三十四ページ目
本話から前話で登場した物品について、初登場話数を後書きに記載していきます。
後方から迫る猪を模した土人形のような魔物、粘る砂牙を自動人形で蹴散らし、いったい幾つ目になるかもわからない分厚い茂みに飛び込む。森で逃走劇が始まってから幾度も繰り返した作業ではあるが、装着している【潰墜の四腕】のおかげで、鋭い枝で傷を負う前に枝葉を押しつぶすことができる。そんな単調な作業を数えきれない回数こなしたころ、ようやく目の前の視界からむせ返るような緑が消えた。
機獣と森の魔物たちの大乱闘が始まった湖の広場をあとにしてから実に半日以上森を駆け抜け、やっとエルフたちが住まう大森林を抜けることができたようだ。駆け抜けたといっても移動は【三叉の金触腕】の触腕に任せており、自分の足はほとんど使わなかったため、疲労感はそれほどない。逃走中も無論魔物や森に入り込んだ機獣の襲撃があったのだが、【潰墜の四腕】や意志を持つ水体を使役することができる【流伝する宝水体】、【肉吸いの生廻花】により肉の傀儡と化した魔物を操ることで森の外へとたどり着くことができた。
森の外の空白地帯に足を踏み入れた途端、後方から迫っていた追手が退いていくことが分かる。森の外まで追ってくる気はないらしいので、ここでようやく一息つくことができそうだ。
湖の広場で結構な種類の物品を回収できたのだが、これまでその内容を確認する暇もなかった。一度考えをまとめるためにも、全書に記載された文章に目を通すことにする。
――――――――――
【が鳴り立てる地突く剛猿の剛朱毛】を収集しました
【が鳴り立てる地突く剛猿の柔藍毛】を収集しました
【が鳴り立てる地突く剛猿の巨牙】を収集しました
【が鳴り立てる地突く剛猿の剛腕】を収集しました
【が鳴り立てる地突く剛猿の病皮】を収集しました
【が鳴り立てる地突く剛猿の腫肉】を収集しました
【が鳴り立てる地突く剛猿の膨尾】を収集しました
【招き手折る悪樹の木骨手】を収集しました
【招き手折る悪樹の樹皮手】を収集しました
【招き手折る悪樹の枯死皮】を収集しました
【招き手折る悪樹の蜜髄】を収集しました
【流れ崩れる嶮しき鉄形の砂体】を収集しました
【流れ崩れる嶮しき鉄形の破片】を収集しました
【白絢樹の大槍】を収集しました
【白絢樹の大盾】を収集しました
【白絢樹の巨樹人】を収集しました
――――――――――
この他にも森を進んでいるうちに様々な物品を手に入れているのだが、特に珍しく有用そうなものはやはりこれらだろう。強力な魔物や魔術により生み出された素材たちは、さらに有用な物品の材料にもなる。
――――――――――
【靡かせる白樹手】
分類:魔具・義手
等級:C+
権能:【影分】【並列魔術】【枝手】
詳細:枯れ木のようにやせ細った腕を模した義手。周囲の環境に存在する体外魔力をかき集め、体内魔力との親和性を引き上げる。
―――――――――
――――――――――
【樹衣の鬼猿代】
分類:外法遺骸・肉人形
等級:B
権能:【金剛力】【大樹装具】【命鳴】
詳細:が鳴り立てる地突く剛猿を素体とした外法遺骸。理外の膂力はそのままに、【豊魔の白絢樹】で作られた巨大鎧をその身にまとう。
―――――――――
有用かつ強力な魔具を手に入れることができ、さらに【御霊】という希少な物品まで手に入れることができた。とは言っても、大森林にはまだ手に入れていない数多くの物品があることだろう。森に原生する魔物もそうだし、エルフたちが集落で使用していた医療用の魔具もほとんど手に入れることができていない。本音を言えば今からエルフたちの集落に戻り、種々の物品を手に入れたいところなのだが、兵士エルフたちとの別れ方を考えるに、それは得策ではないだろう。
ちなみに【御霊】を使った生成物の候補まだ現れていない。森で手に入る他の物品を獲得すれば生成候補が現れるかもしれないが、今は全書に仕舞っておくことしかできなさそうだ。とはいえ、【御霊】自体がかなり希少なものだ。しばらくは大事なコレクションとして保管しておくことにする。
口惜しいが、森にある数多の物品を手にするのはまた次の機会に取っておくことにし、今はここを離れることにする。また長距離の移動になりそうなので、全書から出した【カイゼンの木製馬車】に乗り込んで移動を開始しよう。
これまでの旅路の中で手に入れた地図はいくつかあるものの、現在地は皆目見当がつかない。なにか目印になるようなものがあれば進むべき方角は分かりそうなので、しばらくは当てもなく馬車に揺られることにする。
以前、妹エルフを馬車に乗せていた時に話を聞いたのだが、森からかなり距離はあるものの、馬車で行ける距離に面白そうな都市があるという。”封都”と呼ばれるその都市は魔境と隣接した場所に作られているらしく、魔境で回収できる素材や物品が都市の機能と密接に関係しているそうだ。
”封都”の大まかな場所は聞いているので、【人飼の鎖竜】に地図を渡してその場所を教えておく。【人飼の鎖竜】はとある言葉をきっかけとして発狂状態ともいうべき形態に変わる反神生命に分類される物品なのだが、変化前は今持っているコレクションの中でも唯一意思疎通ができる存在だ。さらに素材となった【涙呑せし廻り狂いの竜骸者】はどういうわけか、生前地図士としての知識も持っていたようで、地図と大まかな目的地を伝えれば道案内までしてくれる。
指示を出す際は自動人形と同じように気を付けなければならない点があったりはするが、これのおかげで馬車に揺られているうちに目的地までたどり着ける。食料もエルフの集落で補充した分がたっぷりあるので、しばらくは気ままな馬車旅を続けることにした。
そういう訳で実に五日ほど馬車での移動を続けたころ、目的の”封都”はまだ見えないものの、地平線の向こうから何かが近づいてくるのが見えた。豆粒ほどの大きさだったそれは少しずつ大きくなっていき、やがてはそれがこちらと同じような馬車だということに気づく。せっかくなので”封都”への順路などを聞いてみようと近づくことにしたが、どうやら向こうも同じ意図だったらしい。馬車を並走させながら声をかけたところ、彼らは”コレスゲト”からきた旅団だという。”コレスゲト”と言えば、当初【轟く鉄滝】のあとに訪れようとしていた都市の名だ。
エルフの集落と”封都”の位置関係のせいで今回は訪問できなかったのだが、旅人たちはその”コレスゲト”から”封都”へと荷を運ぶ運送業を営んでいるらしい。確かに彼らの馬車には四つの荷台が連結されており、すべての荷台に商品であろう物品が満載されている。内容としては日用品などが中心のようだが、一つだけやたら目を引く荷物があった。
金属でできた巨大な箱に見えるそれは馬車の一角を占めるほど巨大なもので、猛獣を閉じ込めるための檻のようにも見える。それの詳細について御者に尋ねてみるが、彼らもその物品の輸送を頼まれているだけで、中身については何も聞かされていないらしい。無理に聞き出すことでもないので、他の物品についていろいろと質問していると、あちらから水と食料を工面してほしいと頼まれた。彼らが言うには、”封都”まであと三日ほどはかかるのだが、用意していたそれらが尽きそうなのだと言う。
まだ全書にしまっている水も食料も相当な余裕があるため、彼らの商品の一部と交換して譲ることにした。残念ながら黒い檻は商品ではないというので、他に気になった商品をいくつか選ばせてもらった。
――――――――――
【物見の拡大鏡】を収集しました
【物書く滲黒汁】を収集しました
【鱗粉染めの外套】を収集しました
【カイネラ製刺繍針】を収集しました
【ルルース著:古都コレスゲト探訪】を収集しました
――――――――――
あちらが急を要しているということもあって、かなり有利な取引になったと思われる。普通の商人ならば文句の一つでも言いそうなものだが、彼らはよほど困っていたのか、快く取引に応じてくれた。彼らは一旦馬に休憩させるとのことだったので、その場で別れて先を急ぐ。”封都”までは普通の馬車であと三日ということなので、自動人形に引かせているこの馬車であれば一日とちょっとで辿り着けるだろう。
長かった旅路にもようやく終わりが見えてきた。毎度のことではあるが、空白地帯のこの真っ白な荒れ地はとうに見飽きているので、一刻も早く”封都”に到着することを祈る。もうしばらく続く旅の間は、先ほど手に入れた本【ルルース著:古都コレスゲト探訪】でも読んで暇をつぶすことにしよう。
【三叉の金触腕】:二十五ページ目初登場
【潰墜の四腕】:三十二ページ目初登場
【流伝する宝水体】:二十五ページ目初登場
【肉吸いの生廻花】:十九ページ目初登場
【御霊】:異譚~ベンゼラーの義務~初登場
【カイゼンの木製馬車】:十六ページ目初登場
【人飼の鎖竜】:十六ページ目初登場
しばらくはこの形式で記載していきたいと思います。ご意見あれば、教えていただければ幸いです。
引き続き、拙作をよろしくお願いいたします。
 




