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二十九ページ目

 叔父エルフがつけてくれた義眼、【魔流の義眼】の動作は至極良好で、数か月ぶりに戻った両眼で見る景色は、まるで世界が変わったように広く感じる。施術の間寝かせられていたベッドを置きあがった後、妹エルフを挟んで叔父エルフと少し話をした。叔父エルフ曰く、義眼の調子は全く問題ないとのことだったが、体内魔力マナなるものを使えないと言ったところ露骨に無念そうな顔をしていた。どうやらオドを操れれば義眼に仕込まれた別の能力を使えるらしく、それが使えないとなるとこちらとしても残念なので、少しずつだがそのマナとやらをコントロールするための訓練をしてみようと思う。幸い妹エルフが言うには、この身体にもオドは備わっているそうなので、練習次第では使えるようになるようだ。


 だが、マナの訓練は一旦後回しにして、まずは緑人エルフたちの集落を散策することにする。妹エルフと叔父エルフはなにやらエルフ語で話し込んでいるようだったので、今は一人で集落を歩いている。すれ違うエルフたちがこちらに向ける視線はやはり物珍し気なものを見るようだが、最初に集落に踏み入れた時のような敵意はだいぶ少なくなっているようだ。義眼の施術をしている間に、例のリーダー格のエルフが他の住人達に説明をしたのかもしれない。

 理由はどうあれ、集落の中を自由に動き回れるのは喜ばしいことだ。それに両眼で見るエルフの集落は実に美しい。入る時にも気づいていたことだが、森の大樹たちと融合したエルフたちの住居は元からあった環境と完全に調和していた。さらに家々の壁や柱をよく見てみると、非常に精妙な彫刻が所々に施されていることもわかる。そのどれもが木々や森に生きる動物をモチーフにしているようで、家を眺めているだけで美術館にいるような錯覚を受けるほどの出来栄えだ。

 歩いているうちに、集落にはいくつか特殊な建物があることに気づく。まず最初に通りがかったのは、一見すると分厚い木材で造られたドームのような建物だ。三本の大樹の枝が複雑に絡み合った上に建てられたその建物は、どうやら武器などを作る工房のようだったが、材料として工房の中に運ばれているのは木材だけのように思われた。だが、それと入れ替わりに工房から搬出されているのは、鈍く光る金属のような光沢を放つ剣や盾などだ。

 工房を覗き込むように眺めていると、一人のエルフが声をかけてきた。集落のエルフとは初のコミュニケーションとなったわけだが、如何せん向こうが喋るのはエルフ語のためお互いに相手が発する言葉を理解することができない。

 それでも何とか身振り手振りで意思疎通を図ったところ、やはりこの建物は運び込まれた木材などを加工する場所だということが分かった。だが、なにも武器だけを作るという訳ではなく、普段は生活用品や狩りなどに有用な魔具を主に作っているようだ。今は森でも遭遇した”機獣”との戦いに備えて、戦闘用の武器や防具を集中的に製造しているということだろう。


 工房まで来てそこでの生産品を見ていれば、それらが欲しくなるというのが人の性というもの。という訳で取引をして譲ってもらおうと思ったのだが、それは思わぬ障害により阻まれることとなる。というのも、エルフの集落ではガイネベリアで手に入れていた貨幣が使えなかったのだ。どうやらエルフの集落では外界の貨幣、というよりその概念そのものがあまり普及していないらしい。この集落では今手持ちにある金貨や銀貨は、その素材となった金属と同じ価値しかなく、さらにそんなものをエルフが欲しがるはずもない。

 そこで金ではなく、手持ちの各種素材を使って取引を行うことにする。エルフは全書から取り出した素材全般が気になるようだったが、中でも【轟く鉄滝】で手に入れた鉱樹木や砿水には並々ならぬ興味を示した。幸い【轟く鉄滝】では大量の素材を手に入れていたため、コレクション用と生成に使う分を残して大盤振る舞いすることにした。その分、集落で造られた貴重な品々を譲り受けることができたため、お互いに非常に満足が行く取引となった。


――――――――――

【サリラ樹の丸太】を収集しました

【サリラ樹の枝葉】を収集しました

【緑森兵の樹剣】を収集しました

【緑森兵の樹小刀】を収集しました

【緑森兵の樹盾】を収集しました

【緑森兵の樹弓】を収集しました

【緑森兵の樹石矢】を収集しました

【茂る樹矢筒】を収集しました

【緑森兵の樹胸具】を収集しました

【緑森兵の額当て】を収集しました

【エイリアの赤薬】を収集しました

【エイリアの青薬】を収集しました

【エイリアの白薬】を収集しました

染める薬石クロリア】を収集しました

【危急の枝笛】を収集しました

【葉呼びの横笛】を収集しました

――――――――――


 特定の音色を奏でれば植物の成長を促進する機能がある【葉呼びの横笛】など、大変興味深い物品を手に入れることができた。さらに集落の兵士たちに支給されている装備一式を手に入れたことにより、新たな自動人形を生成することが可能となる。


――――――――――

【枝道伝う森衛兵レインジャー】を生成します

以下の物品を消費する必要があります

緑森兵の額当て 500%/100%

緑森兵の樹胸具 500%/100%

緑森兵の樹剣 500%/100%

緑森兵の樹弓 500%/100%

茂る樹矢筒 500%/100%

ザイスル樹の丸太 1000%/100%

ザイスル樹の枝葉 1000%/100%

瘴気 14000%/100%

生成を行いますか?【はい/いいえ】

――――――――――


 生成品を確かめたい衝動に駆られるが、今は生成を行うだけに留めて集落の散策を優先することにする。次に目を引かれたのは、集落の中でも特別太く高い大古樹だった。直径百メートルはあろうかという大木には虫食いのように洞があいておりその中から巨大な虫や獣が出入りをしていた。集落の中でなければ魔物の巣と見まがう光景なのだが、近くにいるエルフたちはいたって平静そのものであり、さらに獣たちをよく見てみるとそのほとんどが背にエルフを乗せていた。どうやら獣たちはエルフの騎乗用の獣だったようで、確かにすべての獣たちが鞍のようなものをつけている。

 しげしげと大古樹を眺めていると、大蛇の頭に腰かけた一人の女エルフが声をかけてくる、やはりエルフ語で何を言っているのかは分からないが、なぜか感謝の気持ちを伝えられているようだ。全く心当たりがないわけだが、否定の言葉を語ることもできないため、手を引かれるまま大古樹の中に入ることとなった。

 大古樹の内部は信じられないことに中がほとんどくり貫かれた構造になっていた。完全に内部がなくなっているわけではなく、各階層に区分けられているようだったが、入り口をくぐった先には床と天井以外に視界を遮るものはない。そうしたかなり広い空間には先ほど外から目にした巨大獣たちが居座っており、係であろうエルフに世話をされていた。

 思わず感心しながらそれを眺める様子に気をよくしたのか、女エルフはこちらを先導しながら自慢げに案内をしてくれていたようだ。矢継ぎ早にエルフ語で説明を続ける女エルフだったが、こちらがエルフ語をしゃべれないことも理解しているらしく、時折物品の説明を求めるとこちらが理解をできるようにと丁寧に説明をしてくれた。


 女エルフの説明を聞く限り、この大古樹は全体が巨大獣たちの生活施設となっているようだ。獣の中には狼や鳥、蜘蛛や蟷螂などがいるようだったが、いずれも見上げるような大きさで騎乗するための鞍が取り付けられている。元からこういった大きさなのか、それともエルフの魔術によりこうした大きさに育ったのかは分からないが、いずれにしても彼らは戦闘用に訓練されているらしく、係共々忙しなく戦いの準備をしているようだった。

 そんな状況で部外者を入れていいのかという疑問は残るが、なんとなくこの女エルフは細かいことなど考えていないような節がある。だが、女エルフを止める者はいないあたり、さして問題はないのだろう。いくつか気になる物品があったのでやはり物々交換を持ちかけたところ、【轟きの鉄滝】で手に入れた【恵命鉱グンジー】と【碧絢玉樹】を素材として生成した装飾品、【風鳴の首飾り】と引き換えに騎乗獣用の道具一式を譲ってもらうことができた。


――――――――――

【豊饒の育成飼料】を収集しました

【エイリア産巨大藁布団】を収集しました

【サープルの癒水】を収集しました

【心伝う葉飾り】を収集しました

【サープルの魔獣乗鞍】を収集しました

【以心する髭手綱】を収集しました

――――――――――


 対等な取引だったかは正直なところ分からないが、お互いに得た物品には満足しているようなので問題はなさそうだ。結局女エルフは最上階近くまで案内を続けてくれたわけだが、巨大獣たちと心を通わせている飼育係を見ているとなぜかなんとも言えない穏やかな感情が湧いてくる。女エルフも自分の騎乗獣である蛇に向ける視線は特段優しいものに見えたので、やはり自分の相棒に向ける感情というのは特別なものがあるのだろう。

 特段自分の騎乗獣が欲しくなったというとはないが、珍しい獣たちを見ることができたので大変満足することができた。女エルフなどとの会話を通じて段々とエルフ語も覚えてきたため、有意義な散策をできたと言えるだろう。

 集落を歩き回って疲れも出てきたため、一旦叔父エルフの家に戻ることとする。妹エルフ曰く集落に滞在する間は食事と寝床を提供してくれるとのことなので、とりあえず数日は厄介になることだろう。だが、与えられるだけというのも主義に反するので相応の礼も考えておかなければならない。

 叔父エルフの家の方向は分かっているが、歩いて戻る分にはそこそこの時間もかかる。その時間を利用して、妹エルフや叔父エルフが喜んでくれそうな品を考えておくとしよう。

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