結末 p.5
腹を貫かれた激痛と、己を焼き続ける黒炎に耐えながら、メリッサはアゲハの身体を掴んで離さない。
「ぐ、あぁぁ!」
すると、うめき声をあげて、アゲハが刀を掴んだままのけ反る。
白に染まっていた髪は元の黒色に戻り、体中を巡っていた契約印はアゲハの胸元へとその形を戻していく。
『メリッサ! 禍虚がアゲハの嬢ちゃんから剥がれた!』
ルーズが叫び、メリッサは最後の力を振り絞って左手の炎を強める。
『ふざけるな! ここまで来て、ここまで来てぇ!』
刀から禍虚の断末魔が響くが、それを黙らせるかのようにメリッサの銃口が刀へ押し付けられる。
「終わりにしましょう、獣!」
ゼロ距離で放たれた黒炎の弾丸は刀を砕き、散らす。
メリッサは腹に刃が刺さったまま、アゲハは柄を手に掴んだまま屋根上に倒れた。
『ぐぅおおおおお!』
禍虚の雄叫びが上がるり、刀から眩しいほどの稲妻が走る。
それは一瞬にして消えると、メリッサに刺さった刃から古ぼけた茶色い紙切れ、〝原典の頁〟が破れた状態で現れ、事の終焉を告げた。
『メリッサ! おい、しっかりしろメリッサ!』
ルーズはメリッサに握られたまま彼女の名を呼ぶが、意識はない。
制御不能とされていた黒い炎はある程度メリッサから渦を搾りつくし、持ち主が意識を失ったからか、メリッサとすぐ近くに倒れているアゲハから炎は消えていた。
すると、長らく街一帯を覆っていた紫色の空が割れ始め、異界の崩壊が始まった。
『ちくしょう! おい通信開いてんなら誰か聞こえねぇのか! メリッサがやべぇ!』
メリッサが最後にジークへ合図を送った際に通信を開いたままであると信じ、ルーズは何度も呼びかけるが、メリッサの耳に付けられた無線に返事が来ているかはルーズには分からない。
すると、意識を取り戻したアゲハがゆっくりと立ち上がり、折れた刀とボロボロになった鞘を持ってメリッサの前に立つ。
『あ、アゲハちゃん……』
メリッサが意識を失ってしまった今、完全に無防備状態となっており、ルーズは警戒しながらアゲハの名を呼ぶ。
アゲハはメリッサから視線を移し、少し遠くで倒れている一馬を見つめる。
「ルーズさん、メリッサに伝えてください。私の意志のなさが、私から全てを奪わせてしまった。それを気づかせたのは他でもないメリッサだって」
一馬の亡骸を優しく抱え上げ、アゲハは肩越しにルーズへ伝える。
『おい、お前はどこに行くんだよ』
「まずは先輩を弔います。その後は……まだ分からない」
アゲハは崩壊していく空を見上げ、差し込まれる光を忌々しく睨む。
「私の意志が示す方向に歩くだけです」
アゲハは最後に気絶したメリッサにちらりと視線を投げると、そのまま道場の屋根から降りていった。
『アゲハの嬢ちゃん……』
ルーズはアゲハの名を呼ぶが、それに答える者は誰もいない。




