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三十五ページ目

 森を出発してから七日目の朝、ようやく目的地だった”封都”が見えてきた。ガイネベリアのものほど立派ではないが、”封都”も高い防壁に囲まれており、そこに作られた門の前には長い行列ができている。都市に入っていく人数が多いのは分かるが、それと同じほどの数の馬車が門から外へと出ていっていることが少し気になるところだ。

 何度目かになる空白地帯の旅を経て分かったことだが、この空白地帯には一切の生物が生息していない。生物どころか、草木すらもほとんど生えておらず、時折白い荒れ地に線を引くように川が流れているだけだ。川はそれなりの頻度で存在しているため、その周辺には生命の活気があってもよさそうなものだが、澄み切った水以外そこには何もない。水は清浄そのもので、何度か口にしてみたが問題なく飲用できるものだった。


 ”封都”は四方のうち二つの方角をその川に囲まれている。さらに細い運河のようなものが街の中に引き込まれているようなので、街中で水に困るということはないのだろう。無理に横入りする必要もないので大人しく行列の最後尾から並んで入場を待っていると、太陽が頭の真上に移動したころ、ようやく門をくぐることができた。

 街に入るためには”入場許可証”を提示するか入場料を払う必要があるらしい。”入場許可証”はこの街に訪れた目的が商売目的であることを証明すれば、安価な手数料を払って発行してもらえるそうだ。だが、”入場許可証”で入ることができるのは門の傍に作られた商業エリアのみで、街の中心部や隣接する魔境、【雑える封界】には入ることができない。それらを訪れるためには数十倍の金額を支払い、”特別許可証”を手に入れる必要があるのだ。


 とはいえ、これまでの旅ですでに余るほどの路銀を手にしている。金額としても今の貯えと比べれば大したことはないので、その場で”特別許可証”を購入することにした。さらにせっかくなので、本来は必要ない”入場許可証”も購入しておく。


――――――――――

【シロテラン入場許可証】を収集しました

【シロテラン特別許可証】を収集しました

――――――――――


 対応してくれた門番は不要な【シロテラン入場許可証】まで購入したことに対して訝しげな表情を浮かべていたが、こういったものはどちらも手に入れないと気が済まないので仕方がない。ともかく、これで封都―シロテラン―への入場を果たすことができた。最初に足を踏み入れるのは、やはり門から街の中心部に向かって続いている商業区だ。外から訪れた商人たちはこのエリアで積み荷のほとんどを下ろし、併設されている宿屋で疲れを癒してからまた街の外に出ていくらしい。

 外から持ち込まれる物品のほとんどは食品と生活用品で占められており、特定の業者にかなり割高な価格で販売していると思われた。その代わり、彼らはこの街特産であろう魔具や素材を仕入れて、別の街へと旅立っているようだ。

 外から持ち込まれる物品にはあまり興味はないが、特産品は喉から手が出るほど欲しい。という訳で、見かけた魔具は片っ端から購入していく。


――――――――――

【カペラ式封力鎖】を収集しました

【カペラ式封魔鎖】を収集しました

【音封球】を収集しました

【色封球】を収集しました

【写封球】を収集しました

【封晶の欠片】を収集しました

【睨蛇の皮飾り】を収集しました

――――――――――


 ”封都”という名だけあって、封印にちなんだ魔具が多く販売されているようだ。それに関連した素材も売っているため、これらの魔具はこの街で制作されているのだろう。よくよく見ると、商人たちの風情も一回の商売人というよりは、どこか物々しさというか荒っぽい雰囲気を感じる。売られている魔具は日々の生活の中で使うようなものでもないので、需要・・に応じた買い手がここにきているということだ。

 そんな客層に対応するためか、見回りをしていると思われる衛兵たちが街の各所に配置されているのだが、彼らの服装がまた変わっている。全身が灰色の布で隙間なく覆われており、肌どころか素顔すらも確認できないのだ。顔を追う布にはのぞき穴や呼吸用の穴すらなく、幾何学的な文様が刺繍されているだけで、身じろぎもせずに立っている様は不気味さすら覚えるほどである。彼らの手には一様に刺叉さすまたのような武器が握られており、それで街に現れた不届き者を拘束するのだろう。

 彼らの装備や武器もぜひ欲しいところだが、少なくともこの商業区では販売していないようだ。このエリアには他にめぼしいものもなさそうなので、街の奥へと進んでみることにする。

 商業区と街の中心部との境には石製の壁が設置されており、馬車一台が通れるほどの門を三人の衛兵が守っている。力づくで突破するとしたら一筋縄ではいかないだろうが、幸い今は街の入り口で購入した【シロテラン特別許可証】を持っている。許可証を見せると大した手続きもなく門を通過することができたが、その際に再び街の規則について説明を受けることとなった。


 商業区の奥は”生活区”と呼ばれる都市の住人が住む地区となっており、そこからさらに”封印区”と”魔境区”という二つの地区へとつながっているという。”魔境区”というのは今回この都市を訪れた目的の一つでもある【雑える封界】へと続く地区であり、主に魔境に挑戦する探索者や特別な素材を求める魔具職人が集まっているようだ。

 ”封印区”というのはこの街の中枢ともいうべきエリアであり、ごく限られた人間だけが入れるらしい。街の外から訪れた旅人などは近づいただけで拘束されることもあるらしく、絶対に近づかないよう注意された。

 ……近づく近づかないは”封印区”とやらの様子を見てから決めることにして、今は大人しく”魔境区”に向かおう。魔境区に行くには生活区の外周を回るようにして移動する必要がある。その際に住人たちが住んでいるであろう家々を眺めてみるが、先ほどの商業区の賑わいから一転して随分と物静かな印象を受けた。住居にはほとんど装飾はなく、灰色の建材のみで造られているようだ。出歩いている人々の数も少なく、話し声が聞こえることすら稀なほどである。


 そうして実に快適に歩を進めていると、それほど時間がかからないうちに魔境区の入り口に到着した。魔境区の入り口にもやはり門が設置されており、ここでも【シロテラン特別許可証】を提示して門をくぐることとなる。

 魔境区に一歩足を踏み入れると、商業区と同じほどの賑わいが出迎えてくれた。商業区のように出店が並んでいるわけではないが、鎧や武器を身にまとった明らかに堅気ではない様相の人間たちが目立つ。


 彼らは探索者と呼ばれる魔境探索を生業とする人々だ。普通、探索者は辺境にある魔境に挑むことが多いため、こうして一つの街に集まることはあまりない。だが、ここにある【雑える封界】はシロテランに隣接しており、魔境で手に入れた素材を高値で買い取ってくれる商人や職人も多い。そのため、このような探索者の街ともいうべきコミュニティが形成されているのだ。

 この地区に作られた建物は武具や薬品を扱う店、さらには治療所などやはり戦いに関連したものが多い。もちろん売られている物品は商業区とは全く異なるので、今一度店を巡ってみることにしよう。


――――――――――

光石の鉈剣スリン・カリンガ】を収集しました

【抑制の岩砕棒】を収集しました

琥珀魔杖バマッタ】を収集しました

【留める封盾】を収集しました

【睨蛇の皮鎧】を収集しました

【封鉄の重鎧】を収集しました

【赤絹の防護服】を収集しました

封封護符カシロナ】を収集しました

【ケリヤン式小型収納袋】を収集しました

【灰化の解水】を収集しました

【白化の解水】を収集しました

【黒化の解水】を収集しました

【黒化の解水】を収集しました

【雑える封界の探索図】を収集しました

――――――――――


 まだ魔境に足を踏み入れていないためいまいち想像がつかないが、恐らく購入した品々は魔境探索に役立つものなのだろう。例にもれず未所持の物品は見つけた傍から購入しており、店によっては購入の理由を尋ねられることもある。コレクション収集の一環であると伝えると大体の場合は怪訝な顔をされて会話が終わるのだが、ひとりだけ妙にこちらに興味を持った人物がいた。


 路地裏の奥まった場所でひっそりと営業している古本屋の店主であるその老婦は、購入のために山積みにした本の清算を終えた後、【コハ茶】という独特な香りと苦みが特徴の飲み物をだして雑談に付き合ってくれないかと持ち掛けてきた。

 今日はもう時間もそれほど残っていないのでその雑談に興じることにしたが、なかなかどうして店主との茶会は思っていたよりも有意義な時間となった。長くこの街で古本屋を営んでいるという店主は、本は言うに及ばず絵画などの芸術品を対象とした収集家コレクターなのだという。どうやら同じ匂いを感じたらしい店主は、珍しい芸術品などと交換で古書や魔境についての特殊な情報を譲ってくれるそうだ。

 まだこの街には来たばかりで、魔境についての情報などその名前を知っているだけのようなものだ。魔境の中にどんな物品があるのかだけでも分かれば収集の助けになるし、古書なども如何せん知識がないためなかなか集めるのが難しい。店主の話はまさに渡りに船といったところだった。


 幸い、これまで各地で見つけたり生成で手に入れた物品の中には、芸術品と呼べるものもいくつかある。特に生成品はいくら珍しかろうと材料さえあれば量産が可能なので、取引の対価として差し出しても全く問題はない。平等な取引ができるかの不安はあるものの、一度手に入れてしまえば全書で物品の確認もできるため、それほど不利な取引に騙されることもないだろう。

 という訳で早速いくつかの物品を見せることにする。とりあえず今回は生成も可能な【ギィム作・絡み昇る輝竜像】と【廻生巡る水晶球クリスタルボール】を見せてみる。それらを見た店主はかなり興奮した様子になり、どうしてもその二つを譲ってほしいと頼み込んできた。もちろん物品を渡すのは吝かではないのだが、その興奮の仕方を見て少し吹っ掛けてみることにする。いくばくかの交渉の末、今回こちらからは【ギィム作・絡み昇る輝竜像】のみを差し出すことになり、代わりに店主からは三冊の古書―【物語・神に背きし古国、エスカの悲劇】、【ケミシナ魔術写本】、【シロテラン芸術史探訪録】―と多くの魔境の情報を得ることができた。


 残った【廻生巡る水晶球クリスタルボール】は一旦全書に仕舞うことにする。物欲しげに店主がそれを見つめているが、後日店主が取引の対価を用意することが出来たら、改めて物々交換を行うこととした。ひとまずは【ギィム作・絡み昇る輝竜像】で満足してもらうことにしよう。全書で生成したものなのでほんの少し心が痛む気がするが、別に贋作を渡したわけではないので気に病むこともないだろう。

 今回手に入れた古書はどれも非売品で、今となってはそう易々と手に入るものではない。次の取引でもこれと同等以上の価値がある物品が手に入るだろうし、それを楽しみにしておこう。


 古本屋を出たころにはすでに日は落ちてしまっていたが、店主にいい宿を紹介してもらえたので、今夜は早々に宿に入り、長旅の疲れを癒すことにする。明日からはいよいよ魔境、”雑える封界”に挑戦できそうだ。まだ見ぬ物品が多く眠る魔境に思いを馳せ、ああ、一分でも早く明日にならないかと柄にもないことを考えるのだった。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

皆様に支えていただき、本作にてブックマーク登録者様100名を達成することができました。

それを記念して……という訳ではないのですが、今更ではありますがツイッターなんぞ始めてみました。

諸々のお礼やツイッターのリンクは活動報告にて書かせていただきますので、ぜひお読みいただければ幸いです。


↓以下、今回登場した物品の初登場話数

【ギィム作・絡み昇る輝竜像】:二十四ページ目初登場

【廻生巡る水晶球クリスタルボール】:二十四ページ目初登場

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