八ページ目
まさか【エスカ式自動重兵人形・壁剣将軍】―ジルラド―が突然命令を無視して戦いだすとは……。無事にあの化け蜘蛛を倒すことができたからよかったものの、なにかが間違ったら取り返しのつかないことになっていたところだ。
現に他の自動人形を使って手助けをしなかったら、そのまま物量に負けてしまっていたかもしれない。
ともあれ、ジルラドの戦闘力は化け蜘蛛を軽く上回っていたようで、タイマンに持ち込めばケリはあっさりとついてしまった。とどめを刺す前に化け蜘蛛が何かを言ったようだが、生憎距離が離れていたため、その内容は分からなかった。
当のジルラドと言えば、化け蜘蛛の頭を斬り落とした直後にまた大人しくなったあたり、個人的な恨みでもあったのかもしれない。
化け蜘蛛はジルラドによって倒され、また他の備える森蜘蛛たちも自動人形たちによって殲滅することができた。ようやく待ちに待った素材回収の時間だ。
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【鳴哭せし啜る怪蜘蛛の斑甲殻】を収集しました
【鳴哭せし啜る怪蜘蛛の大牙】を収集しました
【鳴哭せし啜る怪蜘蛛の複魔眼】を収集しました
【鳴哭せし啜る怪蜘蛛の怪脚】を収集しました
【鳴哭せし啜る怪蜘蛛の紫珀毒】を収集しました
【エスカ軍魔導長の死形相】を収集しました
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今の化け蜘蛛は鳴哭せし啜る怪蜘蛛という名称だったらしい。他の魔物と名前の付き方が違うことから、この森に生息する魔物の中でも特別な個体だったのかもしれない。
さらにジルラドによって切り離された人間に似た頭部に至ってはなんと【エスカ軍魔導長】ときたから驚きだ。以前手に入れた似たような物品といったら、無論ジルラドや他の自動人形をはじめとする【エスカ軍式シリーズ】である。
ただ、先ほどのジルラドの様子を見る限り、同じ国の出身?の割にはあまり仲が良かったわけではないと思われた。それか、ジルラドの暴走の原因は、こちらを見下ろすような体勢で大樹から半身を生やしたあの女性像だろうか。
道中の備える森蜘蛛の残骸を回収しながら、先ほど鳴哭せし啜る怪蜘蛛が現れた大樹に近づいていく。ジルラドは後ろを大人しくついてきたが、大樹に触れようと手を伸ばしたところで、背後から不自然な金属が擦れる音が聞こえてきた。
背後を振り向いてもジルラドは微動だにしないが、その右手には先ほどから大剣が握られており、その気になればこちらの首などそこらの魔物のそれよりもよほど容易く斬り飛ばされてしまうだろう。
まあ、そんなことはどうでもいいので、とりあえず全書を使って女性像ごと大樹を回収する。
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【ガシアの古大樹】を収集しました
【眠りし悲愛姫の樹棺】を収集しました
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大樹の方は予想通りといえば予想通りだが、女性像の方は如何にも事情がありそうな物品である。ここで手に入れた物品から色々と考察してもよいのだが、それよりも新たに現れた生成候補を作ってみる方が早いように思われる。
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【悲愛姫の樹骸】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
眠りし悲愛姫の樹棺 100%/100%
時森の葉麗衣 0%/100%
森霊の樹冠 0%/100%
瘴気 300%/100%
物品が不足しているため、生成を行えません
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見たところ生成に必要な物品は、この森の素材を使って作れそうだ。だが、双方ともまだ生成候補ですら見たことがないので、引き続き森の探索を続ける必要があるだろう。
そんなことを考えているうちに、だんだんと日が暮れてきた。ここまで拠点から結構な距離を移動してきたうえに、自分はほとんど参加していないものの魔物との戦闘もあったため、思っていたより時間が経っていたようである。
日が暮れ始めてからあたりが暗くなるまではあっという間だ。幸い、古都の倉庫に大量に置かれていた【エンゴの淡灯火】を全書にしまっていたので、それを自動人形たちにそれを持たせて明かりを確保する。
さて、これからどうしたものか。拠点に戻ってもいいのだが、如何せん帰路はまだ慣れない森の中だ。魔物が徘徊する森を夜通し歩くというのも遠慮したいところである。それとは逆に今いる空き地から先に進んでもいいのだが、それも結局は森の中を進むことになってしまう。
なので、今日は一旦この空き地で休むことにした。寝具等はランプと一緒に全書にしまっていたのだが、ちょうど中継拠点が欲しいと思っていたところなので、できるところまで拠点としてこの広場を整備してみることにする。
拠点を作るための準備などしていなかったのだが、全書を捲っているといくつか使えそうなものを見つけた。
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【時森の毒蜜柵】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
ガシアの成樹 3000%/100%
ガシアの毒蜜 2500%/100%
ハクセングサ 4000%/100%
腐湧水 1200%/100%
生成を行いますか?【はい/いいえ】
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【葉隠れの泊套】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
揺れる木立の小枝 100%/100%
揺れる木立の若葉 150%/100%
揺れる木立の粘液 100%/100%
アイノキ 1000%/100%
ハリカエデの針葉 200%/100%
生成を行いますか?【はい/いいえ】
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【喀血玉】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
カケツダケ 500%/100%
ハゼダケ 350%/100%
備える森蜘蛛の白糸 400%/100%
生成を行いますか?【はい/いいえ】
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それぞれ拠点の防衛、心ばかりの宿、万一魔物に襲われた場合の反撃手段といったところだろう。
試しに一つずつ作ってみて全書で性能を確認してみるが、なかなか使い勝手もよさそうである。
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【時森の毒蜜柵】
分類:魔具・設備
等級:D-
権能:【獣除】【弛毒】
詳細:ガシアの毒木材を使用した木柵。鋭利に削られた先端には毒蜜が染み込んでいる他、木材に刻まれたルーンは獣や魔物を遠ざける作用を持つ。
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【葉隠れの泊套】
分類:魔具・設備
等級:D-
詳細:ガミルの森の植物素材を利用した迷彩模様のテント。風通しがよく、周囲の様子を確認しながら休むことができる。
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【喀血玉】
分類:投擲武器・仕掛玉
等級:D-
権能:【散胞】
詳細:カケツダケの胞子とハゼタケを混合した粉末を充填した糸玉。落下した衝撃で炸裂し、拡散した胞子が周囲の生物を侵す。
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目の前に生成された【時森の毒蜜柵】をじっくりと見てみる。幅は四メートル、高さは二メートル強ほどだろうか。材料はやはりガシアの木材が使われているようで、下から突き上げるようにして三層の巨大な木杭が重なっているような構造だ。それぞれの杭の先端は琥珀色に染まっているが、これは全書の説明の通り毒蜜によるものなのだろう。
さらに近づいて見てみると、すべての木材に細かな文様のようなものが刻まれていることが分かった。これがおそらく全書の説明にあった”ルーン”なのだろう。
まだどれほどの効果があるのかは分からないが、これまで生成したものを見る限りいくらかの効き目は期待してもいいだろう。とりあえず十個ほど作り、円状に配置していく。なかなか隙間がないように設置するのは難しいので、人ひとりが通れるくらいの隙間を残しておくことにした。この柵の内側に【葉隠れの泊套】を設置し、周囲を自動人形たちに見張ってもらいながら夜を越す、という計画である。
自動人形たちに疲労というものがないことはこれまでの行動から確認済みだし、森に入ってからの戦闘の様子を見る限り魔物たちに苦戦するということもないだろう。
思いのほかあっさりと準備が終わってしまったので、全書から【黒羊の毛長椅子】を取り出し少し寛ぐことにする。干し肉と果実も取り出し、のんびりと星を見ながら食事と洒落こもう……と思ったのだが、柵の隙間から淡く発光する球体がちらりと見えた。自動人形たちに持たせたランプとも違うその灯が気になり柵の外に出てみると、ちょうど自動人形の一体がその灯に攻撃を加えるところだった。
灯に相対しているのは【エスカ式自動槍歩兵人形】だ。自動人形は鋭い踏み込みとともに手に持つ槍を灯に突きこむが、灯はそれをひらりと躱すと、自身から枝のような触手を伸ばし槍に絡みついた。
だが、それ以上のことはできないようで、槍歩兵が絡みついた枝と槍ごと地面にたたきつけると、灯は数度弱く明滅した後消えてしまう。
灯が消えたところを確認してみると、様々な色の葉が寄り集まった集合体が転がっていた。
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【擦れる葉玉の緑葉】を収集しました
【擦れる葉玉の紅葉】を収集しました
【擦れる葉玉の枯葉】を収集しました
【擦れる葉玉の枝指】を収集しました
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どうやら今の灯は【擦れる葉玉】という魔物だったらしい。自動人形に叩きつけられるだけで倒せるあたり、耐久力などはそれほどないようだが、その攻撃方法は今までの魔物とはずいぶんと違うように見えた。もしかしたら少し注意が必要かもしれない。
とはいえ、新たな物品を手に入れることができたのは僥倖だ。しかも目的の物品についての生成候補も確認することができた。
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【時森の葉麗衣】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
擦れる葉玉の紅葉 5%/100%
擦れる葉玉の枯葉 10%/100%
捲れる樹皮の黒樹皮 0%/100%
泣咽せし這う奇蛇の腰鱗殻 0%/100%
メイテイソウカの大花弁 0%/100%
物品が不足しているため、生成を行えません
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生成候補が現れたのはいいのだが、足りない素材ばかりだし半分は手に入れる算段すら思いつかない。だが、そういった素材が存在すると知ることができたのは幸いだった。これから探索を続ける意欲も増すというものである。
さて、思わぬ戦果が手に入ったが、そろそろ休むとしよう。生成したばかりの【葉隠れの泊套】でなら、一晩くらいならなかなか快適に過ごせそうだ。