小さな失敗 【月夜譚No.108】
針の穴に糸を通すような、そんな緊張感だった。その場に立っているだけでも疲れてしまい、もう終わったにも拘わらず、今もまだ心臓がドキドキしている。
ビルとビルの間に位置する暗い路地で、彼女は壁に背をつけて息を吐き出した。知らず知らずの内に強張っていた肩から、自然と力が抜ける。
怒られたのは、彼女ではない。それでも怒気は部屋中に広がって漂い、周囲にも影響を及ぼす。
怒られていたのは、彼女と同い年の女性。その内容を聞いてはいたが、そこまで怒る必要のない些末な失敗だった。
ともすれば、自分だってやりかねないようなものだ。あの怒りが自分に向けられたらと考えるだけで、身が竦む思いになる。
彼女は気を取り直すように自分の腕をさすって、帰路に就いた。
明日、怒られていたあの子と顔を合わせたら、笑顔で挨拶ができるようにと、そう思いながら。