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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第一章 蝶ガ墜散ル刻
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刀使いの契約者 p.5

「遊びに行かないの?」


 学校の帰り、メリッサはアゲハと肩を並べて帰路を歩く。

 アゲハはメリッサが昼頃に彩乃と話したことについて質問していることに気づき、頬をかいた。


「えっと、まぁ、お金がなくて遊びに行けないなんて言えないし」

「……私が貴方の家にお邪魔している間は生活費全て賄っているわ。貯金も大切だけど羽を伸ばすのも大事よ」

「そう、だけど、道場からあまり離れたくなくて……」


 アゲハは困った表情で顔を俯かせる。


「母に、父と道場を守るように言われて、それ以来道場から離れるのが不安で。いつか母が帰ってくるんじゃないかって思っちゃって」


 自分でもありえないことを自覚しているのであろう、アゲハは地面に視線を向けたまま顔を上げようとしない。


 ふと、メリッサの脳裏にかつて自分が家族と食卓を囲んでいた頃の風景が蘇る。

 アゲハの胸中を察し、メリッサはそっとアゲハの背に手を添えた。


「何か美味しい物を買って帰りましょう」


 夕暮れ時の中、少女二人は寄り添うように歩き続けた。



 帰りのスーパーで一通りの食材を買い、二人は家に着く。

 すると、そこに黒塗りの車が一台止まっていた。


 メリッサはこの街では今まで見かけなかったその車に警戒すると同時、隣で歩いていたアゲハが息を潜めたのを感じる。


 メリッサとアゲハが来たのを見たのか、乗車していた男が下りてきた。

 その男を、メリッサは事前に組織から得た情報で把握していた。


 四楓院(しほういん)正人(まさと)

 四楓院カンパニーと呼ばれる貿易会社の社長にして、今アゲハと付き合っている四楓院明(あきら)の実父だ。


「やあアゲハちゃん、久しぶり。いつも明がお世話になっているね」


 正人の来訪に、アゲハは困惑した様子でメリッサに一瞬だけ視線を投げ、正人へお辞儀する。


「お、お久しぶりです」


 アゲハはおずおずと頭を下げながら正人の顔色を伺っていた。

 委縮するのも無理はない。


 目の前の男、正人は既に他界しているアゲハの母アサギと同時期に同じ大学へ通っいたことがあり、古い道場の整備や家の立て直しに必要な資金を正人が肩代わりしていたのだ。


 そんな経緯もあるからこそ、正人の息子である明がアゲハの道場に通い始め、アゲハへ接触するきっかけとなってしまったのだが。

 正人はニコニコとアゲハに歩み寄ると、アゲハの肩に手を置き、ゆっくりと撫で回す。


「少し見ない間にまた美人になったねアゲハちゃん。母親のアサギさんにそっくりだ」


 すぐ近くにメリッサがいることもお構いなしに、正人はアゲハへ熱い視線を送り、メリッサは嫌悪感を抱く。


「今日は、何の御用でしょうか?」


 アゲハは恐る恐ると正人に聞き、メリッサはそんな二人を一歩後ろから様子を見ていた。


「あぁ、君のお父さんに用があってね。少し前から積み立ての返金が止まっていたようだし。近々連絡をしようとしててね。ちょうど昨日から明と連絡が取れなくなって、玄寺に話をしながらアゲハちゃんに明のこと何か知らないか聞こうと思ったんだ」


 正人は口調こそ優しいが、言葉の端々に圧が込められていた。

 アゲハはプレッシャーに押しつぶされそうになるのを必死に堪えているのか、小さく握りこぶしを作ったのを、メリッサは視界の端で捉える。


「ご、ごめんなさい、四楓院先輩……明さんとは昨日学校へ一緒に登校してから連絡は取ってなくて……」


 思い出したくもない四楓院明の名と、人殺しの容疑がある父の名が出てアゲハは動揺しているのだろう、口調がしどろもどろだ。


 メリッサは割って入るかのようにアゲハと正人の間に立つと、「あーもー」と甘ったるい声を出す。


「アゲハぁ、お腹空いちゃったよー。話長くなるの?」


 おもむろにアゲハの腕に抱き着き、正人に向けてふくれっ面を見せるメリッサ。

 念話を使ったルーズから『うわキモ』と真面目なトーンで感想を呟かれるが、無視。

 ようやくメリッサの存在に気づいたのか、正人は一瞬だけ眉を潜ませるもまた笑顔を作る。


「あぁ、これはすまない。お友達も一緒だったのか」


 正人は「出直すよ」とだけ言うと車へと乗り、その場を去っていった。

 車が去っていくまでアゲハは棒立ちのまま身体を震わせ、メリッサはアゲハが抱いている恐怖を肌で感じた。

 


 時は夜更けになり、メリッサは獣討伐の支度をしていた。

 装備の確認をするも、アゲハが正人に会った時の姿が頭から離れない。


 正人の来訪後、アゲハはその日は気落ちしているのが明らかだった。

 客室を出て廊下を歩くと、アゲハの私室から薄っすらと音が聞こえた。


 メリッサは扉の前で不意に立ち止まり、つい耳を傾ける。


「――っ、お母さん……」


 涙声のアゲハの声が扉から漏れ出てきた。


『おいメリッサ、何考えてんだ?』


 ルーズの声にふと我に返り、メリッサはそっと扉に手を添える。


「……べつに」


 扉の向こうで泣くアゲハを残し、メリッサは獣の討伐へと向かう。

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