銃士の弾痕 p.1
メリッサ達スリンガーが所属している集団には正式な名称はなく、総じて“組織”と呼称されている。
人類の存亡を脅かす存在、獣の殲滅を目的とした“組織“の歴史は長く、遥か昔から獣との戦いを続けていた。
組織の本部は定期的に移動されているが、現在はどの国にも管理されていない無人島を本陣として立てている。
メリッサを含むスリンガーは人智を超えた魔法に似た力、邪術を利用して世界中に設置したポータルから組織の拠点へ飛ぶことができる。
墓参りを済ませたメリッサは北米のとある裏路地に建てられたボロ屋の一室へと入り、ロングコートの懐から銀色の鍵を取り出すと、それを扉の鍵穴へと入れる。
形状的に穴に入れることすら出来ないはずだが、鍵が霧がかった光を放つとそれは穴へすっぽり差し込まれた。
ガチャリと音が鳴り、メリッサは扉を開いて先へと入っていく。
本来であれば扉の先にはボロ屋のリビングがあるはずだが、メリッサが足を踏み入れた先は巨大な要塞の中だった。
縦長の円柱で出来た建物内部には各階層ごとに幾つもの扉が設置され、メリッサと同じ団服を着たスリンガーが何名も出入りし、各々が任務のために世界中へと飛び回っている。
そんな様子を尻目にメリッサはポータルと呼ばれる建物から出る。
先ほどまでいた北米の光景から一転し、外には青空に照らされた巨大な壁がぐるりと周囲を囲っていた。
メリッサが先ほど退出した円柱状の建物、ポータルと似たような建物が一定距離で建てられている。
組織の本部とされる領域一体の道路も鉄製で出来ており、漆黒の鋼で覆われた拠点は何人の攻撃をも防ぐ絶対防御の要塞となっていた。
『おー、やっぱ基地が海沿いにあると風が気持ちいいな。前は森の中にあって湿気が大変だったもんなぁ』
いや銃は錆びちゃうでしょ、と心の中でメリッサはルーズにツッコむが、口には出さずに黙々と目的地へ歩く。
すると、背後から何者かの足音が聞こえ、メリッサはつられて後ろを振り向く。
「メリッサー!」
振り向いた途端、メリッサの視界に入ってきたのは満面の笑みを浮かべた少女が全力で飛び込んでくる光景だった。
淡い栗色の短い髪は彼女の性格の明るさをこれでもかと表し、メリッサの上半身を両手両足で抱きつく。
その俊敏さは、スリンガーの中でもエリートと呼ばれるバレッツの称号を持ったメリッサでさえ見極められないスピードだが、こんなことに使うなと心の中で叫ぶ。
「ち、ちょ……」
「久しぶりメリッサ! 会いたかったよー! この前はせっかく救援要請くれてたのに行けなくてごめんね! 大怪我したって聞いたよ、大丈夫?!」
戸惑うメリッサに構うことなく、少女はメリッサの顔に頬擦りする。
「くっ、離れなさい、シャム」
少女、シャムと自分の間に手をねじ込み、彼女の頭を掴んで無理やり体から引っぺがす。
「あーん、いけずぅ」
「何言ってるのよ、もう」
乱れた髪を整えながら、メリッサはシャムを睨み付ける。
シャムはメリッサと同じ深い緑色のロングコートを着ており、落ち着いた色合いとは裏腹に彼女のテンションは異様に高い。
『相変わらずシャムの嬢ちゃんは元気だなぁ』
「わぁ、ルーズも久しぶり!」
メリッサのロングコートに隠れて見えないルーズに向かってシャムは手を振る。
元気を持て余すシャムはメリッサの周りをクルクルと歩き、目を輝かせる。
「今日は久しぶりに四人揃うね。いつぶりだっけ」
「さぁ。ジークとは前の日本の任務で援護に来てもらって以来直接会ってないけれど、リーエンはチラホラ本部ですれ違ってるわ」
淡々と受け答えするメリッサの腕へシャムは絡みついて頬擦りする。
「楽しみだねぇ、皆元気かな」
「……そうね」
変わらないテンションで応じるが、メリッサの頬は僅かに緩み、腕に引っ付いたシャムをしばらくはそのままにして歩き続ける。
目的の場所に着いたメリッサとシャムは組織の本部地下のとある一室前に訪れていた。
質素な電灯が天井に並べられ、廊下には一定間隔に何のデザインも施されていない無骨な鉄製の扉が設けられている。
二人が目の前にしている扉にはダーツボードがぶら下げられ、ボードの中央にはBARの文字が刻印されている。
組織の本部内に設けられている数箇所の憩いの場のうち、このバーをメリッサ達は貸し切っていた。
メリッサは扉を開くと、大量の酒類が並べられたカウンターと、ダーツ台が数台並び、その隣にソファが設けられていた。
メリッサとシャムがバー内に入って最初に聞こえてきたのは男の怒号だった。
「テメェ、リーエン、もう一回言ってみろ」
すごんだ声は荒々しく、声の主は筋骨隆々の肉体をソファに預けてどっかりと座り、酒瓶を片手に話し相手へ睨みを効かせる。
男が睨む先には、少し長めの黒髪を後ろに結った人物が一人立っていた。
「お前が放棄した任務の後処理をしたのは私だ。事情もろくに話さずに消えた阿呆へ愚痴の一つや二つ、出るのは当たり前だろ、王様」
リーエンと呼ばれた人物は性別の判別が難しく、凛々しさと幼さを合わせ持った中性的な出で立ちをしている。
ライオンのような風貌でソファに居座る男、ジークの威圧感に一切怖気付かないリーエンは澄ました表情でジークを睨み返す。
「あはは~! 何してるの二人とも、私も混ぜてー!」
一触即発の空気を全て無視し、シャムは太陽のような笑顔で二人の間に割って入る。
ジークは眉間に青筋を浮かばせて無言でシャムとメリッサを交互に睨み、リーエンは「やっと来たか」とそれだけ溢す。
この場の誰一人として喜びを分かち合うわけでもなく、再会の場がここに果たされた。
「なんでこう、集まる度に騒がしくなっちゃうのよ」
珍しく呆れた表情を露骨に浮かべたメリッサはため息を吐くも、長年の戦友達を前に何処か胸が躍った気がしていた。




