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二十一ページ目

 さて、再び領主の館まで来たはいいが、その様相は前回訪れた時とはずいぶんと変わっていた。館を囲うようにして造られていた中庭には、道中でも見た肉の根が密に張り巡らされ、一帯の地面が覆われてしまっている。垣根などの植物はまるで生物の組織のような見た目となっており、その先端からは時折赤黒い液体を垂らしていた。ここまでの変化は街でも見なかった辺り、やはり変異は領主の館を中心として起きているようだ。

 この周辺にも街で見かけた魔物がいるようだが、館に近づいたことで【嘆く肉卒ラート・ミジャ】という新たな魔物を見かけるようになった。顔のあらゆる穴から赤黒い粘液を垂らした騎士、という見た目のその魔物は、まさしく元は騎士だったのだろう。生前の技量を保ったままこちらに襲い掛かるその魔物はなかなかに手強く、さらに複数体で協力して攻撃してくる個体もいた。


――――――――――

【血泣木の血蜜】を収集しました

【血泣木の黒枝】を収集しました

歓喜せしデイト孕むラーバ・異肉母バリトーザの根管】 を収集しました

嘆く肉卒ラート・ミジャの涙液】を収集しました

嘆く肉卒ラート・ミジャの肉染剣】を収集しました

嘆く肉卒ラート・ミジャの肉染鎧】を収集しました

【ガイネベリアの宝炎】を収集しました

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狂蜜赤酒クニレン】を生成します

以下の物品を消費する必要があります

血泣木の血蜜 350%/100%

笑痴の赤蜜 520%/100%

嘆く肉卒ラート・ミジャの涙液 400%/100%

膨肉の血薬 100%/100%

生成を行いますか?【はい/いいえ】

――――――――――


――――――――――

【肉染の騎士人形】を生成します

以下の物品を消費する必要があります

重ねる肉物ルプ・ミツグの心種 300%/100%

嘆く肉卒ラート・ミジャの肉染剣 800%/100%

嘆く肉卒ラート・ミジャの肉染鎧 800%/100%

腕縫う纏肉 400%/100%

瘴気 15600%/100%

精製を行いますか?【はい/いいえ】

――――――――――


 【嘆く肉卒ラート・ミジャ】が身に着けている鎧や剣は魔物となり果てる前の騎士たちが身に着けていたもののようで、中でも【ガイネベリアの宝炎】という豪奢な鎧を身に着けた大柄な個体は、ジラルドに迫る技量を誇る難敵だった。

 【歓喜せしデイト孕むラーバ・異肉母バリトーザの根管】という素材は、地を這う肉の根を回収したものだ。やはりこの根も植物ではなく、何某かの魔物の身体の一部らしい。そのせいか、根を回収した途端、根を守ろうとするかのように周囲から魔物たちが集まってきてしまった。それらを轢殺しながら館に向かって進んでいくと、館を目指す別の何者かと合流することとなった。

 三人で行動を共にしていたらしいその人物たちのうちの一人は、街に入る際に面倒ごとを起こした騎士見習だった。別の二名は女性でその服装から騎士ではないと思われたが、よく似た風情のため双子のようだ。


 聞いてもいないのに向こうが語るには、彼らもそれぞれの事情から館の中を目指しているそうだ。正直言って一人でも十分先に進むことはできるのだが、この先何が起こるかもわからないので利用できるものは利用することにする。

 そういう訳なので、ここからは彼らと行動を共にすることにした。三人の力量についてだが、双子たちの方は戦闘にも慣れており、魔術と呼ばれる異能を駆使していとも簡単に魔物を駆逐していく。観察する限り、青いイヤリングをつけた姉は炎の魔術が得意で、赤いペンダントをぶら下げた妹は水の魔術を用いるようである。二人のコンビネーションは双子故か非常に息があっており、特に手助けもいらないように思われた。

 一方、騎士見習の方は戦い方も見るからに危なっかしく、戦闘経験もほとんどないようだ。別に騎士見習が力尽きたところで困ることもないのだが、結果として彼を手助けする形になりながら、四人で先に進んでいく。


 彼らと合流したことで進行の速度も増し、それほど苦労することもなく館の正門へとたどり着いた。前回ここに来ようとした時は、【膨らむ肉手イラテ・ミド】という魔物に行く手を防がれたわけだが、門の近くにもやはり多くの魔物がたむろしている。単独であれば少し頭をひねらなければならないところだったが、双子たちが放つ魔術によりそのほとんどが瞬時に蹂躙されてしまった。素材が回収できないのが口惜しいところだが、今はそれを言う時ではないだろう。双子が撃ち漏らした魔物は、騎士見習と自動人形たちで無駄なく討伐していく。全書を使って素材を回収する際に三人が目を丸くして驚くが、何か答える義理もないので館の中に入るとしよう。


 館は基本的な構造こそまだなんとか維持しているようだったが、壁や床は道中の魔物たちを構成したものとよく似た有機的組織に侵食されていた。館は長い廊下を中心とした構造となっているため、中を進むとまるで巨大な生物の体内を歩いているような心境になる。

 館の中にも当然のように魔物がいるのだが、時折壁や天井を覆っている肉から生み出されるようにして魔物が現れることもあり、屋内とはいえ警戒を解くことはできない。


――――――――――

歓喜せしデイト孕むラーバ・異肉母バリトーザの産肉】を収集しました

歓喜せしデイト孕むラーバ・異肉母バリトーザの抱手】を収集しました

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 時折壁や床の肉から生え、さらには先を塞ぐようにうねる触手をそぎ取りながら先に進み続けるが、奥に行くほど魔物たちの数と密度は増していく。双子たちの魔術は強力だが、その分魔術の原動力ともいうべき何かも消耗するようだ。あまり双子に頼ってもいられなさそうなので、自動人形たちだけでなく【反芻する凝肉】―肉男―や【躍心の鉄童】―鉄童―、さらに数々の素材から生成した義手、【腐灯の繋腕】を使って自らも戦いに参加する。


――――――――――

【腐灯の繋腕】

分類:魔具・義手

等級:C-

権能:【操合】

詳細:傷口に合わせると瞬時に肉体に癒着する義腕。装着者の意のままに操ることができるが、装着してから数十分で義腕は腐り落ちてしまう。

―――――――――


 今左腕につけている【腐灯の繋腕】は、傷口に合わせれば瞬時に元の左腕のように使うことができるというなんとも便利な魔具なのだが、すぐに腐って使い物にならなくなってしまうという致命的な欠陥を持っている。ただ、しばらくは持つため、戦闘が激化している今の時点で使うことにした。腕自体から放たれる悪臭も気になるところだが、贅沢を言う訳にもいかないだろう。

 戦闘に関する技術は一切持っていないが、【狂い合う死生杖】や【糸引く胞掌】など、戦力となる物品はいくつかある。それらに加えて、【鳴砦の銀剣】や【肉染の騎士人形】など、様々な自動人形たちも投入して館内部を猛進していく。


 やがて、館の最奥と思われる区画にたどり着くが、そこに入るための扉はまさしく肉の壁といった風情になっており、極太のうねる触手―【歓喜せしデイト孕むラーバ・異肉母バリトーザの抱手】―が何本も扉から生えている。触手を除去して扉をこじ開けてもよいのだが、部屋の中から聞こえる剣戟と怒号を聞いた双子たちが俄かに慌て始めた。どうやら部屋の中から知り合いの声が聞こえたらしく、一刻も早く助けなければとこちらに詰め寄ってくるのだ。双子の魔術があれば扉も吹きとばせそうだが、部屋の中にどういった存在がいるのか分からない今、双子に無理をさせたくないという思惑もある。

 そのため、部屋の扉ではなく、その横に伸びる壁をぶち抜くことにした。人の心理としては扉から入りたいところだが、壊そうとしたら扉も壁もそれほど変わらない。むしろ壁には触手がない分、突破も容易だろう。

 肉男の大爪とジルラドの斬撃により、肉壁は一瞬でくりぬかれた。その勢いのまま部屋に押し入ると、元から部屋の中にいた肉男と同じほどの巨躯を誇る肉の巨人が立ち塞がる。だが、肉の巨人もこちらの出現には虚を突かれたようで、肉男に勢いのまま押し倒されると、振るわれる爪により滅多刺しにされてしまった。

 双子の妹がそれを見て何事か声を上げるが、先んじて敵の戦力を削ることができたのは僥倖だった。部屋の中では巨大な肉の花に人の腕と顔を取り付けたような異形の化物と、二人の人間が戦闘を繰り広げていたようだ。おそらくはその二人が双子の目的であった仲間なのだろう。

 二人の人間も滅多刺しにされている肉の巨人に目を向けているが、その表情を見る限り、どうも巨人を殺してほしくなかったようだ。だが、肉男により巨人はもはや千々に千切れた肉の断片となってしまっている。起きたことは変えられないし、今は大部屋の中央で狂ったように歓喜の笑い声をあげている異形の化物の相手をするとしよう。

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