第七話「終わりの雨」
エピローグです。
全ては私の望みだった。いや、究極的な私の我儘だった。
『天使の雨』と魔法使い達の間で慕われていた私には、一生のうちに一つだけやっておきたいことがあった。
目立たない姿で、人を助けたい。世界中の人々を見てみたい。
私の恋人のスノウにこのことを相談したら彼はこう言った。
「なら、クラウドのような姿になって、世界を旅してみなよ」
その言葉にクラウドの金色の目が光った。
「俺みたいな姿?なにかと不便だぞ?」
「それでも、レイン自身でいるより目立たないし、レインだっていうことがわからないだろ」
私は、それはいい考えだと思った。自分自身がクラウドの様な黒猫に魔法で変化する。
で もそれにも問題がある。私の性格上、いつ自分の正体をばらしてしまうかわからない。なにせクラウド曰く猫はなにかと不便らしいから。私は隠れて人助けをしたいのに、それではできなくなってしまう。
「俺が呪いをかけてやる。適当な記憶を刷り込ませ、レインとはある意味逆の感情を持つ黒猫にしてみせるよ」
呪術を研究していたスノウは目を輝かせて私に言った。
彼の言葉を、彼の目の輝きを私は信じることにした。
「いつなにがあってもいいように、クラウドを密かに見張らせる。もちろん四六時中じゃないが。色々と君が動きやすいようにクラウドには動いてもらう。そして、時が経った時、またこの屋敷にもどってくるように仕掛けておこう。私はこの屋敷から二枚の手鏡によって監視しているよ。クラウドと、そして君を。クラウドとは随時連絡を取り合って、こちら側から指示を出せるようにしないとな。あと、適当な記憶を刷り込ませないといけないな。どうしようか。ラフィスの名前でも借りるか?」
とんとん拍子でスノウの話は進んで行った。
「「ラフィスはどうかなぁ」」
私とクラウドが声を合わせて言うと、
「いや、インパクトがあっていいと思うんだ。その記憶もおぼろげにしとけば大丈夫さ」
と言いきり、いきなり、
「そうだ、君の名前はサンにしよう!君は雨。そしてもう一人の君は太陽だ。君が太陽の間、みんなにとっての雨の記憶は『太陽の黒猫』というものに変わる。君の呪いが解けた時点で再び『天使の雨』の記憶に戻るって仕組みだ」
スノウは着々と準備を進めてくれた。
そしてその計画はついに実行へと移された。
「クラウド、妹が出来た気分じゃないのか?」
スノウは金色の瞳を持つ黒猫のクラウドに訊く。
「そんなことねぇよ。けど、なんか雌猫としてフツーに可愛いよな」
へへへと笑って返すクラウド。
「妹じゃなくて恋人か?それじゃあお前の行為はストーカーだな」
「ばっ!ぃ、妹だよ」
「ははは、とにかくお前の働きが大事だからな。頼んだぞ」
「ふぅ、またこんな仕事か・・・まぁいいか、任せろ」
後から聞いた話だとそんな二人(?)の会話があったらしい。
そして私は今までの記憶を失い、サンとして旅をしてきた。
私にはラフィスの血が流れている。私は空間転移の魔法を世界で唯一、完璧に使いこなせる魔女だった。知らない場所にも転移可能であり、人間に見つかる可能性を極めて低くする術を持っていた。そうして私は世界を飛び回っていた。
いつの間にか多くの歳月が流れた。
枯れた町で、なぜかリドルにだけは呪いが中途半端にしか効いていなかった。恐らく私の送っていた手紙のせいだと思う。それが若干の誤算だったらしいが、それをうまく利用して、結果的には屋敷に帰ってこれたわけだ。
そして私はスノウに頭を撫でられるということで呪いを解いた。
人間はとても愚かだった。欲に溺れ、第一に我が身の保身を考える。
それでも・・・独りぼっちでも光を見出す人間も、愛する他人のため小さな石に命を掛けた人間も、動物を心から愛していたのに一番愛した動物を犠牲にしてしまった人間も、火の中に自分の居場所を求める人間とそれを一心に待つ人間も、みんな精一杯生きていた。
私はまた旅をしたいと思った。
私も欲にまみれた人間と変わらないのかもしれない。
それでもかまわない。
他人からなんと言われようが、私の生き方は私が決めるものだから。
それが人間らしいと思ったから。
だって、私は人間が大好きだから・・・。
ありがとう、スノウ。クラウド。
そして『太陽の黒猫』
いや、もう一人の私
いや、サン。
本当にありがとう。
『太陽の黒猫』END
実は、この作品はとある作品の続編というか、スピンオフだったりするのです。
つまり、レインの生い立ちを記した小説が存在するわけです。
設定はほぼ決まっているものの、まだちゃんとした形になっていないので、後々連載できたらいいなっと思っています。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
ずうずうしいようですが、感想などなど頂けたら、泣いて喜びます。