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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第二章 因果ノ楔
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強襲作戦 p.6

 護送車のすぐ外でスリンガーと財閥の兵士達が戦闘を繰り広げている中、横転した護送車の助手席のドアを無理やり開き、海斗が這って車から脱出する。


「痛たた……し、死ぬところだった」


 幸いなことに脇腹が痛む程度で大きな傷はないが、そんな些細なことも戦場を目の当たりにすると忘れてしまう。

 道路は跳ね上がり、周りの建物は攻撃の余波で一部が砕け、道端には財閥の兵士とスリンガー数名が血を流して倒れている。


「ちくしょう……こうなる前に、やれることはあったのに!」


 海斗は歯をむき出しにし、拳が痛むのを構わずを地面を殴りつけた。

 すると、近くに財閥の兵士の一員が慌てた様子で駆けよってくる。


「おい、無事か! 現場が乱れてる。非戦闘員のお前は後ろに下がって救援要請を出してくれ!」


 兵士は飛来してくる弾丸の雨を、四本の機械の触手で防御しつつ、海斗を庇って前に立つ。


「いや、いい。アンタの方こそ戦場から離れてくれ」


 海斗はそれだけ言うと、「ちょ、待て!」と後ろから呼び止める兵士を無視し、戦闘の渦中へと飛び込んでいった。



 メリッサやシャム達が戦闘を繰り広げる中、それを少し遠く、異界の展開範囲内ギリギリに入った建物の屋上から、一人の男が眺めていた。

 男は黒いクセ毛のある髪をなびかせ、怪しくニヤけている。


 黒を基調にした服装やピアスを付け、その風貌からどこか軽薄そうな印象を見る者に与える。

 時折聞こえてくる銃声や爆発音を背景に、男は持っている携帯を耳に寄せた。


「やっぱ嘘つきがいるのは良くないよなぁ、ヒンメル?」


 遠くで行われる殺し合いの音を噛みしめるように聞く男は笑いを堪える。


「俺が言った通りの展開になってるぜ。”組織”の襲撃が発生した。こりゃ内通者がいるのは濃厚だ」


 男は電話越しにいるヒンメルにそう言って、血より赤い瞳で遠くの戦場を楽しそうに眺めた。


『……そう。当たって欲しくはなかったけれど。それじゃあルスト、あとは頼めるかしら?』


 電話越しのヒンメルからルストと呼ばれた男は手すりに上り、戦場を少しでも高い位置から覗く。


「そりゃ、俺暇になったし、同じ代理人エージェントのよしみでアンタに手を貸すのは吝かじゃねぇよ。けどなぁ……人間と契約者で手を取り合おうなんて嘘臭い理念、正直者の俺にはどうにも耐えられないんだよなぁ」

『あら、そんな事言って、貴方が担当していた”教団”は人間の殲滅なんてかかげたけど、とっくに潰れたじゃない。他のやり方を学ぶのも悪い話じゃないわよ』

「へいへい。けどこれで貸し一つだ。適当に乱入して連中を撤退させりゃ良いんだろ?」


 ルストは通信を切り、ポケットに両手を突っ込む。


「で、金髪ウサギはどっちに行きやがった」


 赤い瞳は暗がりの中でも怪しく輝き、漆黒の狩人は戦場へと駆ける。



 戦況が激化していく中、メリッサは一人で財閥の兵士三人を相手取る。

 敵が装着している鋼の触手は兵士の手足替わりとなり、悪路や反り立つ壁など関係なく、蜘蛛のように駆けまわる事を実現する。


 メリッサは両足の爆炎から放たれる推進力を使い、兵士達のスピードを上回る速さで敵の銃撃を難なく避けていく。

 敵はメリッサを包囲して射撃を試みるも、囲まれる前に包囲を抜け、お返しの弾丸を放つ。

 だが、敵兵士の強化外骨格はメリッサの射撃に即時に反応し、装着者を瞬時にガードした。


「チッ、面倒ね」


 思わず舌打ちしつつ、路面に再び着地して体制を立て直す。

 敵の厄介なところはあの強化外骨格を利用した不規則な移動に、コンクリートすら軽々と砕き装着者を攻撃からオートで守るあの鋼の触手だ。


 極めつけは……


 敵の分析をしていると、敵兵士の一人が両手を空へとかかげる。

 すると、頭上に突然黒い雲が現れ、メリッサの頭上を舞う。


『契約者の攻撃くるぞ!』

「分かってる!」


 ルーズの忠告が飛び、暗雲から水鉄砲が発射された。

 水の弾丸は真上から降り注ぎ、道路に直撃すると地下まで貫通するほどの威力を見せる。

 メリッサはラビッドダンスの推進力を頼りに一定位置に居続けないよう避け続けるも、雲が空から追い続けてくる。


『どうする、あいつらお前を避雷針リードランスから引き離すつもりだぞ』

「時間稼ぎ出来ると私達が有利だけれど、そうも言ってられないようね」


 想定以上に敵の装備と戦闘力が高い。

 周囲を見渡すと、メリッサと同じく他のスリンガー達も避雷針リードランスから遠ざけられるようにじわじわと押されていた。

 他のスリンガー達は数でどうにか拮抗しているが、並みの実力であれば相手を討ち取るのは難しい。


 そう、並みの実力であれば。

 メリッサはルーズへ渦を廻し、爆炎の邪術をたっぷりと込めた銃を頭上へと掲げる。

 同時に、自身の無線をその場にいるスリンガー全員へと繋げた。


「総員退避! 相手を一気に片付ける!」


 メリッサがかかげる銃口の先から巨大な五芒星が展開され、強力な爆炎の邪術が放たれる前兆が現れる。

 それを見たスリンガー達はすぐに道路の脇へと駆けていき、攻勢に出ていた財閥の兵士達はメリッサを前に思わず立ち止まる。


「――バレットダンス」


 邪術発動のトリガーを引き、銃から五メートル台の火の玉が空へと上がっていく。

 その大きさは空へ登るごとに大きくなり、メリッサを追っていた暗雲に届くころにはそれを包んで消滅させるほどに広がった。


 突如街の上空に現れた太陽は、暗闇だった周辺を真昼ほどの明るさにまで照らし、灼熱の炎は辺りを焦がす。


「爆ぜなさい!」


 もう一度メリッサが引き金を引くと、空に浮かんだ太陽が爆発した。

 獄炎の太陽は二つ、四つ、八つへと、細かくしかしより多くの炎の弾丸となり、眼下の道路へ隕石のように降り注ぐ。


 財閥の兵士達は防御姿勢を取る者、その場から退避する者、邪術で対抗する者、様々だったが、いずれの試みも無に帰す。

 断続的に降り注ぐ炎弾は、敵の鋼の腕に防がれたとしても、爆発によるダメージを蓄積させ続け、爆炎が鋼を引きちぎって中の者をも焼き払う。


 回避をするにも、攻撃で対応するにも、炎弾の雨の前では意味をなさない。

 爆炎に飲まれた兵士達はたちまちその身を焦がされ四散していく。


『うひょー、えぐいな』

「黙ってなさいルーズ、集中してるのよ。避雷針リードランスに当てたんじゃ意味がない」


 銃を掲げたまま、メリッサは額に汗を流しながら辺りを注視する。

 爆発した炎弾を落したい場所へある程度制御することは出来るが、こうも数が多いと流石に立ち止まって目標を定める必要がある。


 散り散りに逃げていく財閥の兵士達へ炎弾を叩き落としつつ、仲間へ落とさないよう配慮していると、少し遠くのビルの屋上から、何かが一直線に落ちていく影が見えた。


「……え」


 思わず声を漏らしたメリッサだが、影は尋常ではない速さで地上へと降り、何かにぶつかり、衝撃音が鳴り響いた。

 メリッサの視線の先には、モクモクと煙を上げて中ほどから折れてしまった避雷針リードランスがあった。


『おいおい何してんだよメリッサ!』

「私じゃない、何かが飛んできた」


 ちょうど頭上へ放ったバレットダンスの効力が切れ、爆発四散しきった太陽もかき消え、再び周囲に夜が戻ってくる。

 暗がりに立ち込める煙を払い、折れた避雷針リードランスの上には男が立っていた。


「よう、金髪。久しぶりだなぁ」


 その男に、メリッサは見覚えがあった。

 手元のルーズも同じく、驚きの声をあげる。


『お、おいおい、あいつは!』

「……生きてたのね、ルスト」


 黒いクセ毛をなびかせ、ルストは赤い瞳でメリッサを見下ろす。

 その軽薄な男を睨み返し、メリッサは心の底から湧いて来る嫌悪感と憎悪を銃に込め、それをルストに向けた。

 ルストに避雷針リードランスが破壊された事により、空には異界の解除を知らせる大きなひび割れが発生し、現実空間に引き戻され始める。

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