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四十一ページ目

 ”雑える封界”の最深部にたどり着いた後、魔境の初期化が起きる前に生還を果たすことができた。その後数日は何度か”雑える封界”に赴き、これから必要になるであろう素材を回収することに注力した。二度の初期化を挟んでの探索を行うことができたため、今後旅を続けるうえでも十分な量を手に入れることができた。

 特に急ぎの用事があるわけでもないため、もうしばし探索を続けてもいいのだが、それはそれで面白みがない。さてこれからどうしたものかと考えていたころ、泊まっていた宿に思わぬ訪問者が現れた。


 ゲレンと名乗るその男は、先日魔境の一階層で出会った冒険者の一人だった。魔境で会った時とは別のメンバーを連れ立っていた彼の話を聞いたところ、どうやら彼らは街の”封印区”から何かを持ち出したいらしい。

 それならば手続きを行って入れば、と思うが、残念ながら彼らは封印区に入るための権限を持っていないようだ。当然こちらもそれに相応するものは持っていないのだが、それでも彼らはどうしても封印区に入りたいようだ。

 そのため、その封印区への侵入とその後の行動について協力を仰いできたという訳だ。


 話を聞いた後、しばし逡巡する。彼らがやろうとしていることは明らかに街の規則を破る行為だ。失敗したら牢に入るのは確実だし、成功したとしてもその後街にいることはできないだろう。

 しかし、協力するメリットも大きい。自分一人だけでは今後封印区に入ることができないのは確実だ。例え法を犯すことになっても、これは千載一遇のチャンスである。

 逆に考えれば、彼らが封印区に入るための手助けをしてくれると考えることもできる。正直この街に来た理由もすでに完遂しているため、リスクを冒すのも悪くはないだろう。


 諸々の事情を総括した結果、彼らに協力することに決めた。どのみちこれが終わればシロテランを出ることになりそうだし、景気よく暴れるとしよう。協力の報酬についてだが、一行の中の女性はこの街への道中で会った旅団の一員だった。水や食料を分け与えた例の旅団である。出会った当初は気づかなかったのだが、あの旅団は彼女が長を務める旅商人の一行だったらしい。そして、今回取り戻したいものというのは、あの時目をつけていた巨大な黒い箱、正確にはその中に閉じ込められていたらしいとある人物らしい。

 旅商人ということもあって様々な商品を持っているというので、その中でも特に貴重な物品を報酬として見繕ってもらうことにした。それだけではいささか物足りないが、話を聞く限り封印区にも珍しい物品が眠っているはずだ。騒動の隙にいくつかちょろまかしても、誰も気にはしないはずだ。


 早速封印区に殴り込み、と行くかと思いきや、まだそのための準備が整っていないという。確かにまだ封印区に入るための方法を聞いていないし、その後どういった行動をとればいいのかも分からない。そのため、ゲレンと商人の女性、レナから封印区の説明を聞くことにした。


 そもそも封印区とは、このシロテランの最重要地点として管理されている特別な区域だ。街の住人でも自由に入ることができないそのエリアは厳重に守られており、都市の内外から運び込まれた取り扱いが難しい危険な物品を保管・・するための施設が密集しているのである。

 物品とは言うが、その中には戦闘力が高い冒険者崩れの犯罪者なども含まれるため、一種の監獄に似た施設もある。その中でも今回助け出さなくてはならない人物は、その特殊な体質から、”実験棟”と呼ばれる特に厳重に守られた施設に運ばれたのだという。

 ”実験棟”は封印区の中でも一層奥まった場所にあるため、ほぼ封印区を横断する必要がある。そう簡単に封印区の中を進むことができるのか気になるところだが、やはり単純にはいかないらしい。


 まず封印区に入るには、一度目にした生活区に隣接する関所を通る必要がある。この関所はレナが持つ商人に特別に発行される許可証があれば通過することができるのだが、その許可証で入ることができるのは荷の受け渡しをするためのほんの入り口まで。さらに奥に進むには次の門を通る必要があり、そこで初めて封印区に足を踏み入れることになる。

 封印区に入った後も道のりは大変なのだが、最も厄介なのはやはり封印区を守る防衛隊だろう。元々外からの襲撃は想定されていないようだが、管理している物品の特性から、防衛隊の面々は特殊な装備に身を包んでいるそうだ。具体的な詳細はさすがに分からないようだが、相手をするのはなかなか面倒なようだ。

 さらに封印区を守るのは防衛隊だけではない。なんと封印区の中は何体もの自動機装オートマタが巡回しているというのだ。一度オートマタに見つかってしまえば、それは即ち作戦の失敗だ。そのため、封印区に入ってからは彼らの目を掻い潜りつつ先に進まなくてはならない。


 そこまで説明してくれた一同の表情は暗いが、話を聞く限りいくつかの問題点を解決すればなんとかなりそうだ。だが、それは今の説明を聞く限りの話で、おそらく封印区の守りは今聞いたものだけではないだろうし、想定外の事態も起きるだろう。それらに対応するには、更なら情報と準備が必要だ。

 情報の収集は他のメンバーに任せるとして、こちらはこちらでできる準備を進めることにしよう。


 すでに街で買い求められるものはあらかた手に入れてしまっている。その中にも使えそうなものはあるが、やはり切り札となるのは全書で生成した物品たちになるだろう。中でも、”雑える封界”での探索で手に入れた素材を材料にしたものはなかなか使えそうなので、今のうちに性能を確認しておくことにしよう。

 訪ねてきた三人のうち、ゲレンとレナは準備を進めるためにすでに宿を出ている。残ったアンテスという名の男が興味深げにこちらを見ているが、別に隠すものでもないので気にせずに準備を進めよう。


 全書を捲って、目ぼしい物を生成していく。まずはこういった潜入事に役に立ちそうなとあるを造ることにする。


――――――――――

【錠壊しの銀鍵】を生成します

以下の物品を消費する必要があります

漂うドーフ・石羽ウグスの小羽2350%/100%

封緘銀鏡の破片5400%/100%

溶けた封銀6200%/100%

呪封の黒石 1280%/100%

サデナ縛石2120%/100%

生成を行いますか?【はい/いいえ】

――――――――――


 生成されたのは【漂うドーフ・石羽ウグスの小羽】で装飾された人差し指ほどの長さの銀色の鍵だ。所々黒と白の石材が練りこまれた鍵は、全書の説明曰く、どんな錠でも開けることができるらしい。


――――――――――

【錠壊しの銀鍵】

分類:魔具・錠前

等級:B-

権能:【壊錠】

詳細:形状を変化させることでどんな錠前にも適応することができる鍵。仕込まれたルーンによって、施錠の魔術を解除することもできる。

―――――――――


 説明を全て信じるならば、これがあれば世界は盗賊で溢れてしまいそうだ。試しにアンテスに似たような鍵を見たことがあるか問うてみれば、彼はないと答えた。素材の入手難度ゆえか、はたまた通常の方法での製作が難しいのか分からないが、これがそこらに落ちているということはなさそうだ。

 とりあえず同じものを人数分作っておき、次の物品に移る。次は静かに行動するのに役立ちそうな品だ。


――――――――――

【息呑む音吸い】を生成します

以下の物品を消費する必要があります

デミスの皮服850%/100%

覚えるリンバ・書紙ラーパの魔性染料4200%/100%

破れた緘巻布8360%/100%

黙るクイート・鍵箱キックスの捕舌1280%/100%

生成を行いますか?【はい/いいえ】

――――――――――


 名前からは想像もつかないが、生成されたのはくたびれた様子のブーツだった。皮でできたそのブーツを履くと、足音が収えられる、というよりは足音を発生した傍から封じてしまうようだ。試しに履いてみたところ、確かにいくら飛んでも何を蹴っても音が発生することはない。その効果は不自然さを感じるほどで、これがあれば足音の心配をする必要はなさそうだ。使われている素材のせいで若干の気色悪さは感じるものの、言わなければバレることもないだろう。これもやはり人数分作っておくことにする。

 他に必要なものはあれども、やはり戦力も増強しておいた方がいいだろう。作るのは二体の外法遺骸アンデッドだ。”雑える封界”の最下層で倒した強力な魔物素材を材料としたそれらは、異質かつ強力な能力を携えた戦力となるだろう。


――――――――――

【肉造士の血肉袋】

分類:外法遺骸アンデッド・肉人形

等級:B

権能:【肉造】【人潰】

詳細:かつて存在した芸術家を外法により蘇らせた姿。生前は自らの欲望に従い人体を用いた作品を作り続けていたが、外法遺骸アンデッドとなり果てた後もその創作意欲が留まることはない。

―――――――――


――――――――――

【封霊魂の呪霊】

分類:外法遺骸アンデッド・魂人形

等級:B

権能:【魂掴】【黒霊隷】

詳細:生来から備わっていた外法により故郷を追われた悲劇の精霊士。生きたまま墓所に入れられた体は骨と皮のみとなったが、呪いと呼ばれたその能力は死後も消えることはなく、魂だけの存在となった今もこびりついている。

―――――――――


 生成されたアンデッドはかたや肉塊と見まがう超肥満の大男、かたや宙に漂う霞のような霊体だ。【肉造士の血肉袋】には皮が備わっておらず、ゆっくりと胎動するその全身は巨大な心臓に見えないこともない。一方、【封霊魂の呪霊】は風も吹いていないのに常にゆらゆらと揺れている半透明の霊体だ。魔境で出会った【咽びしロトス・忘霊フォースト】のような見た目のそのアンデッドは、最下層で目にした【黒火ギエラ】や【黒水グンナ】を自在に操ることができるようだ。


 期待通り、たった今作ったアンデッドは封印区への侵入にも、今後の旅でも役に立ちそうだ。生成したばかりの二体を目にしたアンテスの目つきが一瞬鋭くなった気がしたが、結局何か言ってくることはなかった。

 ともかく、これらの物品があればこれから予定している潜入もいくらかは楽になるだろう。各々の準備が整えばすぐにでも決行するというので、今は他の準備を進めることにしよう。

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