プロローグ
空からは雪の雨が舞い落ち、その白玉の踊りは寒さを忘れさせるほどに美しい。
止むことを知らない雪の中、一人の少女がそれを眺める。
少女が着る茶色のダッフルコートと赤く長いロングマフラーは、寒風から少女の身を守る。
腰まで伸びている少女の金色の髪はマフラーと共にゆらゆらと揺れ、気温の低さにも関わらずその場の穏やかさを物語る。
少女はとある墓跡の前に立ち、その天辺にかかった雪を優しく振り払う。
「だいぶ寒くなってきたね、お母さん」
手に持っていた花束を墓標の前に添え、少女は両手を組んで祈りを捧げた。
墓標には、
『エルザ・ハートフィールド ここに眠る』
と主の名が刻まれていた。
少女が祈りを続けていると、ザクザクと雪を踏み鳴らしながら誰かが歩いてきた。
「アリス、そろそろ行こう。寒くなってきたわ」
祈りを捧げる少女アリスに声をかけたのは、アリスの顔とそっくりのもう一人の少女。
「あ、メリッサ。そうだね、もうこんな時間だ」
アリスはメリッサへと笑顔を向ける。
メリッサはアリスと同じくらい長い髪を二つに結い、朗らかな笑顔をするアリスとは対照的に表情は固く、どこか冷たさすら感じるが、アリスへ向ける眼差しにはどこか暖かい。
「そろそろ帰らなきゃ、お父さんがお腹空かせちゃうね」
「娘二人ほったらかして仕事に熱中してる父親なんて適当に扱えばいいじゃない」
「そんなこと言ったらお父さんが可哀想だよ」
アリスはニコリと笑ってメリッサの隣に立つ。
穏やかな性格をしたアリスと、冷静な立ち振る舞いをするメリッサ。
中身は一切似ていない姉妹は墓標へあらためて視線を投げる。
「「またね、お母さん」」
まるであの時の再現のようだ、とメリッサは思った。
空からこぼれ続ける雪が、目の前の墓標へと降り積もる様子を静かに眺める。
メリッサは深い緑色のロングコートと赤色の長いマフラーで身を包んで寒さを和らげた。
両腕に二本の花を抱えながら、墓標に刻まれた名前を読む。
『エルザ・ハートフィールド
アイザック・ハートフィールド
アリス・ハートフィールド ここに眠る』
しばらく沈黙して墓標を見つめた後、メリッサは二本の花を雪の上に乗せた。
すると、メリッサの腰裏に収めていた黒い銃がぼんやりと光を漏らし始める。
『おいおいメリッサちゃん、数の数え方を忘れちゃったのか? 三人分の名前が書かれてるのに花は二本しかそえないのかよ?』
想いに耽かけた手前で水を刺され、メリッサはハァとため息を吐く。
ゴソゴソと腰裏のホルスターから声の主である黒い銃を引き抜き、それを両手で持って睨みつける。
「うるさいわよ、ルーズ。今くらい黙ってられないの?」
ルーズと呼ばれた黒い銃は、ハンドガンと呼ばれる小振の銃ではあるが、銃口は大きく、ゴツゴツとしたスライドは銃の厳つさを際立たせ、メリッサの小さな手と銃のサイズ差も相まって重圧感が凄まじい。
その分厚い外装とは裏腹に、意志を持った銃は軽快なノリでメリッサに話しかけてくる。
『そりゃー、お前が珍しく墓参りに行くなんて言うから空気読んで一時間くらいは黙ってたさ。でもよ、これは流石にツッコミ入れてもいいだろ?』
メリッサはケラケラと含み笑いをするルーズに若干の苛立ちを覚えながらも、墓の前に添えられた二本の花と墓石に刻まれた三人の名を眺める。
「……べつに、間違えた訳じゃないわよ」
『じゃあなんだって花の数合わせなかったんだよ?』
「アリスに添えてあげる花も義理もないのよ」
ぴしゃりと言い捨て、メリッサは最後に墓標を一瞥したのち、背を向けてその場から歩き始めた。
『おう、もう良いのか? これからどうするんだよ』
「アゲハとの一件で負った傷も完治したわ。明日からまた任務が始まるし、その準備よ」
ハラハラと溢れる雪に撫でられながら、メリッサは幾つもの墓標を横切っていくが、ふと足を止める。
「あぁ、でもそうか。もう一つ用事があったわ」
『あ? なんだよ』
「……同窓会、とでも言えばいいのかしら」
そう言いつつ、メリッサは戸惑いながら首を傾げた。
一章全てを上げ終えてから大分経っての更新となりましたが、ようやく二章開始です。
やはり一章ごとに全て書き終えてから更新したい願望が強いのですよね。。。
二章はもう少しキャラクターの過去やらに関係する話が出来たらなーと思ったり思わなかったりします。
よければブクマや感想いただけますと励みになります。二章もよろしくお願いします!




