07
グロスくん視点。
こっちの国、アルデバランに来てからこの1週間はあっという間だった。
太陽が昇る前に起き、まずは馬用の水を汲み、馬体と蹄の手入れをし、餌をやる。
そのついでに自分も顔を洗いつつ、犬や鶏の細々とした世話をし畑に水をやる。
たったそれだけで薄暗かった視界があっさりと終わりを告げ、1日が始まってしまう。
自分の身体からも、馬の身体からも湯気が見える。
「グロスー、朝ごはんにするわよー卵あったら持っていらっしゃいー」
「おー」
鶏は12羽…あ、昨日1羽食ったから11羽か。
まぁそれでも2人で食べる分くらい余裕で生んでくれている。
スーパーや冷蔵庫の卵と違ってホカホカというか、ぬるい温度なのが違和感あるけれど黄身の色も味も濃く、米がないことが本当に悔やまれる。
ああ…あつあつの白米にパカっと割った、たまごかけごはんが食べたい。
小屋という小屋の扉を開け、馬1頭、犬4匹、鶏11羽を解放する。
鶏は小屋まわりの柵の中で動き回る程度だけど、犬と馬は柵の外、山へと行きたがるので木製の柵を体当たりで壊されないよう、門…といえるほどのものでもないけれど扉の鍵を開けておく。
今朝も馬1頭と犬2匹がゴキゲンな様子で山のほうへと向かって行く。
留守番組の2匹は玄関先でひなたぼっこだ。
犬たちは玄関を開けても中には入ってこない、が。
毎回必ずドア前に伏せていて、俺を入らせないようにしている。
「お前ら…!いい加減にしろよ…っ」
毎朝この時間に序列が一番下なんだな、と感じて疲れる。
2匹を押しのけてやっとキッチンまで卵を持っていけば、少し調理の手伝いをする。
「お疲れ様、スープ温めたから溶き卵にして入れて」
たまねぎ、つゆ草、ヒラ茸、大豆、塩…何が入っているのか、材料のすべてを横に立ち、教えてくれる。
調理前の見本も1つ置いてくれているので、蓄えるべき知識を丁寧に示してもらえているし、しかもなるべく手に入りやすく、手間のかからないものを教わっているというのが――最初やきそばもどきを食べただけに分かる。
もどきと言っていたけれど、あの味はちゃんとソースだった。
麺が違うだけで、あれはあれでやきそばだと思う。
「今日キャノンについてったの、どの子だった?」
「黄色と青の首輪…ニコンと、オリンパス」
「じゃあペンタ居るのね、ペンターーー!」
わふっっと外から返事が聞こえてくる。
「出来上がったらスープカップ出してパンと一緒にテーブル持って行ってね、ペンタァーーお使いよーー!」
そう言って、キッチンから離れ、玄関先へ。
馬のキャノンは寝床は与えるものの、ほぼ放し飼い状態だけど、4頭の犬たちは住み込み勤務してますみたいな顔をしてペアで動いていることが多い。
キャノンに着いて行った2匹は近所の見回りついでにキャノンの子守をしているようなもんで、
暗くなる前に嫌そうな顔した図体のデカイ馬をせっついて帰宅させているし、さっき呼ばれたペンタは麓の村へのメッセンジャーとしてこれからひと働きしてくれる。
「よし!行ってこーい!」
わふっ!といい返事をして駆け出していったであろうペンタックスを、きっと見えなくなるまで見送ったのだろう。
少し間が開いてから戻ってきてようやく朝ご飯の時間になった。
「じゃあ今日も自然の恵みに感謝して」
「「いただきます」」
もう彼女も俺も日本語では話していない。
慣れれば変換されるままの言語で話すほうが楽になった。
あと2日。
10日目の朝、俺はここを出る。