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三十一ページ目

 緑人エルフの集落を訪れてから早三日が経ち、だんだんとエルフたちが話す言語も聞き取れるようになってきたように感じる。エルフたちとコミュニケーションを取るようになって気づいたが、彼らは存外好奇心が旺盛で、この集落がある場所、【エイリアの森】の外の世界について聞きたがっているようだった。試しにコレクションの一部を見せてみれば目を輝かせながら、それについての説明を求めてくる。

 自慢のコレクションの説明をするのはこちらとしても吝かではないのでついつい長々と語ってしまうのだが、逆にそれが功を奏してエルフたちとの距離が縮まったようだ。

 妹エルフ曰く、話を聞きに来ているのはほとんどが若いエルフらしいが、集落のエルフは一人残らず若々しくそして見目麗しいためいまいち実感がない。エルフは普通の人間よりはるかに長寿だというので、若いエルフと言ってもほぼ全員がこちらより年上なのだろう。


 エルフたちとコミュニケーションを取る、ということは、すなわち集落の新たな物品を手に入れる機会が増えるということだ。すでに何名かのエルフとは物々交換による取引を行っているが、集落にある物品は手に入れれば入れるほど別の物品も欲しくなるほど素晴らしい逸品であふれている。

 中でも気に入ったのは、集落の中でも限られた職人しか作ることができないという、精巧な木製人形ウッドドールだ。様々な動物を模した人形は、職人により込められた魔力によりまるで本物の動物のように振舞うのだが、サイズは手に乗る程度のもののため、思わず動きを目で追ってしまう愛らしさがある。


――――――――――

【跳ね駆ける森猫木玩】

分類:進精魂機ゴーレム・木人形

等級:D

権能:【自動】

詳細:サリラ樹で造られたケネアス作の木製人形。周囲のマナを動力とするため、半永久的に稼働し続ける。

―――――――――


 諸々の素材や物品を対価として渡すこととなったが、ついついあるだけの種類の人形を手に入れてしまった。他にもいくつかの物品を手に入れるためにコレクションを手放すことになったが、それに見合う様々な物品を手に入れることができたので不満は何もない。

 そういう訳で前日に続いてエルフとの取引を行おうと思っていたわけだが、今日は朝から兵士の一人に呼び止められた。妹エルフに通訳をしてもらいながら話を聞いたところ、どうやらこれから機獣から集落を守るための準備をするらしく、それの手伝いをしてほしいということらしい。


 防衛のために物品をよこせと言われるならば多少の抵抗を感じるが、彼らが求めているのはあくまでも準備のための手伝いであり、こちらを当てにしているということではないようだ。この集落には義眼といい世話になっているし、そもそも機獣に攻め滅ぼされてしまったらここにある素晴らしい物品の多くも破壊されてしまうだろう。それはなんとしても防がなくてはならないため、エルフたちに協力することにした。


 場所を移して詳しい説明を聞いたところ、対機獣の作戦は大きく分けて三つの策があるらしい。一つは機獣の襲撃から集落を守るための防衛策、もうひとつは森の中で機獣を倒すためのゲリラ戦、そして最後は森に侵入してくる機獣を掃討するための戦線構築だ。そのうちのゲリラ戦については、エルフたち以上に森を知る者などいないため、あまり力にはなれないだろう。なので、まずは集落の防衛について作業を始めることにしよう。


 とはいえ、当然すでに集落に施されている防衛策もあるはずだ。そう思って尋ねたところ、やはり既存の防衛機構があるらしい。数人のエルフと共に集落の端まで移動したところ、その中の一人が地面を指さす。そこをよく見てみると、うっすらとだが何かの文様が描かれていることに気づいた。小さな草か苔のようなもので描かれたその文様は集落と森の境界線上をなぞるように続き、集落を取り囲んでいるようだ。

 なんとなく樹姫が使うような結界の類かと思ったが、やはりその予想は的中だった。一旦全員が文様の向こう側に移動してからエルフが集落の方向めがけて矢を放つと、文様が一瞬淡く光りその上部に差し掛かった矢が弾かれる。ついてきていた妹エルフが言うにはこの文様は集落に対して攻撃を仕掛けようとする者や攻撃そのものを弾く性質があるらしい。

 この文様は初めて集落を訪れた際にも当然通過しているため、知らず知らずのうちに自分も集落に入る資格があるのかを選別されていたということだ。この結界に弾かれていたら今頃どうなっていたかは分からないが、結果として無事に集落に入ったという事実がエルフたちに受け入れられる助けにもなっただろうし、あまり深く考えなくてもよいだろう。

 集落自体を守る防衛機構としてはこの結界だけらしく、エルフたちはこれに追加する形で何か新たな策を作りたいようだ。利便性も頑強さも折り紙付きのようだが、念には念を、という訳らしい。


 とは言っても、これだけ見せられて別の防衛策を考えろと言われても困ってしまう。しょうがないので全書をパラパラと捲りながら何か使える物品がないかと考えていると、とある物品があったことを思い出した。


――――――――――

【踏刺の晶花】

分類:魔具・罠

等級:D+

権能:【感知】【瀑華】

詳細:震動に反応して爆発的に体積を増加させる水晶の花。それを岩蓋で覆い、獲物が踏むまで静かに待ち続ける悪質なトラップ。

―――――――――


 上を通ったものを問答無用で刺し貫くこの地雷のような魔具を集落を取り囲むように配置すれば、もし機獣たちが攻めてきてもいくらかの抑止力にはなるだろう。元からある結界と違って【踏刺の晶花】は機獣もエルフも関係なく起動してしまうため、エルフたちにも分かるように地面に目印を立てながら百個ほど設置した。

 正直これで機獣の侵攻を止めることができるとは思えないが、今できることはこれくらいだ。エルフたちの反応もいまいちのようだが、次の場所に案内してもらうことにする。


 森を歩いている間にエルフたちに教えてもらったのだが、ここ【エイリアの森】はなんと魔境の一つなのだという。これまで探索してきた他の魔境とはあまりにも違う様子と、さらにエルフたちがここで暮らしているという事実を鑑みるに信じがたいことだ。そもそもエルフたちの住居など魔境の”初期化”に巻き込まれてなくなってしまいそうだが、数ある魔境にもいくつかの種類があるらしい。

 【揺らぐ時森】や【轟く鉄滝】など、これまで訪れてきた魔境は”反鏡型”と呼ばれるらしく、おおよそ十から十五日ごとに初期化が起きてしまう。一方で【エイリアの森】は”純流型”に分類される魔境で、”初期化”により環境が元に戻るということはないらしい。その分、存在する素材などの復元も起こらないので、あまり無茶な素材の収集はできないだろう。他にも魔境によっては様々な違いがあるようだが、まだエルフたちのすべての言葉を理解できるわけではないので、それ以上のことは分からなかった。


 エルフたちがこの森で暮らすことができているのはそういった理由によるものらしいが、まだ解せない点もある。それはこの森に入ってから、一度も【エイリアの森】原生の魔物に遭遇していないことだ。これまで訪れた魔境であったならば入ってしばらくもしないうちに魔物に襲撃してきたところだったが、ここでは機獣以外の魔物にはまだ遭遇していない。

 そのことについて尋ねてみると、またしても興味深い回答が返ってきた。【エイリアの森】には他の魔境にもれず”ヌシ”と呼ばれる強大な存在がいるらしいのだが、集落の初代長であり初めてこの森を訪れた古聖エルダー緑人エルフがこのヌシとある契約を交わしたのだという。その契約の内容は代々長にのみ伝えられているというが、その契約のおかげで森の魔物がエルフを襲うことはないのだそうだ。

 たしかに言われてみればこの森に入ってからは必ずエルフと行動を共にしていた。そのおかげで魔物の標的にならずにすんでいたらしい。そう伝えるとエルフたちは運がよかったと言ってくれるが、この森の魔物素材が手に入らないのも問題なので、どこかで機会を見つけて一人で森の探索をしてみることにしよう。


 もっと森についての話を聞きたいところだが、移動はエルフたちの騎獣を使っているため速度は速いのだがなかなか喋っている暇もない。結局移動の時間のほとんどを、乗せてくれた巨大な狼の背にしがみついている羽目になってしまった。

 だがおかげでまだ日も高いうちに【エイリアの森】の端に到達することができた。集落のエルフたちの調査によると、機獣たちはちょうど今いる方角から森に侵入してきているらしい。

 それを聞いて改めて森の外の風景を眺めてみる。森の外には真っ白な土と僅かな草が生えるのみで、他には動くものはない……と思ったが、よくよく目を凝らしてみると遠くの方に何か蠢くものがあるようだ。かなり距離が離れているためそれが何かは分からないが、現状から鑑みるにおそらくは機獣だろう。目に見えるのは一匹だけのようだが、機獣がこちらの方角からきているというのは確かなようだ。


 エルフたち、というより彼らを率いている集落の長は、近いうちに機獣による大規模な森への侵攻があると考えているらしい。その際に主戦場となるであろうこの場所に、今のうちに戦線を築いておくつもりのようだ。

 ここに着くまでに既にほかのエルフたちにより防壁が作られており、十メートルほどの高さはあろうかという木製の槍壁がいくつか森の境界に設置されている。それらを組み合わせて木製の要塞を作ろうとしているようだが、その数はあまり多くなく、大量の機獣の侵攻を止めるとなると何とも頼りない。エルフたちに許可を取ってから、槍壁の一つを収集してみる。


――――――――――

【ヒメラの樹壁】

分類:建築物・防壁

詳細:ヒメラ樹で造られた頑強な木壁。耐火性にも優れる。

―――――――――


 どうやら森に生える【ヒメラ樹】という名の木材で造られたもののようだ。他の素材は使われていないようで、造りとしては木材を組み合わせるだけの簡単なものと思われる。エルフたちは魔術を用いてこれを作っており、普通に作るのと比べれればかなりの短時間で壁を量産している。だが、作っている壁の一つ一つは大きく、さらに守らなければいけない範囲も膨大だ。このまま作り続けていれば、必要な数が揃うのには相応の時間がかかりそうである。

 なので、まずは【ヒメラの樹壁】を必要な数作ってしまうことにする。幸い使われている材料は揃っているので、あとは材料を全書で収集して、【ヒメラの樹壁】を生成するだけだ。


――――――――――

【ヒメラの樹壁】を生成します

以下の物品を消費する必要があります

ヒメラの成樹 11500%/100%

生成を行いますか?【はい/いいえ】

――――――――――


 全書を使えば移動も設置も一瞬で終わるため、エルフたちが同じことをする労力とは比べるべくもない。それほど時間もかからずに予定数の樹壁を設置し終えると、エルフたちがしきりに感謝の言葉を伝えてくる。だが、設置し終えてから言うのもなんだが、この樹壁はサイズこそそれなりにあるものの、機獣の侵攻を止めるとなると頼りないと言わざるを得ない。先に遭遇した【噛合う機輪バト・マイル】がまとめて突っ込んでくれば、恐らくは粉々に砕けてしまうだろう。

 そのため、もう一つの防壁を築くことにする。使うのは、【歓喜せしデイト孕むラーバ・異肉母バリトーザ】の素材を使用したとっておきのコレクションだ。


――――――――――

【卵血擁する臓壁】

分類:建築物・防壁

権能:【肉産】【治膨】

詳細:激しく脈動する赤黒い巨大な肉壁。壁から生み出される獣は自らの母を守るかのように、敵に牙をむく。

――――――――――


 全書から出すと同時に、目の前に高さ約八メートル、幅五十メートルほどの分厚い肉壁が現れる。これをいくつか配置すれば、先ほどの【ヒメラの樹壁】と合わせて二重の防壁ができるという訳である。その見た目からか、はたまた突然前触れもなく現れた故か、厳戒態勢となったエルフたちに説明をして、武器を下ろしてもらう。

 なにせ戦闘のための準備はまだまだやることが多い。防壁だけでなく武器の量産も必要だし、敵の規模によってはまた新たな対策をうつ必要もあるだろう。準備するべき事項は数あれども、そのために残された時間は少ない。今後さらに多くの物品をエルフたちから手に入れるためにも、今は張り切って働くとしよう。

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