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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第二章 因果ノ楔
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銃士の弾痕 p.2

 いつもの一悶着はあったものの、メリッサ、シャム、ジーク、リーエンの四人はソファに座って、テーブルを囲んで酒を交わす。

 酔いがほどよく回ったシャムは気持ち良げにユラユラと左右に揺れる。


「またこの四人で集まるとさぁ、長期任務でやったカフェ思い出すよねぇ。スリンガー引退したらまたこの四人でカフェしようよ」


 「カフェ“シングルショット”再オープン!」と一人楽しげにシャムはジョッキを掲げ、中の酒をぐい、とかっ食らう。


「私は構わないが、そこの偉そうな王様とシフトが被るのはごめんだ。口うるさくて敵わない」

「サボり魔のテメェが何言ってやがる」


 ボソリと呟くリーエンへすかさず睨みを効かせるジーク。

 本当に変わらないわね、三人とも。


 メリッサは静かに手元のグラスを口へ運びながら、そんな様子を眺めていた。

 ジークはグイとグラス内のウォッカを飲み干すと、ソファに身を埋めて、太々しい態度のままメリッサを睨む。


「で、テメェはいつから復帰すんだよ」

「明日からよ。傷も完治してリハビリも終えたわ」


 すると、シャムがズイズイとお尻を寄せてメリッサの真隣にピッタリとくっつく。


「メリッサの完全復帰だー!」


 メリッサの柔らかい太ももを枕がわりにし、シャムはソファに寝そべる。

 そんな二人を肴に、リーエンはワインを口へと運んだ。


「確か、“財閥“の勢力調査と“原典の頁“の回収任務だったか」

「えぇ。最近になって一気に勢力を増してきている集団、”財閥”。何者かの手引きで契約者達と原典の頁を集めているそうだけれど、未だに全容が見えていないわ」


 契約者とは地中深くに眠る獣の祖と願いを叶える代わりに獣の数を地上に増やすことを契約した人間を指す。

 そんな契約者が一同に介し、獣の祖の魂そのものである原典のページを集めているのは不穏が漂う。


 本来であればメリッサ達組織が原典の頁を集め切り、獣の侵食を防ぐのが最終的な狙いのはずだが、ここに来て原典の頁を集める存在が二つになってしまった。

 ふむ、何かを思い出したリーエンは口元を軽くさする。


「それならそのうちクロエにあうかもしれない。あいつも私の部隊に入ってから財閥を追って潜入調査を行ってるが、苦戦しているらしい。どこかでばったり会ったら聞いてみると良い」

「クロエ、やっとリーエンと同じ部隊に入れたのね」

「隠密の”リーパー”部隊て、生真面目なクロエにあってるのかなぁ」


 三人が話す様子を眺めていたジークは鼻息を荒く吹く。


「ふん、面白くねぇ」


 不満げにテーブルへ片足をどっかり乗せ、手に持っていた酒をぐいと飲む。


「何よ? あと足を退けなさい」


 私はあんたの母親か、と思わず言いそうになるが、メリッサはぐっと堪える。

 注意されても微動だにしないジークの代わりにリーエンが口を開く。


「我が王は不満なんだ。その財閥の契約者達が使ってる武器や兵器に私達の故郷の技術が流用されている節があるんだ」


 メリッサに負けず劣らずの仏頂面を普段披露しているリーエンだが、いつもより僅かに眉を潜めている。

 ジークとリーエンは同じ国、エルランド王国出身であり、ジークは次期国王、リーエンは王族に忠誠を誓う暗殺者として勤めていた。


 だが、軍部のクーデターと同時に放たれた獣の群れにより、ジークとリーエンを残して全国民の命を奪い、エルランド王国は滅亡した。

 元々エルランド王国はメリッサ達が所属している“組織”に軍事的技術の提供及び開発の強力なサポーターだったこともあり、王国の滅亡は組織自体にも大きな痛手となった。


 唯一幸いだったのは軍部に深く関わっていたジークが技術提供をしたことで組織の戦力向上に繋がった。

 リーエンは持っていたグラスをテーブルに置き、気だるげに頬杖をつく。


「すぐにでも財閥の正体を暴いて、国を滅ぼした黒幕を引きずり出したいんだろ。露骨に不機嫌な態度を見せるものだから察しやすい」

「いちいち解説入れてくれるんじゃねぇよ」


 おおよそ図星なのだろう、ジークは肩を豪快に振って酒の入ったボトルを掴み、面倒になったのかグラスに注ぐわけでもなく、直に口で飲み干していく。


「その財閥とやらには兵器の提供元を吐かせた上で原典の頁も全部渡してもらう。契約者どもも一掃するのが妥当だろう」


 少し酔いの回ったジークはそう呟き、リーエンは異論のない様子でワインを無言で飲む。

 うわ、こわー、と膝下で楽しそうに言うシャムを見下ろしながら、メリッサはキュッと己のマフラーを握る。

 脳裏に過るのは、数か月前、日本のとある街で出会った少女、アゲハ。


 彼女に出会うまで、獣も契約者も全て討伐することに迷いはなかった。

 だが、あの陽だまりのように優しいアゲハに出会い、彼女が契約者に陥れられてしまってから、疑問が生まれた。

 誰もが望んで契約者となっている訳ではない。


「……本当に、契約者全員を殲滅する必要はあるのかしら」


 その一言に、その場に冷たい空気が漂い始め、全員の視線がメリッサへ集中する。

 メリッサは構わずマフラー越しに首元を摩りながら続けた。


「契約者には獣に騙されたり脅迫されて加担した人も大勢いるわ。そんな人達も、はじめは獣に嫌々従っても、私達と戦ううちに憎悪の矛先を私達に向けてもおかしくは--」

「口には気をつけろ、メリッサ」


 メリッサが言い終えるのを待たず、リーエンが片手を上げて静止させる。


「その発想は危険だ。私達スリンガーと契約者は既に長い間殺し合いをしている。今更和解の道を探すのは難しい」


 淡々と諭すリーエンは、メリッサの瞳を真っ直ぐ見つめて核心を覗き込む。


「お前は特にこの手の話が絡むと面倒なことになる。自覚はあるだろう?」


 ふと、首筋に残っている契約印の跡が疼いた錯覚に陥る。


「元契約者がスリンガーになっていることも例外中の例外なんだ。お前は常にリスクを負った立場の中で組織に属している。お前自身が今まで積み重ねた信頼をわざわざ崩す必要はない」


 他人が言いづらいことをズバリ言ってしまうのがリーエンの長所であり短所だ。

 メリッサは髪をかき上げ、落ち着きを無理やり取り戻す。


「軽率だったわ。ありがとう、リーエン」


 すると、心配した様子で膝下に居座り続けるシャムがメリッサの頬を手でさする。


「日本で会った刀使いの契約者が気になるの?」


 メリッサが解決した日本での事件は、組織内では高危険域に達した事件の一つとして話題になり、教訓としてその経緯は組織内へ徹底的に共有された。

 メリッサはいつものようにシャムのスキンシップを振りはらうこともなく、珍しくそれを受け入れる。


「……えぇ、少しだけ。あの子に憑いていた獣の祖は討伐したから、少なくとも人間へ危害を加えることはないはずだけど」


 しばしの静寂が訪れるが、ずっとテーブルの上で放置されていたルーズが小さく光を灯す。


『お前ら飲みの席でも辛気臭ぇのな』

「黙りなさいルーズ」

「喋るなクソ銃」

「そういう集団だ」

「本当のこと言ったらダメだよー」


 メリッサ、ジーク、リーエン、シャムが順番にルーズに突っ込む。

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