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三十七ページ目

 宙にたなびく巻物のような紙片が、自動人形たちによりかたや切り裂かれ、かたや焼かれていく。これが記録や物語が描かれた読み物であれば思わず発狂するところだが、今周囲を舞い散っているのはこちらに襲い掛かってきた魔物の残骸だ。

 一階層の奥に進んだところでこちらを待ち受けていたのは、何十枚もの巻物で作られた紙渦だった。紙渦は水中で群れを作る小魚のように宙を泳いでいたが、こちらが広場に一歩足を踏み入れるや否や、それぞれの巻物がこちらに向かって舞い降りてきた。


 魔物とは言ってもその素材は紙だ。自動人形たちの攻撃により簡単に対処ができる、と思ったのだが、巻物たちは思わぬ方法でこちらの戦力を削いできた。一見してこちらに突撃してくるだけかと思われた巻物たちは、複数枚でもって自動人形の全身を追いつくすと、一瞬だけ淡く発光する。すると、その中にいた自動人形が忽然とかき消えてしまったのだ。巻き付いていた巻物はすぐに丸まり、浮遊することもなくその場に落ちてしまうのだが、近くにいた自動人形がそれに切りつけると、消失時と同じような淡い光と共に消えたはずの自動人形が現れる。


 どうやらあの巻物に包まれると、その中へと閉じ込められてしまうらしい。一度閉じこめられた自動人形には損傷などはないようだが、これが生物になるとどうなるかは分からない。自分だけは巻物の餌食にならないよう気を付ける必要があるだろう。

 特殊な能力があるとはいえ、やはり紙は紙なのでその耐久性は非常に低い。戦闘が始まった当初はその数に少々てこずったが、徐々に数が減ってくればそれに比例して驚異度も下がっていく。結局はそれほど苦戦もせずに戦闘は終わりを告げた。

 戦いの後に残ったのは広場の床を埋め尽くそうかという量の紙片だ。紙屑のような細かさになっているものもあれば一か所が破れているだけでほぼ原形をとどめているもの、果ては火により焦げてしまっているものまである。とはいえ、これもすべて収集すべき貴重な物品だ。さらに紙が破かれる際に漏れ出てきたインクのような液体も所々で水溜りを作っているため、ひとつ残らず全書で回収する。


――――――――――

覚えるリンバ・書紙ラーパの紙体】を収集しました

覚えるリンバ・書紙ラーパの黒紙体】を収集しました

覚えるリンバ・書紙ラーパの紙片】を収集しました

覚えるリンバ・書紙ラーパの焦紙】を収集しました

覚えるリンバ・書紙ラーパの濡紙】を収集しました

覚えるリンバ・書紙ラーパの黒染料】を収集しました

覚えるリンバ・書紙ラーパの赤染料】を収集しました

覚えるリンバ・書紙ラーパの魔性染料】を収集しました

――――――――――


 こうして大量の紙素材を手に入れることができたわけだが、紙を使った物と言えば本などの記録媒体が最初に頭に思い浮かぶ。そしてその予想通り、今手に入れた素材を使った生成品の候補が全書のページに浮かび上がった。


――――――――――

【封魔のスクロール】を生成します

以下の物品を消費する必要があります

覚えるリンバ・書紙ラーパの紙体 3500%/100%

覚えるリンバ・書紙ラーパの魔性染料 1000%/100%

生成を行いますか?【はい/いいえ】

――――――――――


――――――――――

【封火のスクロール】を生成します

以下の物品を消費する必要があります

覚えるリンバ・書紙ラーパの焦紙 620%/100%

覚えるリンバ・書紙ラーパの赤染料 530%/100%

生成を行いますか?【はい/いいえ】

――――――――――


――――――――――

【デミス著・血材肉材の保管書】を生成します

以下の物品を消費する必要があります

覚えるリンバ・書紙ラーパの黒紙体 200%/100%

デミスの指筆 200%/100%

癒合肉 880%/100%

膨肉の血薬 410%/100%

生成を行いますか?【はい/いいえ】

――――――――――


 今しがた手に入れた素材ですべて生成できそうなのでとりあえず一つずつ作ってみるが、どれもいまいち使い方が分からない。【封魔のスクロール】と【封火のスクロール】は一見して意味不明な文字が羅列された巻物だ。それぞれ巻物の中央部には何かを収めるためのような円が描かれているが、まさかここに直接何かを書き込むわけではないだろう。首を傾げていたが、全書の説明の中に使い方のヒントが記されていた。


――――――――――

【封魔のスクロール】

分類:書籍・巻物

等級:D

権能:【下級封魔】

詳細:魔物の体の一部を使用した魔導書。下級魔術を一度だけ吸収し、その後物品を消費して吸収した魔術を打ち返すことができる。

―――――――――


 なるほど、これを使えば相手が使った魔術をそのまま反射することができるらしい。そしてこの説明を見る限り、一度吸収した魔術はそのまま保管することもできるようだ。ということは、もしかするとこれを利用すれば、魔術それ自体の収集も可能となるのではないだろうか。まだ試していないのであくまでも予想に過ぎないが、それができるのであれば一気にコレクションの幅を増やすことができそうだ。

 

 そういうことであれば【覚えるリンバ・書紙ラーパ】をもっと狩らなければならない……のだが、広場の反対側に明らかに下層に続いているであろう通路が伸びている。ここで素材の収集に勤しむか、あるいは先に進み未知の物品を求めるか……。

 少々迷ったが、今回はとりあえず先に進むこととした。今戦った限り、【覚えるリンバ・書紙ラーパ】はそれほど苦戦する強敵という訳でもない。まずは下層の様子を見て、今後どうするかを考えてもいいだろう。


 通路はやはり途中から階段になっており、石階段が先の見えない暗闇の中へと続いている。全書から出した【幽郭の灯篭】で行く先を照らしながら進むが、数分の間階段を下り続けていると周囲の景観が変わってきた。

 まず最初に現れら目に見える変化はその明るさだ。これまでは視界の確保の助けになるのが壁に時折備え付けられていた松明だけだったが、階段横の壁に明らかな人工の照明具が見られるようになった。さらに下へと進むと、むき出しの岩を適当に削りだしたような階段が、徐々に丁寧に削りだされ磨かれたような素材へと変わっていく。


 景観の変化を観察しながら歩を進めていると、ついに階段を下りきった。階段を抜けた先にあったのは、荘厳、という言葉がふさわしい神殿のような部屋だ。部屋の四隅には装飾の施された白い柱が立っており、床は大理石だろうか、白くきれいに磨かれた石材で覆われている。

 そんな部屋の中央に置かれているのは、おそらくは虎を模しているのであろう石造だ。床と同じ素材で作られており、さらに遠目から見ても精巧と分かるそれは部屋にポツンと置かれ、他に動くものはない。ぜひコレクションに加えたいと石像に近づくが、あと数歩というところで部屋の中に猛獣の唸り声のような低重音が響きだした。音の発生源が見当たらずに首をかしげるが、すぐにその音は目の前の石像から発せられていることに気づく。


 慌てて石像から距離を取ると、石像の足元から変化が始まる。それまでは純白だった石像に彩色が宿り始め、瞬く間に真紅の毛皮に覆われた巨虎へと変貌した。こちらへと飛び掛かってくる巨虎を、ギリギリのところで全書から出した【エスカ式自動重兵人形・壁剣将軍ジルラド】により防ぎながら防衛陣を整える。すぐに自動人形たちを出したのはいいのだが、巨虎の動きは素早くかつ四足歩行独特の俊敏さがある。巨虎は自動人形たちからかなりの数の創傷を受けながらも、それらを掻い潜りなんとこちらに再び飛び掛かってきた。最初に比べて動きも鈍くなっていたたため、【潰墜の四腕】で殴り潰すことができたが、そろそろ自動人形だけに戦闘を任せるのは厳しいのかもしれない。


 自分で戦闘をこなすつもりはないので新たな戦力が欲しいところだが、今は何か心当たりがあるわけでもないので、とにかく今は行けるところまで行ってみることにする。まだいくつかの奥の手はあるため、帰る手段もないほど疲弊する、ということはないだろう。

 早速先に進む……前に巨虎の残骸を回収することにしよう。残骸、と表現したのには意味がある。直前まで生物としか思えない躍動感で暴れていた巨虎は、絶命と同時に元の石像に戻ってしまったのだ。体の各部位はやはり白い石材に、そして流れ出していた鮮血は黒い液体へと変貌している。とはいえ、素材は素材だ。血肉にしろ石材にしろ、珍しい素材であることに変わりはない。


――――――――――

【封魂の白石】を収集しました

【封生の黒水】を収集しました

――――――――――


 得られた素材は二種類だけだったが、それにより生成可能となった物品があった。【白亜の仮形】という名のその物品は、今手に入れた二種類の素材と、”揺蕩う澱窪”で手に入れていた【霊回水】を用いた有用そうなものだ。


――――――――――

【白亜の仮形】

分類:魔具・石像

等級:B-

権能:【造姿】【似命】

詳細:贄となった生物の姿と能力を忠実に再現する無形の石像。囚われた魂は解放を願い、敵を襲い続ける。

―――――――――


 試しに【転打つ女蛇ロロト・クタムの蛇肉】を生成したばかりの【白亜の仮形】の上に置いてみる。【転打つ女蛇ロロト・クタム】とは”揺らぐ時森”に生息していた下半身が蛇のようになった女型の魔物なのだが、置いた肉が【白亜の仮形】に吸収されたかと思うと、【転打つ女蛇ロロト・クタム】の形そのままの石像となったではないか。先ほどの巨虎とは違い、女蛇の形を成した石像は全身を石と化したまま自由に動けるようだ。動き以外の確認はできないが、全書の説明を読む限り他の能力も再現されているのだろう。


 諸々の事項を検証して確信したが、これは非常に有用な物品である。戦力という意味合いでもそうなのだが、なにより素材を手に入れた魔物の造形をそのまま保管でき、さらに動きまでも再現できるのだ。これを使えば、これまで全書で収集できなかった”生物”までも収集対象とすることができるようになる。もちろん生物そのままを手に入れることができるわけではないが、魔物たちの石像を集めることができる、というだけでも十分に収集する理由にはなるだろう。


 そうと決まれば【白亜の仮形】の材料となる【封魂の白石】と【封生の黒水】を全力で集めなければならない。魔境の続きがどうなっているのかは分からないが、進んでいればきっと巨虎と同じような魔物も現れることだろう。片っ端から討伐して、ありがたく素材を頂戴することにしよう。

【デミスの指筆】:十二ページ目初登場

【癒合肉】:二十ページ目初登場

【膨肉の血薬】二十ページ目初登場

【幽郭の灯篭】:十四ページ目初登場

【エスカ式自動重兵人形・壁剣将軍ジルラド】:七ページ目初登場

【潰墜の四腕】:三十二ページ目初登場

【霊回水】:十四ページ目初登場

転打つ女蛇ロロト・クタムの蛇肉】:九ページ目初登場

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