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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第一章 蝶ガ墜散ル刻
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刀使いの契約者 p.9

「銃をこっちに投げろ! この女を殺すぞ!」


 四楓院は怒号を放った。その瞳から躊躇いの文字は感じられない。

 すると、アゲハが小さな声を上げた。


「メリッサさん、四楓院先輩は仮にも蝶流剣術を少しだけ学んでます。蝶流は不完全でも十分危険な剣術です」


 アゲハは警告の意味を込めて言ってくれているが、友人の彩乃の身も案じているのだろう。


「そちらに投げるわ」


 メリッサはゆっくりと身を屈め、ルーズを床に滑らせるように四楓院目掛けて投げた。

 瞬間、四楓院の姿が一瞬にして消えた。


 いや、違う。

 姿が消える直前、四楓院の足が高速で移動したのをメリッサは目でとらえていた。

 すると、道場中に強烈な振動音が何度も鳴った。


 特殊な歩法を用いた高速移動。

 一年前に苦戦を強いられた、蝶流剣術の基本戦術、高速移動の剣戟だ。


「道場にいた頃より早い!」


 後ろにいるアゲハが叫ぶ。

 銃を手放したメリッサへすぐに攻撃を仕掛けてこない辺り、敵もある程度こちらを警戒しているのだろう。


 瞬間、ヒリつくような殺気に襲れ、メリッサはアゲハを突き飛ばす。


「あばよ金髪!」


 どこからともなく声が響き、メリッサの背後に四楓院が現れた。

 肉体強化をしたメリッサをも上回るスピード。

 回避不可の閃く刃はしかし、虚しく空を斬った。


「は?」


 四楓院の間の抜けた声と同時に爆竹に似た破裂音が炸裂。

 四楓院の間合いにいたメリッサは一瞬にして彩乃の近くに落ちていたルーズの近くに現れ、ルーズを拾う。


「ちぃ!」


 四楓院が再び両足に残像を残すほどの早さで動き、高速移動を用いてメリッサとの距離を縮める。

 対し、メリッサの両足から炎が舞い、そこから小さな爆発が生まれた。


 爆発は推進力となり、風を切る勢いでメリッサを飛ばす。

 振るわれた刃をたやすく躱し、床に炎を残してメリッサは宙を舞う。

 二本に結った髪が激しく揺れ、その姿は兎さながらだった。


「どうなってやがる!」


 接近戦に持ち込もうとする四楓院はメリッサとの距離を縮めるも、兎の足がそれを許さない。

 複雑な軌道を描いて動く蝶流の高速歩法と違い、メリッサの跳躍移動は爆発を利用して一直線に飛ぶ分、早い。


『これがメリッサちゃんが爆裂ウサギと呼ばれる由縁! 必殺のラビットダンスだ!』

「黙ってなさいルーズ!」


 メリッサが叫ぶと同時、四楓院の背後に現れ、弾丸を三発発射。

 弾は狙い違わず四楓院の胴体へと飛翔する。


 しかし、四楓院は空手をメリッサへと向けた。

 突如、飛翔した弾丸が巻き戻されるかのように逆走し、一発がメリッサの下腹部をかすめる。


「――っ!」


 発砲のために動きを止めた一瞬を狙われた。

 痛みに耐えるメリッサだが、その隙に四楓院は間合いを詰め、刀が袈裟懸けに振るわれ、メリッサめがけて刃が走る。


 身を逸らし、間一髪でそれを避けるが、四楓院の狙いはメリッサではなくルーズだった。

 刀はルーズに直撃し、四楓院はメリッサからルーズを弾き飛ばす。


『ぬおおお!』


 弾かれたルーズが叫ぶが、今はそれに構っている状況ではない。


「しゃぁ!」


 気合いの入り交じった四楓院の追撃が放たれる。

 メリッサは咄嗟に太ももに吊っていたナイフを抜き、紙一重で刃を受け止め、鍔迫り合いに持ち込む。


「っ! そう。契約者の能力、遠距離攻撃の反射ね」


 この一瞬でメリッサは四楓院の能力を看破した。

 メリッサの銃撃は反射されたのに対し、ナイフで応戦した際にはそれが生じなかった。


 二人の力は拮抗し、刀とナイフがぎちぎちと鈍い音を立てる。

 しかし、体重で勝る四楓院に優勢が移り、メリッサの肩へ徐々に刀が押し込んでくる。


「蝶流は銃使いのお前たちの天敵だ、接近戦は俺に分がある!」


 メリッサは両手でナイフを支えるが、状況は変らない。


「並のスリンガーなら、確かに相性最悪ね」


 徐々に追い込まれるも、メリッサは表情を崩さず、むしろ不敵に笑う。


「並なら、ね」


 炸裂音と同時、炎の推進力を得た蹴りが四楓院の真下から襲う。

 直撃の寸前、四楓院の頭が横へと逸れて回避される。


 が、間を置かずしてもう一発の炸裂音と同時、メリッサの追加の蹴りが四楓院の顔へ食い込む。

 サマーソルトによる蹴りの二連撃。


 メリッサのラビットダンスは高速移動と変則的な攻撃を実現する。

 足から伝わってくる感触から、四楓院の鼻の骨が折れたことを確信し、メリッサは躊躇うことなく蹴りを振りぬいた。


 爆発的な推進力も得た蹴りは尋常ではない威力となり、四楓院は血を撒きながら派手に吹き飛び、道場の壁に激突した。


「メリッサさん!」


 アゲハが叫び、いつの間にか拾っていたルーズをメリッサへ投げる。

 それを掴んだメリッサは、再び両足に爆炎を纏って四楓院へ接敵。


 敵に体勢を立て直す猶予を与えず、炎の跳び蹴りが四楓院の胸を抉る。

 壁にめり込むほどの威力が四楓院を襲い、衝撃で四楓院が持っていた刀がくるくると宙へ飛び、床に突き立つように刺さる。


 床へずり落ちた四楓院の頭へ銃口を向け、メリッサは四楓院へチェックをかける。


「近距離戦は私の得意分野なの」


 勝負あり。だが、四楓院は口から血反吐を流しながら未だニヤついた表情を崩さない。

 顔面を派手に蹴られ、四楓院の大きく歪んだ鼻を晒すが、それはみるみる内に治っていく。


「分かんねぇのかよ、俺に銃弾は効かない。能力で飛来物は全て反射するし、傷は負っても獣みたいに治るんだよ」

「あら、貴方も分かっていないみたいね」


 すると、メリッサは銃口を下げ、四楓院の頭に手を置く。


「なにを――」


 四楓院が言い切る前に、メリッサの手の平から爆炎が発生し、四楓院の頭部を燃やす。


「がぁぁ!」


 四楓院はのたうち回るが、炎はしばらく経つと消え、焼けただれた顔は録画映像が巻き戻るかのように治っていく。

 メリッサは床に倒れる四楓院を足で押さえ、その背中に手を乗せる。


「確かに、契約者は獣の祖と契約を交わせば、邪術と再生能力を授けられる。けれど、その二つとも身体の中に流れるエネルギー〝渦〟を原動力に発動する。つまり……」


 ギラリと獲物を締めにかかる鷹のように、メリッサの眼光が広がる。

 爆炎が再び上がり、四楓院の胴体に大穴が空いた。


 四楓院は大量の血を吹き出すが、すぐにその穴は塞がれていく。

 メリッサは四楓院を離さず、手の平を密着させる。


「貴方の中の渦が枯渇するまで追い込めば、再生能力も、反射の邪術も使えなくなる」


 爆炎が何度も発生し、その度に四楓院の身体は吹き飛び、再生する。

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