本人は手慣れた様子で淡々と己の邪術の手順を踏んでいく。


「何がスリンガーだ! 人の矜持を踏みにじりやがって、どっちが獣だ!」


 同僚が目の前で命を落としていくのを目撃しながら、財閥の兵士の一人が涙ながらに訴える。


「……そうだね。私も獣と変わらないかも。でもさーー」


 暗い瞳を兵士に見せつつ、シャムは同じ動作で兵士の胸元へ手刀を突き立てた。


「獣さえ無くなるなら、私達はどんな手段も取るよ。それが私達”組織”」


 邪術に使う心臓を保存し、シャムは残る一人の兵士に視線を移す。


「あ、悪魔め」


 精一杯の恨み言か。

 これ以上長引かせても意味はない。

 そう思い、シャムは足早に最後の一人の前に立ち心臓を回収しようとした。

 瞬間、辺りの大樹を破り、何者かが飛び込んでくる。


「逃げろ!」


 飛び込んできた者の勢いは凄まじく、シャムへ激突すると同時、二人の足元の道路がひび割れたのち大穴を穿ち、地下道へと落ちていく。


「ちょ、何?!」


 不意を突かれたシャムは、反射的に飛びついてきた者を蹴り飛ばす。

 シャムはそのまま地下道の底に激突し、蹴り飛ばした侵入者は地下の壁に背中を殴打する。


「海斗! すぐに応援を呼ぶ!」


 さきほどの衝撃で蔦から解放された兵士が、地上から叫んで去っていく。

 海斗と呼ばれた侵入者を前に、シャムは体制を立て直して銃を構える。


「すっごく痛かったんだけどー! 君。覚悟できてるのかな?」


 シャムはそう言って銃を乱射した。

 落ちてきた瓦礫の煙で目標が見えないが、適当に撃てば当たるだろう。


「待て、待ってくれ!」


 目標の海斗が情けない声で叫び、両手を上げて身を晒す。

 突撃しておいて何を言っているんだこいつは。


「待てって、何言って……あれ?」


 ふと、海斗の姿を見て、シャムはどこか既視感を覚えた。


「待ってくれシャムさん、俺だ、クロエだ!」


 そう言って海斗改め、クロエは黒い長髪のウィッグと眼鏡を脱ぎ捨てた。

 赤茶色の短髪に、見覚えのある緑色の釣り目、清潔さを感じさせると同時にどこか苦労人の雰囲気を醸し出す青年に、シャムは見覚えがあった。


「あ、クロエだ」


 そう言いつつ、シャムはもう一発クロエの頭上を撃つ。


「いや何で撃つんだよ!」

「だってぶつかって来た時痛かったんだもん」


 頬を膨らませ、シャムは未だ痛むお尻をさする。


「仕方ないだろ、財閥のメンバーに見られずにシャムさんと二人きりにならないといけなかったんだ」

「んー、まぁ、確かに。それよりも移動しながら話そう、お互いに時間ないよね」

「あぁ」


 二人は頷き、地下道の奥へと走り出した。

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