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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第一章 蝶ガ墜散ル刻
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失墜の蝶 p.7

 男たちは玄寺を見送ると、身動きの取れないメリッサに向き直り、刀を振り上げる。

 刃が煌めき、勢いよく振り下ろされた。

 これだけは使いたくなかった……


 メリッサは目を見開き、身体を無理やり動かそうとしたその時、かつてないほどの重低音をまとった銃弾が飛来する。


 銃弾は刀を振り下ろしていた男の腕に命中すると、恐ろしいほどの勢いで両の腕を吹き飛ばし、悲鳴が上がる。

 残る刀使いの契約者とメリッサが銃弾が飛んできた方向を見ると、そこに金髪の男が立っていた。


「……ジーク」


 乱入してきた男ジークを、メリッサは知っていた。


「メリッサ、何だその体たらくは?」


 ジークは銃を肩に担ぐように持ち、メリッサへずかずかと歩いてくる。


「貴様、何奴!」


 刀使いの契約者の一人がジークに向かって駆ける。

 蝶流剣術の歩法を用い、瞬間移動にも似た速度でジークの背後を取る。


「ふん!」


 気合い一閃、刀が振られるが、刀はジークに振れた途端に砕け散る。


「……は?」


 破壊された刀の柄を振り抜いたまま、男は間の抜けた声を発し、ジークは肩越しでその男を睨む。


「誰の許可を貰って俺様の背後に立ってやがる」


 額に血管を浮かばせ、ジークは契約者が距離を取る前にその首を掴む。


「ぐぅ!」


 片腕で持ち上げられた男は抵抗するが、ジークは微動だにしない。

 男は必死の抵抗でジークの腕を僅かに残った刀の刃で切りつけようとするも、触れた途端に砂のように砕け、果てには男の腕が風船のように破裂し、返り血がジークの顔にかかる。


「汚ねぇな」


 ジークは更に顔を強張らせ、もう片方の手に持っていた銃を宙づりにした男へ向ける。

 すると、最初に腕を吹き飛ばされたもう一人の刀使いの契約者が、勝ち目がないと判断したてその場から逃げ出す。


 足音でそれを瞬時に見抜いたジークは、足元を力強く踏みつける。

 すると、何の変哲もなかった道が砕け始め、逃げる契約者の足元目掛けて地割れのようにひび割れる。


 逃げる契約者は足元が崩れ、そのまま身体が倒れ込む。


「っあ!」


 急な出来事に驚きの声が上がり、それが男の遺言となった。

 ジークは銃口を逃げていく男へと向け、引き金を引く。


 銃撃は狙い違わず男の胸を射抜き、貫かれた胸を中心に身体が崩れ始め、男は血の霧となって霧散した。


『流石、破壊王(クラッシャー)。触れた物を跡形もなく散らすな』


 地面に転がったままのルーズが言うと、ジークは舌打ちする。


「気色悪い銃が話しかけんじゃねぇ」


 ジークは掴んでいた契約者を容赦なく撃ち、同じように霧散させる。

 メリッサは地面に倒れたまま、その様子を見ていた。

 ジークは辺りの敵を一掃したことを確認すると、メリッサを見下ろす。


「何寝てんだテメェ」


 致命傷で倒れる仲間をジークは配慮ゼロで罵倒する。


「ジーク、この事件の首謀者を追って。この傷じゃもう動けない……」


 時折血を吐きつつメリッサはジークに伝えるも、ジークはぴくりと眉を一つ動かす。


「あ? 知るか」

「え?」


 ジークは眉間にしわを寄せてメリッサを見下ろす。


「テメェも俺も、一年前の借りにケリつけるために来たんだろ」


 ジークは倒れたメリッサの胸倉を掴むと、無理矢理引っ張り上げる。

 傷口が更に開いてしまうことも構わず、ジークは苦悶の表情を浮かべるメリッサの瞳を覗き込んだ。


「迷ってんのか?」


 ジークの問われ、脳裏に玄寺の言動がフラッシュバックする。


『貴様から信念の揺らぎを感じた。よもや他者への情けに惑わされたと言うまいな』


 心のどこかで思っていた。

 過酷な状況に追い込まれたアゲハの、唯一の肉親をこの手にかけてしまって良いのか。


 いつもなら問答などせず、出会い頭に銃弾をお見舞いするはずが、説得から始まったのが良い証拠だ。


 その迷いが今の結果を招いてしまったのではないか。

 残った僅かな力を振り絞り、拳を小さく握り閉めるメリッサ。


 どうにか言葉を発しようと口を動かすが、力が抜ける。

 血を流しすぎてしまい、身体がぴくりとも動かなくなってしまった。


「チッ、治療が先か」


 ジークは意識を失いつつあるメリッサを肩に担ぎ、ルーズを拾うとその場から歩き去る。



 彩乃は校舎まで戻ると教師達の誘導の元、体育館へ避難していた。

 周りには他に避難してきた生徒だけでなく、街の住民もちらほらいた。


 警察か軍人なのかは分からないが、深い緑のコートを着て銃を装備した人物が、体育館の入り口や周りをウロついているのが不気味さを増す。


「あいつら何なんだ。何が起こっているのか教えないし無理やりここまで連れ込まれたぞ」

「怖いよ、外から鉄砲の音がずっと鳴ってる……」


 避難した人たちから不安と不満の声が上がる。

 どうすることもできず、彩乃は途方に暮れていると、勢いよく体育館の扉が開いた。


 同じようなコートを羽織ったいかつい男と、肩には同じ服装の女の子を担いでいる。

 彩乃はその女の子に見覚えがあった。


「め、メリッサ!」


 彩乃はメリッサへ駆け寄ると、メリッサを担いだ男が彩乃を睨む。


「あ? 誰だテメェ?」

「と、友達です!」


 男の圧に気押された彩乃は思わず後ずさりする。

 すると男の肩に担がれていたメリッサがゆっくりと頭を動かす。


「ジーク……その子は護衛対象の、友人……」


 息も切れ切れなメリッサに、ジークは「そうかよ」と一言こぼし、メリッサを体育館の床に寝かせる。

 メリッサは胸と腹、足に大きな切り傷を負い、大量の血を流していた。


 見てるだけで血の気が失せる彩乃だが、ジークは彩乃を放り、懐から取り出した札のような物をメリッサに押し付ける。


「分かっていると思うが、こいつはお前の渦を限界以上に吸い出して傷を癒やす邪術だ。足りない渦はお前の生命力、寿命から削り取られる」


 メリッサはゆっくりと瞳を閉じ、こくりと頷いた


「……やって」


 ジークが持つ札が禍々しく光ると、メリッサの身体が電流を流されたかのように痙攣し始めた。


「メリッサ!」


 思わず悲鳴をあげる彩乃だが、治療は続く。

 札からの光は激しさを増し、痛みから身体を捻るメリッサ。

 ジークは体重をかけてメリッサを無理やり抑え込む。


 メリッサの手がジークの肩を掴み、爪が食い込むほどの力で肩を握る。

 ジークは肩から血が流れても、構わず治療を続けた。

 メリッサの傷は怪しい湯気を上げ、裂けた皮膚は巻き戻されるかのように塞がっていく。


 身をよじりながら苦悶の表情を上げるメリッサを、ジークは無言で抑え込み、やがて治療が完了する。

 ジークはメリッサの身体の傷が治ったことを一瞥すると立ち上がった。


「表で待ってるぞ」


 メリッサをそのままに、ジークは体育館を去り、彩乃はただその光景を呆然と眺める他なかった。

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