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Slinger - スリンガー -  作者: 速水ニキ
第一章 蝶ガ墜散ル刻
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刀使いの契約者 p.1

 息苦しく、体が言うことを効かず、手に握った銃もいつも以上に重い。

 辺り一面は業火に焼かれ、神聖な場であるはずの教会は、あまりの惨状に地獄絵図と化している。

 メリッサは目の前に倒れた男を一瞥する。


 黄色い合羽を着た男は刀を握ったまま、銃弾により眉間に風穴を開けられ、絶命していた。

 メリッサは頭からの出血が激しくフラつきながら振り返る。

 その先に倒れているのはメリッサと同じコートを着たスリンガーだ。


 身体には幾つもの傷が刻まれ、命の灯火が消えているのは明白だった。


「――っ!」


 膝から崩れ落ちたメリッサは、握りこぶしを床に叩きつけた。

 自然と一筋の涙がメリッサの頬を伝い、感情をぶちまけて叫ぼうとした時、背後に何かが動く気配を感じる。


『メリッサ!』


 手に握ったルーズが叫ぶと同時、涙を流しながらメリッサは振り向きざまに銃を放つ。

 すると、絶命していたはずの男が立ち上がると同時、メリッサが撃った銃弾が直撃する。


 狙い違わず男の胸を貫き身体吹き飛ばすが、男は何かに引っ張られるかのように、フラフラとまた立ち上がる。


『まったく、手荒いな。こちらは死体を操れても、せいぜい立たせて喋るだけだというのに』


 死体であるはずの男が話すが、口調がどこか無機質だった。


「お前は誰だ!」


 激高したメリッサは、周りで燃える炎のように声を荒らげて叫ぶ。


『そうだね。君達が獣の祖と呼ぶ者だよ。滅多にない機会だ、邪魔ばかりするスリンガー諸君に挨拶をしてみたくてね』

「ふざけるな!」


 メリッサは引き金を容赦なく引く度に、獣の祖が操っている男の死体が銃弾を何発も浴びる。

 銃弾が直撃すると死体は踊るように仰け反り倒れるが、それでもまた立ち上がる。


『ふぅ、仲間を亡くして理性を失っているか。これではどちらが獣か分からないな』


 いつもは冷静なメリッサも、獣の祖の安い挑発に今日ばかりは簡単に乗ってしまう。

 歯をむき出しにし、一刻も早くこの元凶との会話を打ち止めるべく、獣の祖が地上の人間を操るための触媒としている刀に照準を合わせる。


『話す気はない、か。ならこれだけは言わせてもらおう』


 これ以上口を動かすな。

 怒りに身を任せ、メリッサが撃った銃弾は狙い違わず男が持っている刀に当たると、いとも簡単に砕ける。


『まだ終わらない』


 倒れゆく男の死体はそう呟き、ぴくりとも動かなくなる。

 周りの炎は激しさを増して燃えていくが、教会の窓から見える紫色の空がヒビ割れ始めた。

 終わった。だが、仲間を失った。


 メリッサは教会の中で怒号を上げるが、それを聞く者は誰もいない。



『メリッサ! おいメリッサ!』


 ルーズの声がメリッサの耳に届き、メリッサはふと我に返る。

 空間湾曲の解除と共に、空が元に戻っていく様を眺めていたメリッサは、いつかの出来事が脳裏をよぎり、つい物思いに耽ってしまっていた。


『アゲハちゃんを放っていて良いのかよ?』


 冷静に聞くルーズに、メリッサは「えぇ」と短く答える。


「ちょっと、嫌なことを思い出していただけ」


 頭の隅に浮かぶ記憶を振り払い、メリッサはアゲハの元へと足を運ぶ。



 大きくひび割れた紫色の空がガラスの破片のように砕け、青空が覗き、光が差し込んでくる。

 先ほどまでの不気味な異空間が嘘だったかのように、アゲハの良く知る街の風景が段々と戻ってきた。


 絵の具で色を塗っていくように、街並みが色鮮やかになっていくと同時、破壊された建物や地面に転がっていた獣の死骸も消え去っていく。

 それは、人間の形をとどめたままの遺体もそうだった。


 アゲハはそれらが消えていく様を眺めて口を押さえる。

 すると、いつのまにかアゲハの隣に寄り添っていたメリッサがアゲハの腰を優しく支える。


「大丈夫?」

「こんなことを、私の道場が、蝶流の者がしたなんて」

「貴方は悪くないわ、気に病まないで」


 アゲハは目の前で遺体が完全に消え去っていくのが見ていられず、メリッサの肩に顔をうずめた。

 すると、近くで何人かの足音が聞こえ、アゲハはメリッサに身を隠しながら視線を移す。

 そこにメリッサと同じロングコートを着た男女が数名現れた。



 ロングコートを着た男が一人一歩前に出ると、銃を引き抜き、セーフティがかかっていることを見せてホルスターに銃を戻す。

 メリッサも同じ動作をし、スリンガー間で交わされる敬礼を終える。


「一班から六班、それぞれの担当地区で空間湾曲が解除されたことを確認しました。現在、負傷した一般人を優先的に医療機関へ引き渡し中。終わり次第持ち場に戻る予定です」

「了解。貴方達の担当区域にお邪魔している身なのに、勝手に指揮を執ってしまって、ごめんなさい」


 メリッサは軽く謝ると、団員の男は慌てて首を横に振る。


「そんな! お邪魔なんて。〝バレッツ〟の一人と任務に着けることほど良い経験はない。どうか、いろいろ学ばせてください」


 先ほどの戦場での悲惨な空気から一点、穏やかな雰囲気が流れ、メリッサはようやく警戒心を解く。

 後ろに隠れているアゲハが気になり、メリッサはアゲハの手を握る。


「私はこの子を家まで送るわ。いろいろ話をしないといけないし」


 メリッサは優しくアゲハの手を引くと、アゲハは団員たちに軽くお辞儀をしたのちメリッサの後に続いた。

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