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六十ページ目

――――――――――

捻る(ツウィト・)槍紐(ラング)の槍触手】を収集しました

捻る(ツウィト・)槍紐(ラング)の青銅殻】を収集しました

縺れる(タール・)銀月(シルン)の浮遊体】を収集しました

縺れる(タール・)銀月(シルン)の毒牙剣】を収集しました

縺れる(タール・)銀月(シルン)の痺牙剣】を収集しました

嘔う(シーグ・)肉顔(ミイス)の死面】を収集しました

嘔う(シーグ・)肉顔(ミイス)の眼脚】を収集しました

嘔う(シーグ・)肉顔(ミイス)の蛇頭】を収集しました

弄する(トッピズ・)肉唄(ミング)の叫舌】を収集しました

弄する(トッピズ・)肉唄(ミング)の歌唱歯団】を収集しました

【グレルドーラ軍式長剣】を収集しました

【グレルドーラ軍式長槍】を収集しました

【グレルドーラ軍式魔導槍】を収集しました

【グレルドーラ軍式複合弓】を収集しました

【グレルドーラ軍式機巧鎧】を収集しました

【グレルドーラ軍式試作型魔導機銃】を収集しました

――――――――――


 いとも簡単に増えていくコレクションを見て、思わず心が踊る。今回来ている場所が戦いの舞台になっていることは知っていたものの、その戦火は考えていた以上に激しく、そして様々な戦力が投入されているようだ。"巡りし平丘"と呼ばれているこの魔境は、地形だけを見ればなだらかな平地や丘が広がる牧歌的な平原地帯なのだが、その進みやすさと三ヶ国の国境が重なりあっているという状況が合わさり、ずいぶん前からこの魔境全域が国同士での戦争の場となっているらしい。

 ずいぶん前からとはいっても、それは数年やそこらの話ではない。普通の人間が営む国同士の戦いであれば、確かにそれくらいの期間しか戦線を維持することができないだろう。だが、この戦争に参加する国のうち、人による統治が為されているのはたった一ヶ国のみ。他の二つは魔物とも化け物ともつかない異形の存在が統べる魔国なのだという。


 "巡りし平丘"に広がる戦火のあとを見てもそれは明らかだ。人の亡骸が地に横たわってはいるものの、それに折り重なるようにして倒れているのは肉塊か金属でできた化け物の残骸である。それぞれが"肉獣"、"機獣"と呼ばれているその化け物たちは、偶然の賜物か、いずれも見覚えがある姿をしていた。"肉獣"はガイネベリアという強固な壁に守られた都市を襲撃していた魔物に酷似した外見をしており、そして"機獣"は緑人(エルフ)の森に侵攻していた敵と名前も外見も一致していたのだ。

 双方とも姿かたちは様々で個体としては初めて見るものばかりだが、身体の全てが肉か金属で作られているという特徴は一体残らず一致しており、この戦場に人以外の二つの勢力が存在していることは明らかだった。


 自然に存在するとは考えがたい二種類の化け物がどのように生まれ、どんな国を形成しているのか興味はつきないが、肉獣と機獣がそれぞれ支配する二ヶ国が、この戦場で互いと人を際限なく駆逐し合っているのである。

 聞いた話によれば、この戦いはそれこそ百年の単位で続いているらしいが、未だに終わる気配はないという。だが、それほど長い間戦い続けているのは肉獣と機獣同士に限った話で、”グレルドーラ”という名の人間が営む国家だけはここ数十年ほど、戦火が自国に飛び火しそうなときだけ戦力を投入して戦線を押し上げる、という戦い方にシフトしているらしい。

 ちょうど足を踏み入れた戦場もそうして派遣された兵士たちが激戦を繰り広げ、そして壊滅した場所だった。ただ一人だけ生き残っていた兵士の治療を【瘴気愛す夢死姫(パラモセス)】に任せている間に周りで収集した成果が、先ほどの物品たちだったというわけだ。


 しかし、ここまで激しい戦いが繰り広げられている戦場に来るのは初めてなのだが、収集が捗ることこの上ない。ここに至るまでにもいくつもの物品が手に入ったのだが、そのほとんどが戦いに関連するものであったため、戦力の増強、という面から見ても目覚ましい収穫だった。


 こうして戦力が増強されていくと、つい失くなったはずの右足に無意識に触れようとしてしまう。この程度の戦力が増えたところで、今は義足に取って替わってしまった我が右足をあの状況から守りきれたとは到底思えないが、もしかしたらまた違う結果になった可能性もあるだろう。腐りきってしまった右足は一応全書に保管してはいるものの、以前のように繋ぎ直すことが不可能なのは明らかだ。仕方がなかったとはいえ、一度失ったものを取り戻すことはできない。右足があるはずの場所に装着された義足に触れる度に、それを痛感し、これ以上なにも失うまいという決意が逸るのだ。


 まったく同時に【聳え立つ壁剣の威光(ガザル・ジルラド)】も片足を失っていたが、そちらの方はすでに全書を用いた修復が完了しており、動きにはまったく支障はないようだった。現に先ほども、死にかけの兵士に襲いかかっていた機獣を丈夫そうな外殻ごと真っ二つに両断しており、頼もしいことこの上ない。シロテラン封印区の最奥で手に入れた【剛鉄鋼】を全て使用して生成した【聳え立つ壁剣の威光(ガザル・ジルラド)】は今持ちうるコレクションのなかでも最大の戦力であり、最後の奥の手としてゴルタラにぶつけたのだが、それはあっけないほどあっさりと返り討ちにされてしまった。

 慢心、と呼ぶほどのものではないにしろ油断をしていたことも事実だっただろう。"アベイル砦"を発ってから諸々の事件に巻き込まれはしたが、その都度たいした損害もなく切り抜けることができていた。その記憶が、こうして四肢の半分を失うという結果に繋がってしまったのだ。

 幸いにして全書を使えば義手も義足も作り出すことができる。それらにより以前と同じような生活を送ることもできるが、やはり不都合が出てしまう場面もあった。

 例えばまさに今立っているような残骸に埋め尽くされたぬかるんだ地面など、歩きづらいことこの上ない。先に進むほどに急速に増えていく残骸に手を焼きながらここまではなんとか来れたものの、いまだ慣れない義足ではいつまで立っても先に進めなさそうだ。


 そこで自分の足でこれ以上進むのは諦め、ここからの移動はコレクションに頼ることにする。全書から久方ぶりに出すのは【脚歩きの水体】だ。最近はもっぱら馬車での移動が多かったのでしばらく全書のなかで肥やしになっていたが、こうした不安定な足場ではこの粘体(スライム)は非常に役に立ってくれる。反面戦力としては頼りないので、【樹衣の鬼猿代(カラネルソー)】に担いでもらって移動してもいいのだが、あれはその巨体ゆえ少々目立ちすぎる。ここはいまだ戦いが続く戦場だ。いくら今いるのが広い戦火の末端と呼べる場所であるとはいえ、不用意に的を大きくする必要もないだろう。


 そうして先に進むための算段をつけたところで、【瘴気愛す夢死姫(パラモセス)】に治療させていた兵士が目を覚ましたようだ。致命傷とはいえ、損傷部分が限られていたことが功を奏したようだ。【瘴気愛す夢死姫(パラモセス)】となった樹姫は権能として非常に優れた治癒能力を持つ。誰かのように四肢が切り離されたりしない限り、よほどの傷は治療できるほどになっているのである。


――――――――――

瘴気愛す夢死姫(パラモセス)

分類:外法遺骸アンデッド・木像

等級:B+

権能:【操瘴】【隔境】【命水】【寵樹】

詳細:かつては蝶よ花よと愛された大国家の姫君は、今や木像の中にその意思を宿すだけの存在となった。生来会得していた奇跡は、依り代となった木像によりより強力になっている。

――――――――――


 一度は意識を失っていた兵士だったが、自分の置かれた状況ははっきりと理解しているようだった。いくらかの沈黙のあとに律儀に礼を述べた兵士は、次いでこちらの正体について尋ねてきた。確かにいくら自分を助けてくれた相手といっても、所属も知れない兵士の一団とそれを率いる謎の男、というのは奇妙で信用もできないだろう。彼の視線を辿るにこちらが義手と義足を使っていることにも気づいていそうだ。

 とはいっても、こちらが彼に伝えられることはそれほどない。言えるとしたら、こちらの目的は戦うことにあるのではなく、ただ"巡りし平丘"の奥に進みたい、ということだけだ。

 もちろんその道中で手に入るものは遠慮なく回収するつもりなのだが、それを咎められる謂れはない。そう伝えたところ、兵士は恐怖とも落胆ともつかない表情を浮かべる。大方戦場を離れるための助力を期待していたのだろうが、残念ながらこちらの目的地はその真逆の方角だ。それを聞いた兵士は少しの間葛藤した後、力なくうなだれた。どうやら一人でここから逃げ出すのは無理だと判断したらしく、他の兵士と合流するまで行動を共にしたいと申し出てきたのだ。

 彼の故郷であるグレルドーラはここからはるか遠く、一人でかつ徒歩で戻ろうなど無茶以外の何物でもない。ただでさえ魔境とグレルドーラの間には草木も生えない”空白地帯”が広がっているのだ。途中で干からびるのがオチだろう。

 こちらとしては別に邪魔をしないのなら勝手についてくる分には問題ない。周囲に散らばる残骸を余すことなく回収したいところだが、そんなことをしていればどれほど時間があっても先に進むことはできないだろう。そのため、もともと道中に転がっている物品は回収しつつ、できるだけ最短距離で魔境の中央へ向かうつもりだった。魔境を進むほどに戦況は激化しているようなので、彼の言うように先に進んでいれば肉獣や機獣と戦う兵士たちと出会うこともできるだろう。まだ兵士たちが生き残っていればの話だが……。


 方針も決まったのでそろそろ出発することにする。ようやく"巡りし平丘"にたどり着いたのはいいが、目的としている場所はまだはるか先だ。一か月ほど前から世話になっている義足の調子を慣らしつつ、まだ見ぬ物品を求めて魔境と戦場を攻略していくことにしよう。

瘴気愛す夢死姫(パラモセス)】:異譚~カシーネの歓喜~初登場

聳え立つ壁剣の威光(ガザル・ジルラド)】:九ページ目初登場

【剛鉄鋼】:三ページ目初登場

【脚歩きの水体】:二十ページ目初登場

樹衣の鬼猿代(カラネルソー)】:三十四ページ目初登場


新作「使命の赴くままに~意志持つ絡繰人形は、責務に急かされ旅をする~」を本日投稿しました。

https://ncode.syosetu.com/n9090hb/

もしよければ、そちらもお読みいただければ幸いです。


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