目覚め
「自分より頭の良い人間が出てくる物語は書けない」と、誰かが言っていた気がしますが、もしそうなら、この作品を読んでいただくことで、私の頭の良さが分かっていただけると思います。
そんな戯れ言はさておき、
つたない文章ながら、楽しみながら読んでいただけたら幸いです。
大きなスタジアムに観客がひしめき、アナウンスが響き渡る。
「さあ始まりました!全国対抗エレクトロトーナメント決勝!!この大舞台までのしあがって来たのは、言わずと知れた『銀晶の姫騎士』藤宮時雨!そしてその相方は、もう『最弱の侍』とは言わせない、ここまで幾度となく下克上を成し遂げてきた、多月悠真!!対するは……」
選手控え室にて、1人落ち着かない様子の銀髪の少女。
「悠真はまだだろうか……忘れ物を取りに行くだけだと言っていたが……」
結局、彼の部屋に迎えにいくことにする。これは決して、1人でいるのが寂しくなったからとかではない。
スタジアムから離れた学生寮の一角、目的の部屋まで着くとノックをする。が、返事は無い。
「悠真?いるのか?」
なんとなくドアノブを回してみると、すんなり開いてしまう。
「悠真?」
恐る恐る部屋に入り、しばらく見回すと、机に突っ伏した黒髪の見つける。一安心して近づき、そのまま彼の肩をゆする。
「試合前に居眠りとはのんきな奴だな。ほら、起きろ悠真」
だが、彼に反応は無い。それでも声をかけながら肩を揺さぶり続けるが、しばらくして異変に気づく。
「……悠真……?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
目を開けると、すぐに自分の部屋ではないことに気付いた。
自分の部屋ではない場所で、自分のものではないベッドに寝ている。状況を理解する前に、ふと右手に熱と圧力を感じ、そちらを向くと、銀髪の少女が、自分の右手を握ったまま眠っていた。一目で見覚えのない人物だと分かった。もし普段の生活でこんな銀髪の少女を見かけたら、忘れるわけがない。
少女を起こさないようにそっと右手を引き抜くと、上半身を起こす。どうやら、病室のような場所にいるらしいが、記憶の限りでは覚えのない場所だった。そもそも、何があってこの部屋にいるのかも分からない。知らない場所、知らない少女、知らない状況。何も分からないことに、思わず頭を抱えてしまう。
すると、何がきっかけだったのかは分からないが、さっきまですやすやと眠っていた銀髪の少女が、小さく声を漏らしながらゆっくり目を開けた。半分寝ぼけたままの目で辺りを見渡し、こちらに気づくと、たちまちに覚醒した様子を見せ、そのまま無言でこちらに両手を伸ばすと、思いっきり抱き締めてきた。そして、若干涙ぐんだ声で同じ言葉を繰り返す。
「よかった……本当によかった……」
更なる不可解な状況にうろたえるしか出来ないでいると、少女は落ち着いたのか、ゆっくり俺から離れると、顔をこちらに向けながらベッドの縁に腰かけた。
改めて見ると、宝石のように銀色に輝く髪に加え、女性らしくもスッキリとした輪郭といい、日本人顔ながらはっきりした目鼻立ちといい、かなり整った容姿の、言うところによる美少女だということに気付かされる。
見た目高校生くらいのその少女は、きりっとしつつも、どこか安堵のような穏やかさを含めた表情で、こちらをじっと見つめてくる。それもかなりの至近距離で。
女性に長時間見られたことなど一度もないので、どうしたらいいのか分からず、しばらくは互いに黙ったままの時間が流れていたが、その沈黙は、突然のノックによって破られた。
部屋の扉を開けて現れたのは、白いスーツの上から白衣を羽織った女性と、それぞれ長い金髪と短い空色の髪を持つ、二人の少女だった。白衣の女性は俺と銀髪少女を見て、微かな笑みを浮かべた。
「中から声が聞こえたから、もしやと思ったが。やはり目を覚ましたようだな、多月」
多月って誰だ?
すると、女性の後ろに立っていた少女たちが前に出てきた。そして俺を見たとたん目を輝かせた。
「多月……」
「多月君……」
だから多月って誰だ。
知らない人間が増えたことで、ますます混乱してきた俺を見て、銀髪の少女は何かに気が付いたようだった。
「悠真、大丈夫か?」
「ちょっと、何がなんだか」
悠真が誰なのかも分からないし。
「先生、ゆう…多月は、記憶が混乱しているようです」
「そうなのか?多月、どこまで覚えている?」
「えっと、その、多月って誰ですか?」
俺がそう言った瞬間、俺以外の全員は驚愕したような顔をした。
「えっと……」
他より少し早く持ち直したらしい白衣女性が、恐る恐るといった様子で問いかけてきた。
「何も、覚えてないのか?」
その直後、女性と一緒に来た少女のうち、金髪の方が、焦ったように訊いてきた。
「私達のことは、覚えていませんか?」
覚えているかで言えば、覚えていない。というか、知らない。
「……すみませんが、全く」
答えてからふと横を見ると、銀髪の少女は、なんとも言えない顔でこちらを見ていた。俺と目が合うと、声を出さずに口だけを動かし、最後は歯を食い縛るように固く閉じた。
何か声をかけないとと思うが、何を言っていいのか分からない。
「あの……」
「くっ……」
銀髪の少女は立ち上がり、走り出すように部屋を出ていってしまった。後から来た少女二人はそれを追いかけていき、女性は一度彼女たちを目で追ってから、こちらに向き直した。
「それじゃ、お前はもう少し休んでいろ。時間が経てば、何か思い出すかもしれないしな」
そして、歩いて部屋を出ていった。
一体どういうことだろうか。何故ここに居るのかは分からないが、自分が彼女たちの言う『多月』ではないことは分かる。俺は、日本でごく普通に暮らしていたはずだが、気付けばここにいた。そして、さっきまでこの部屋にいた少女たち。彼女たちの様に色とりどりの髪を持つ人間は、日本ではまず見ない。しかし、彼女たちは日本語を話していて、顔立ちも外国人の様には見えなかった。しかし、髪は生え際から毛先まできれいに色がついていて、染めている風には見えなかった。どころか、そこらの人間より色つやがいいように見える。ついでに言えば美人揃いだった。全く夢でも見ているような気分だが、頬を引っ張らなくても現実であると分かる。
とりあえず、体を動かせば頭も連動するのではないかという安い考えで、ベッドから立ち上がり、部屋の中をを歩き回る。体に若干の違和感を感じるが、気分はむしろいい方で、窓まで行って外を眺めてみる。この部屋は4階建ての建物の3階にあるらしく、生憎部屋に1つしかない窓からは、自分のいる建物の白い壁と都会的な町並みしか見えなかった。
それよりも気になることがあった。
窓には、外の景色と重なるように部屋の中側が反射して写っているが、そこにいた男は、本来俺が写るはずの場所に写っている男は、俺ではなかった。
「誰だ、こいつ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
1つ理解したことがある。どうやら俺は、俺ではない別の人間になっているようだ。
恐らくは、さっきまで何度も出ていた多月という名前の少年なのだろうが、なぜこうなったのか。先程の、少女たちや白衣の女性の発言や雰囲気から考えれば、何らかの原因で昏睡状態だった多月という人間に、俺が乗り移ってしまった可能性が高い。ただ、俺は死んで幽霊なった訳ではないし、何で他人に乗り移るような状況になったのか全く分からない。仮に、知らない間に幽体離脱的に魂が抜け出ていたのだとしても、ここに行きつく理由がない。まぁ、幽体離脱の時点でかなり薄い可能性ではあるが。
とにかく、今のままでは情報が足りなすぎて、どうにも判断がつかない。誰かに相談したいくらいだが、この辺りに俺の知り合いがいるとは思えない。なら、さっき来た内の誰かに相談するか。それならば、とりあえず対象を1人に絞れるが……。
すると、扉のノックの後に、さっき出ていったはずの白衣の女性が入って来た。
「さっき言い忘れたんだが、腹が減ったときは一階の厨房に……どうした?何か言いたそうな顔だが」
「あの、お話があります」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「なるほど、つまり君は多月悠真ではなく、別の人間だと言いたいんだな?いかんせん信じ難い話ではあるが」
「あり得ない話なのはよく分かっています。ただ、俺には信じてくださいとしか言えません」
「そうか、なら信じよう」
「ですよね…………え?」
「嘘にしてはあまりに突拍子がなさすぎる。第一、私の知っている多月は嘘なんてつけない真面目君だからな」
「ありがとうございます」
「ただ、この事は他の人間には黙っていた方がいい」
「どういうことですか?」
「人間の中身が別人に変わったなんて、前例がない珍事だ。もし世間にその事が知れ渡れば、注目の的になるだけじゃない。君の身、もしくは多月の身が危険にさらされるかもしれない。全く、以前から問題事を抱え込むやつではあったが、さすがにこれは予想外だよ」
「で、俺はどうすればいいんですか?」
「とりあえずは大人しく入院していろ。体そのものに異常がない以上、いつまでもとは行かないだろうが、そこは私に考えがある」
「考え?」
「明日話すさ。そうだ、自己紹介をしていなかったな」
「はぁ」
「私は津面侑李、ここで教師をしている者だ。ようこそ、国立電磁魔導学園へ」
「小説家になろう」と言えば、なろう作品として愛されるw異世界転生や転移ものが有名ですが、そんな転移システムと、別の王道ラノベ設定をうまく一緒に使えないかと無い頭で考えて、こんなものができました。面白いかは知りません。
話は変わってこの作品に挿し絵を描いてくれる方を募集しています。私の画力は、日曜に世界にイッテいるアイドル並みなので。もしお暇の方がいらっしゃればよろしくお願いします。