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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第一章 蝶ガ墜散ル刻
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刀使いの契約者 p.4

 ぴちゃん、と水音が風に漂い、玄寺の耳へ届く。

 とある暗がりで座禅を組んでいた玄寺はゆっくりと瞳を開く。


 目の前には代々蝶流剣術の皆伝者へ送られる刀が置かれていた。

 すると、刀が怪しく光り出す。


『刀を持ち出した小僧がやらかした。スリンガーに目をつけられたな』


 刀から発せられる声に玄寺は反応せず、瞳をゆっくりと閉じる。


『まぁ、未熟ながらも我らの眷属を増やし、スリンガーどもの注目を集めることは出来た。しばらくはスリンガーどもの目は街に点在する眷属と小僧へ向けられるだろう』


 玄寺は時が来るのを待っていた。

 数年前から立てていた計画がようやく実行されようとしている。


『ところで、お前の娘にスリンガーの手練れが張り付いている。しばらく自宅には寄らないことをお勧めする』


 薄っすらと玄寺の目が開く。


『何を考えているのか、お前の家を拠点に街を嗅ぎまわるつもりらしい』

「些事だ。放っておけ」

『そうか。しばらくは私の方で観察はしておくさ。お前の娘は最後の詰めに必要だろう』

「……」


 玄寺は答えず、また瞑想へと戻り、辺りに静寂が再び訪れた。



 アゲハを護衛しながらの共同生活は、メリッサが想定していたより順調に進んだ。

 朝は道場の様子を見に行くアゲハに付き添い、時に道場の掃除も手伝った。(朝早すぎて寝てしまう時もあるが)


 登校時はアゲハと通学路を歩き、彩乃もそれに混ざった日もあった。

 授業時間になると何かと言い訳をしてメリッサは校舎を抜け出し、スリンガーの団服に着替えて街へと繰り出す。


 街での調査中は他のスリンガーと連携し、獣堕ちした者の捜査、見つけ次第討伐を繰り返す。

 そうしているうちに放課後近くになると、メリッサだけその場を去り、制服に着替えて下校中の生徒に紛れてアゲハと合流して帰路につく。


 帰りにスーパーに寄って夕飯の食材を買い、アゲハの家に着くとアゲハと共に肩を並べて夕飯の支度をした。

 そんな日を数日過ごすと、アゲハの人となりも良く見えてくる。


 一言で言うと真面目。

 道場に残ってる門下生が一馬を含めた数名しかいないとはいえ、道場の手入れを毎日欠かさず行っていた。


 勉学も手を抜くことなく、授業にはしっかり集中し、(メリッサ自身は授業をほとんどサボっているが)自宅での予習復習も必要最低限の時間で効率よく済ませている。

 また、本人は校内でも一目置かれており、その生真面目さと優しさから男女問わず人気が高い。


 それだけに、四楓院と付き合い始めたことに肩を落とした者も多い。

 獣の事件に巻き込まれたことも考えると、アゲハの心労も並大抵ではないはずだが、当の本人は気丈に振る舞い続けていた。


『アゲハちゃんは生活苦しいってのに、優しさに溢れて、どこかの誰かさんとは違うなぁ』

「ルーズ、戦闘中に無駄口はやめて」


 メリッサはルーズに厳しく物申しながら、目の前に迫る獣の頭部へ銃口を叩きつけて引き金を引く。

 頭を撃ち抜かれて倒れた獣を放り、メリッサは異界が展開された空間で次の獲物を探しに駆ける。


『無駄口じゃねぇよ、愚痴だよ。俺の主様は俺が毎日毎日獣を討伐しているってのに労いの言葉一つかけねぇ。でもアゲハちゃんは俺を労わって手入れ用の良い油をくれるじゃねぇか。いつもお疲れ様です! ってかわいい笑顔でよぉ』


 減らない口数にメリッサは呆れつつ、無人の街を走る。


「私からしたら、無理をしているように見える。性格の問題でしょうけれど、他人に気を使い過ぎよ」


 体内の渦を回して身体能力を高め、メリッサは電柱の上へと飛び、辺りを見渡す。

 少し遠くのアパートの屋根で獣に追い詰められている住民が見えた。


 メリッサは矢の如く一気に獣目掛けて飛ぶ。

 瞬く間にアパートの屋上へと距離を詰め、メリッサは弾丸を獣へ何発も撃ちつける。


 一瞬の出来事で救われた住民すらぽかんと口を開けていたが、メリッサはそれを放置。

 全ての獣が討伐され、異界が崩れ始め、現実世界への反転が始まる。

 メリッサは住民に重症者がいないことを確認すると、耳につけていた通信機を起動する。


「この一帯の獣の討伐を完了。私は護衛に戻るので、事後処理は残りの班に任せる」


 それだけ言い残し、通信を切る。


『よーし、昼休憩だー、早くアゲハちゃんのところに行こうぜー』


 能天気なルーズだが、アゲハとの合流には全面的に同意だ。

 メリッサはルーズをホルスターへしまい、学校へと向かった。



 メリッサが学校に通うようになってしばらく経つと、メリッサは不良生徒として名を馳せていた。

 授業をサボタージュしては獣狩りに向かい、時たま昼食の時にアゲハの様子を見に学校へ戻ってくるのだから無理もない。


 いつものように学校の屋上でアゲハと彩乃と肩を並べて昼食を食べていると、突然彩乃がアゲハに抱き着く。


「ぶーぶー、メリッサちゃんがアゲハの家にホームステイしてるの羨ましい! 納得いかないー、私もアゲハの家でホームステイしたい!」


 メリッサがアゲハと四六時中いる理由をでっち上げるために作った設定に、彩乃は大層嫉妬していたらしい。


「仕方ないでしょ、メリッサさんはまだここに来たばかりで生活に慣れるまで誰かといた方が良いし」


 そう丁寧にアゲハは説得するも彩乃は不服そうな表情を崩さない。

 すると、彩乃は何かを思い出したのか手を合わせる。


「そうだアゲハ、今度の金曜日帰りにカラオケ行こうよ! 久しぶりにアゲハの歌聞きたい!」

「え、いや、いいよ、私歌下手だし」

「それが聞きたいのー! メリッサちゃんも行こうよ!」


 彩乃はアゲハの肩にぐりぐりと頭をこすりつけてくるが、アゲハは困ったように彩乃の頭を掴んで遠ざける。


「ごめん彩乃、私週末は道場の周りの掃除があるから」

「あ、また道場がー道場がーて言ってる。たまにはサボっちゃいなよ」


 彩乃は抗議するも、アゲハは眉をハの字にして頑なに断る。

 メリッサはそんな彼女のやり取りを見て彼女がどこか無理をしているように感じた。

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