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三十九ページ目

 ダンジョンの初期化に巻き込まれて一時はどうなるかと思ったが、”ジーン”と名乗る白衣の女性が示してくれた転移陣により無事に地上へと戻ることができた。その後、すぐに魔境の探索を再開しようとしたのだが、予期しない初期化の発生原因を調査するという名目で、数日の間魔境は封鎖されてしまっていた。

 その間は街をより詳細に歩き回ったり、再び古本屋の店主を訪れたりして過ごしていた。魔境で手に入る物と比べれば有用と呼べる物品はなかなか手に入らなかったが、身の危険もなくゆっくりと収集品を見定める時間は大いに心身を休ませる助けとなった。


 そうして心も体も万全の状態となったころ、ようやく魔境への入場が許可されたため、早速”雑える封界”の探索を再開した。前の探索の際に巻き込まれた不意の初期化が起きてから、 ”雑える封界”では通常の間隔での初期化がもう一度起きているらしい。それを受けて、魔境管理局は ”雑える封界”が通常の状態に戻ったと判断したようだ。判断が尚早であるような気もするが、このシロテランは良くも悪くも魔境を中心にして回っている都市だ。魔境の閉鎖が長期間になるほどその影響は増すため、早いタイミングでの開放が為されたのだろう。


 どんな理由にしろ、魔境が解放されたのは喜ぶべきことだ。前回の探索で二階層までの攻略と物品の回収はほぼ完了しているため、今回は足早に先に進んでいくことにする。とはいえ、得られる物品は有用なものばかりなので立ち塞がる魔物は容赦なく素材になってもらった。

 今回の二階層の最奥にいた魔物は、前回と同じ【切り出されるコウト・不形の白岩グプホック】だった。ジーンに教えてもらった亜種と出会うのは、次回の初期化以降に持ち越しとなりそうだ。

 二階層の最奥には、一階層から二階層に至るのと同じ階段が設置されており、その階段を降りると三階層に辿りつくことができる。三階層は二階層とは打って変わってなんとも不気味なエリアだ。壁や床は人工的な建材で造られているのだが、それを埋め尽くすように何かの記号が描かれた紙や布が張り付けられている。記号の中にはルーンも含まれているが、全く触れたことがない言語もいくつか混ざっているようだ。なにが起こるか分からないので骨人形スケルトンを出して一枚紙を剥がさせてみるが、特に何か異常が起きることはなかった。


――――――――――

【朽ちた封印符】

分類:魔具・紙

詳細:魔物や災厄を鎮めるために作られた古い封印具。経年劣化により効力は薄れており、今はその魔力の残滓が残るのみ。

―――――――――


 全書の説明を見る限り、これら全てが何かしらの封印のための物品のようだ。普通であれば取ってしまうのは憚れるところだが、ここでなら回収してしまっても初期化によりいずれ元に戻るだろうし、心置きなく集めながら進んでいくことにしよう。


――――――――――

【朽ちた封印符】を収集しました

【破れた緘巻布】を収集しました

【サデナ縛石】を収集しました

――――――――――


 魔境を進んでいけば自ずと魔物と遭遇することとなる。だが、この階層の魔物は一見して生物だと気づくことが難しいものばかりだった。この階層で最初に出会った【黙るクイート・鍵箱キックス】は、一見して薄汚れたただの箱に見えるが、獲物が近くを通ると突如箱を模した大口を広げて捕食しようとする凶悪な魔物だ。この魔物は有機物、無機物問わず獲物を丸のみにしようとし、さらに一度捕食してしまえばその口を強固に閉ざし、自らがこと切れるまで決して口を開くことはない。

 幸い一度捕食をした後は動き回ることもなくその場に留まる性質を持っているため、自動人形たちで袋叩きにすれば難なく倒すことはできるが、この階層では絶対に自動人形を先行させなければならないということが分かった。


 さらに自走する鉄の処女アイアンメイデンとも言うべき【軋むクク・紅涙クテア】や映した対象を一体だけ自分の身体に閉じ込めることができる【模すコミー・白鏡ホワラ】なども多くいるため、一つ間違えばこの魔境に永遠に囚われてしまいそうだ。

 単独あるいは数人のグループで探索に挑んでいたのなら、魔物たちの能力により先に進むのはひどく困難だっただろう。だが、全書の中に百を超える自動人形がしまわれているなら話は別だ。【エリオン式自動鏡鉄人形】などの複数所有している自動人形を囮にしてそれを捉えさせ、無力になった魔物を他の自動人形で倒してしまえば、ずいぶん楽に先に進むことができた。

 得られる素材も特有なもので、さらにそこから生成できる物品は他では手に入らなさそうなユニークなものばかりである。


――――――――――

【大喰らいの曲箱まがりばこ】を生成します

以下の物品を消費する必要があります

黙るクイート・鍵箱キックスの匣体100%/100%

黙るクイート・鍵箱キックスの捕舌50%/100%

模すコミー・白鏡ホワラの鏡片200%/100%

物品が不足しているため、生成を行えません

――――――――――


――――――――――

【レリムの展示牢】を生成します

以下の物品を消費する必要があります

軋むクク・紅涙クテアの針牢200%/100%

模すコミー・白鏡ホワラの硝子面0%/100%

サテナ縛石590%/100%

物品が不足しているため、生成を行えません

――――――――――


――――――――――

【牢獄鏡】を生成します

以下の物品を消費する必要があります

模すコミー・白鏡ホワラの白鏡50%/100%

模すコミー・白鏡ホワラの黒鏡0%/100%

模すコミー・白鏡ホワラの銀枠300%/100%

物品が不足しているため、生成を行えません

――――――――――


 まだどの魔物もあまり数を倒していないため素材が足りないものが多いが、【再見の魔鏡】という魔具は今ある素材で生成が出来そうだ。生成の結果手に入ったのは、豪奢な装飾が施された手鏡である。


――――――――――

【再見の魔鏡】

分類:魔具・鏡

等級:C

権能:【遠見】

詳細:所持者の記憶にある場所の現在の様子を映すことができる魔鏡。所持者の記憶が確かなほど、鏡の映像は鮮明なものとなる。

―――――――――


 少し使ってみたところ、確かにこれまで訪れた古都や”轟く鉄滝”の様子を確認することができた。ガイネベリアなどはまた面白い状況になっているようだったが、それについてはひとまず置いておくことにしよう。

 もちろん物品はすべて生成するつもりなので素材を集めながら先に進んでいく。一時はどうなるかと思ったが、現れる魔物たちは対処方法さえわかってしまえばそれほど厄介ということはない。三階層は入り組んでいるものの、比較的早く最奥にたどり着くことができた。


 最奥にいたのは一見して生物には見えない奇妙な魔物だ。直径四メートル強はある球体に出鱈目に巨大な目と口を張り付けたような奇天烈な造形を持つそれは、【食み呑むイドク・怯眼の底球イプボルル】と呼ばれる魔物だった。伸縮自在な口蓋と睨みつけることで対象の動きを強制的に止める魔眼は厄介だったが、犠牲を問わず物量で押してしまえば存外あっさりと倒すことができてしまった。

 数重の肉片へと変貌してしまった魔物の残骸を集めていると、新たな生成候補が現れた。生成できるようになった二つの物品はいずれも有用そうなものだったので、早速生成してみる。


――――――――――

【縛り呪の魔眼】

分類:魔具・義眼

等級:C-

権能:【呪縛】

詳細:装着者の視界に入ったものに金縛りの呪いを放つ魔眼。効果を発揮していなくても思わず身をすくめてしまうような不気味な眼光を宿す。

―――――――――


――――――――――

【垂涎する食箱】

分類:魔具・収納具

等級:C

権能:【自収】【求漂】

詳細:所持者の意思に従って周囲の物を丸呑みにする自律型の魔具。丸呑みにされた物は自由に取り出すことができ、さらにその容量は見た目の数倍に上る。

―――――――――


 どちらの魔具も便利だが、特に【垂涎する食箱】は周囲に転がっている素材を自動的に回収してくれるというなんともありがたい物品だ。魔眼の方も不意の戦闘時に使うことができれば大きな助けになるに違いない。


 ここにもやはり次の階層へと続く階段があるので、休むこともなく先に進む。階段を抜けた先にあった四階層には、三階層のような呪符などは見当たらない。その代わり、黒い壁に直接赤黒い染料で文様が記されており、周囲の薄暗さのため一層進みがたい雰囲気を感じる。壁の素材が変わったため早速採取してみようかと思ったが、その前にこちらに襲い掛かってくるものがいた。薄暗がりの中にいるそれは一見してただの人と思われたが、明りの下に現れたそれに突き立った二本の刀身がその予想を否定する。

 ひどく痩せてはいるものの皮と肉と骨からなる人型の魔物は、自らの胴体に刺さった剣を力づくで抜き放ち、こちらに切りかかってきた。出しておいた【エスカ式自動重兵人形・壁剣将軍ジルラド】によりその斬撃は防がれることとなったが、剣が衝突した瞬間に発生した爆発により一瞬だけ視界と聴覚が潰される。

 何事かとその場に伏せてから状況を確認するが、視界が回復するころには【エスカ式自動重兵人形・壁剣将軍ジルラド】と他の自動人形により謎の魔物はすでに切り伏せられていた。地面には魔物の死骸とそれが握っていた二本の剣が転がっている。


――――――――――

保つパッキ・鞘人シマンの遺骸】を収集しました

爆罪の鉄剣エスプシード】を収集しました

落とす霜剣フォーフト】を収集しました

【呪封の黒石】を収集しました

――――――――――


 魔物の死骸に関しては使い道が思いつかないが、手に入れた二振りの剣はそのまま戦闘に使用できるほど状態が良いものだった。まさかこんなところで名剣といっても差し支えない武器が手に入るとは思わなかったので、思わず顔がほころぶ。【採掘する茶岩骨】に採掘させることで壁の一部も回収できたので、気を取り直して歩を進めることにしよう。


 この階層に現れるのは先ほどの魔物とよく似た人型の魔物たちだった。探索の結果確認できたのは、【保つパッキ・鞘人シマン】の他、身体の一部がひどく膨張し、その部位に蓄えた何かしらのエネルギーで相手を吹きとばそうとする【抱くハック・鞘人シマン】、強力な権能を持った防具で体の一部あるいは全身を覆った【刻むマック・鞘人シマン】の二体だった。

 数にしてみればたったの三種類なのだが、種類は同じでも持っている武器や防具、攻撃方法は個体ごとに異なったため、対応にはひどく手を焼いた。相対するすべての敵が初見のようなもので、特に斬撃の威力を何倍にも増幅する魔剣、【剛戦剣】を持った【保つパッキ・鞘人シマン】と触れた武器を瞬く間に錆びつかせる【錆風荒ぶ呪鎧ラドロカーマ】を装備した【刻むマック・鞘人シマン】の組み合わせにはある程度の犠牲まで出てしまった。だが、敵が強力なほど、手に入る戦果も大きくなる。特にこの階層では敵が使用している武器や防具はそのまま戦利品となるため、手強い魔物も見方を変えれば歩く収集物だ。


――――――――――

【剛戦剣】を収集しました

血吸いの朱鎌ラーブレックル】を収集しました

夜火鬼刀よすがら】を収集しました

空裂く(スッチ・)憎剣カタロ】を収集しました

錆風荒ぶ呪鎧ラドロカーマ】を収集しました

【鏡痛む返盾】を収集しました

【邪教の黒夢兜】を収集しました

【骨割る拳骨】を収集しました

刻むマック・鞘人シマンの遺骸】を収集しました

抱くハック・鞘人シマンの遺骸】を収集しました

抱くハック・鞘人シマンの火精腫瘍】を収集しました

抱くハック・鞘人シマンの水精腫瘍】を収集しました

抱くハック・鞘人シマンの風精腫瘍】を収集しました

抱くハック・鞘人シマンの光精腫瘍】を収集しました

抱くハック・鞘人シマンの闇精腫瘍】を収集しました

――――――――――


 どうにも手に入る武具は物騒な名前や権能を持つものが多いように感じる。どんな物品にしろコレクションには変わりないので気にすることはないのだが、もしかしたらこんなところに質のいい武具が転がっている理由もそこにあるのかもしれない。

 いくら考えても詮無きことなのだが、そういったことは一度考え始めると止まらなくなってしまうものだ。だが、何かしらの答えが出る前に、大きな広場に行きついた。広場の床にはいくつもの武器が突き刺さり、鎧や兜があちこちに転がっている。

 もしやここは宝物庫か何かかと揚々と踏み込んだのだが、それと同時に部屋の中央に泡のようなものが発生した。それは見る見るうちに体積を増していき、ついには見上げるほどのサイズの粘体の塊となった。粘体が大きくなる際に周囲の武具は全てその中に取り込まれてしまったのだが、なんと粘体から伸びた触手が武器の柄を握り、こちらに斬りかかってきたではないか。

 知性のない粘体とは思えぬ技巧で操られる数十の武具に対応するためには、それ以上の自動人形たちを投入する必要があった。まるで軍隊同士の戦いが起きているような激しい戦闘となったが、粘体から切り離した武具を都度全書で奪っていくことで、何とか敵の戦力を削り切ることに成功した。今までにない強力な魔物だったが、倒してしまえば多くの素材が手に入り、さらに新たな自動人形を生成することも可能となった。

 たった今手に入れた素材も使用し生成した結果現れたのは、流動する粘液が人型を象った、四腕三脚の偽造変命キメラだ。


――――――――――

【祓い流れる水体呪剣】

分類:偽造変命キメラ・戦人形

等級:B-

権能:【呪装】【流腕】【呪合】

詳細:武具に染み付いた呪怨を動力とする穢れた偽造変命キメラ。通常の武具を扱うことはできないが、手にした武具に宿る呪いが強いほど力を増す。

―――――――――


 試しにこの階層で手に入れた武具を渡してみると、体の構造を武具に合うように変化させて数秒で身に纏ってくれた。さらに五本の剣を渡すと、新たにもう一本の腕を生やしてすべての武器を握る。軽く魔物と戦わせてみたが、【祓い流れる水体呪剣】は五本ある腕を絡ませることもせず、まさに流れるような武器さばきで敵を倒していく。武器に宿る権能も自在に扱えるようなので、戦力としてはかなり大きなものになるだろう。

 早速広場から伸びている階段を通って次の階層に向かいたいところだが、一階層からまっすぐここまで進んできたことでほぼ丸一日が経ってしまっている。話を聞いている限りは次の五階層が ”雑える封界”最深部らしいので、帰りのことを考えても余裕をもって次の初期化までに戻ることができるだろう。

 そのため、今日のところはこの広場でいったん休息をとることにする。各階層の最奥に当たる広場はそこに居座る強力な魔物を倒してしまえば次の初期化までは安全地帯として使えるそうだ。ここで十分に休息を取り、明日の探索に備えることにしよう。

【エリオン式自動鏡鉄人形】:十三ページ目初登場

【エスカ式自動重兵人形・壁剣将軍ジルラド】:七ページ目初登場

【採掘する茶岩骨】:二十三ページ目初登場

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