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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第一章 蝶ガ墜散ル刻
36/87

結末 p.1

 人型の獣が道を埋め尽くさんばかりに覆い、スリンガー達は陣を組んで応戦していく。


 後方にはほとんどの市民を避難させた体育館があり、今立っているこの前線こそが最終防衛ラインとなっていた。


 一列に並んだスリンガー達は全員が同じ銃を持って前に出てくる獣達を撃ち倒していく。


「ちくしょう、数が多すぎる! どれだけの数を街の外から連れて来やがった!」


 スリンガーの誰かが叫ぶも、状況が変わることはない。

 銃撃の雨は絶えることなく撃ちだされるが、弾の数など飲み込むほどの獣達が押し寄せ、死体となった同胞を足蹴にして前へ前へと詰め寄ってくる。


「くそ、これ以上は……」


 その場にいる全員が撤退の一文字を頭に浮かべた時、男が一人、何のためらいもなく前に出た。


「俺様の前で喚くんじゃねぇ」


 男は肩に羽織ったコートをたなびかせ、威風堂々と迫りくる獣の群衆の前に仁王立ちする。


「ちょ、ジークさん! そこ射線上!」


 ジークのすぐ後ろに立つスリンガーが叫ぶが、ジークは「些事だ」と一蹴する。


「許可なく俺様に傷をつけられる奴は存在しねぇ」

「いや意味分からないですよ! こんな数、今の戦力じゃ抑えきれ――てジークさん上!」


 慌てて警告を出す同僚にジークは面倒そうに頭上に視線を上げる。

 四メートルほどの巨大な鬼がジーク目掛けて飛んで来ると、どこかから引っこ抜いた電柱を振り下ろす。


 電柱は寸分たがわずジークの脳天に直撃するが、ガラスのように砕け散り、辺りに破片をばらまく。


「あ?」


 ジークは降ってきた鬼を睨み、鬼は渾身の一撃があっさり砕かれたことに驚いた様子で砕けた電柱とジークを見比べる。


「図が高ぇ」


 苛立ったジークのローキックは鬼の膝に直撃するとそれを風船のように割り、鬼は悲鳴を上げて地面へ倒れる。


 ジークはズカズカと歩いて鬼の顔を踏んづけ、その眉間へ銃弾を一発放って鬼を始末した。

 その光景にスリンガー達と、迫り寄っていた獣達ですら立ち止まってしまった。


「手を止める暇はねぇぞ、ここに誘導した獣共もそろそろ到着する」


 空気をまったく読まないジークは唖然としている獣達を片っ端から撃ち倒していく。


「あ、あの人何考えてるんだ! これ以上敵増やしてどうするんだよ!」

「もう考えてる暇はねぇ! 撃て撃て撃て!」


 士気を高めに来たどころか、さらなる危機を引き連れて登場したジークに恐怖を抱いたスリンガー達は、先ほどの不安すらも置き去りにして弾幕を張りなおす。


「十分耐えろ! 後は俺様が何とかしてやる」


 了解! とスリンガー達の返事を受け止め、ジークも目の前の大群に向き直って銃を構える。


「テメェもさっさとケリつけろよメリッサ」


 獣達の雄叫びが霞むほどの銃撃音が炸裂し、街での戦闘は激化する。



 紫色の空の元、銃弾が飛び、刃が風を切り、金属がぶつかり合う。

 メリッサの懐へと接近したアゲハは一度の攻撃に斬撃を複数回放ってくる。


 想像を絶する速さにメリッサはギリギリのところで致命傷を避けて攻撃を受けるが、徐々にアゲハの動きに目が慣れてくる。


 五連続の斬撃のうち三発を銃とナイフで捌き、二発は太ももと肩に受けた瞬間、メリッサのラビットダンスが発動。


 爆炎の急加速を得たメリッサの膝蹴りがアゲハの顔面に突き刺さり、思い切りのけ反ったアゲハの胴体にメリッサの回し蹴りが食い込む。


 だが、攻撃を受けながらもアゲハは刀を抜き、メリッサの横腹を裂く。

 返す刀でメリッサの首元目掛けて刃が閃くが、それよりも先にメリッサが放った銃弾がアゲハの肩に当たり、あまりの威力にアゲハは屋根の際へと吹き飛ばされていく。


「――っは!」


 堰を切ったようにメリッサは空気の塊を吐いて膝から崩れ落ちた。

 肩を上下に動かしてどうにか呼吸を続け、メリッサは前方で呻きながら立ち上がるアゲハを睨んだ。


「やっと……見えてきた」


 メリッサは息も絶え絶えになるも、光明を見出す。

 アゲハの蝶流剣術は居合いの構えから全ての攻撃が放たれる。


 一定の攻撃を放った後に納刀動作に入るゼロコンマ数秒の僅かな隙が攻撃のチャンスだった。

 残り少ない渦を一瞬のチャンスにのみ振り込み、確実な一撃を挟み込んでいく。


 追い打ちを叩き込むべくすぐに立ち上がろうとするメリッサだが、膝が震えて思うように動けない。


「血を、流し過ぎた……」


 両者共に疲弊しきっており、言うことを聞かない体に鞭を打ってどうにか立ち上がろうとする。

 するとそれを見かねたルーズが声を上げる。


『おいメリッサ、どうにかアゲハの嬢ちゃん救う手立てはねぇのかよ! こんなんじゃアゲハの嬢ちゃんがあんまりだ!』


 ルーズの言うことは分かるが、メリッサは首を横に振る。


「向こうはもう、覚悟を決めてる。一度獣の祖と契約を結んだら、依り代になって獣の祖の身体の一部になるか、スリンガーに討たれるまで戦い続けることになる」


 メリッサは薄れつつある意識を必死につなぎ、銃とナイフを強く握る。


「けど、あの子のためにせめて出来ることは、あの獣の祖、禍虚を討伐して契約を断ち切らせることだけ」



 メリッサから強烈な一撃を受けたアゲハは身体が自動的に修復されていく感覚を味わいながら少しずつ息を整える。


 痛みは徐々に引いていき、体力も戻ってきているが、治癒されていくスピードは時間が経つごとに遅くなっていく。


「どう、して……まだ大して戦っていないのに」


 苛立ちながらも立ち上がると、メリッサも膝立ちで身体を起こし、銃弾を放ってきた。


「くっ!」


 体中の渦を回し、尋常ならざる速度でアゲハは刀を振るう。

 六発放たれた銃弾のうち四発は切り落とすが、うち二発がアゲハの腹と肺に直撃した。


「がっは!」


 血を吐いて膝から崩れ落ちるアゲハ。

 明らかに動きの切れが大幅に落ち、舞を踊る余裕もなくなっていた。

 すると、刀から禍虚が語り掛けてくる。


『ふむ、やはり邪術に目覚めたばかりで渦の加減が不安定か。最初の玄寺との闘いで放った一撃で渦のほとんどを使ってしまったからだろう』


 再生能力によってどうにか一命をとりとめているとはいえ、アゲハは肺が再生されるまで苦悶の表情を浮かべる。


「もう、渦が残っていない……」


 刀を支えにどうにか身を起こしてはいるが、アゲハはこれ以上動けないことを悟る。

 それを好機と見たのか、対峙するメリッサがもう一度銃を重そうに引き上げてこちらに向けようとする。


「これ以上は……もう……」


 そう零すアゲハだが、禍虚は『待たせたね』と一言告げた。


『準備は整った。詰めといこう、アゲハ』


 ドクン、とアゲハの心臓が大きく鼓動する。

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