二十ページ目
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【重ねる肉物の乱杭歯】を収集しました
【重ねる肉物の抉爪】を収集しました
【重ねる肉物の大爪】を収集しました
【重ねる肉物の膿肉】を収集しました
【重ねる肉物の灰膿】を収集しました
【重ねる肉物の歪骨】を収集しました
【重ねる肉物の太歪骨】を収集しました
【重ねる肉物の心種】を収集しました
【肉染の灰銅】を収集しました
【肉染の輝銀】を収集しました
【ガイネベリアの守護鉄像】を収集しました
【ガイネベリアの宝火】を収集しました
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兵士が所有していた剣欲しさに始まった門での攻防だったが、得られた戦果は上々と言えた。街の外から押し寄せる、肉を押し固めた歪な人型の魔物―【重ねる肉物】―はいくら倒せども次から次へと門を超え、街に侵攻を繰り返していた。
ジルラドを始めとした自動人形の部隊で門前広場を守り、【アベイル砦】で手に入れた各種の装備を素材として生成した【鳴砦の銀剣】などの移動速度に長けた自動人形たちで防壁を守る。この陣容が功を奏し、戦闘が始まってしばらく経っても魔物たちを広場内に留めることに成功していた。そのまま順調に戦闘が進んでいれば広場の防衛を続けていたところだったのだが、取引を持ち掛けていた名も知らぬ兵士が魔物の餌食となり、対価としていた見事な剣―ガイネベリアの宝火―が足元に転がってきたのだ。
対価さえ手に入ってしまえば戦闘を続ける理由もない。ということで、それまでの戦いで積みあがった魔物の素材を回収し、自動人形たちも収納して移動を始めることにする。ちょうど折よく街の所属と思われる騎士団たちも門に集まってきていたので、すぐに魔物たちが街を蹂躙する、ということもないだろう。見てる傍から騎士団が魔物に蹂躙されているようにも見えるが、街を守ることができるかは彼らの奮闘次第である。
それに、騎士団の戦いを見届ける前に行かなくてはならない場所ができた。それは以前にも近くに行った領主の館の辺りだと思われるのだが、つい先ほど強い地震のような震動と共に、街の中心部から火山の噴火のように赤と桃色の何かが空高く噴き出し始めたのだ。
空に舞い上がった何かは、当然重力に引かれて街の各所に落下したのだが、どうやらその落下した肉塊のようなものからも別の魔物が発生したようだった。ちょうど近くに落下した肉塊から現れた魔物を八つ裂きにした残骸が目の前にあるので、早速収集してみる。
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【食む肉虫の触覚】を収集しました
【食む肉虫の晶眼】を収集しました
【食む肉虫の薄翅】を収集しました
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先日騎士を操っていた謎の液体の発生源はどうやらこの魔物だったらしい。【重ねる肉物】と同じようにやはり肉を寄せ集めたような見た目の人間大の羽虫、といった風情のこの魔物は戦闘力が低い代わりに他の生物を操る能力があるようだ。
手に入れた素材により新たに候補として現れた生成物もあるのだが、今は先を急ぐことにする。というのも、降り注ぐ肉塊によって街の破壊が進み、少なからず騎士の包囲を抜けた魔物により今も被害が広がっている。街はすでにパニックといった様相であり、ということは街中の物品たちも今まさに傷つき壊れていっているということだ。貴重な物品たちは壊れる前に収集、もとい保護をしなくてはならない。決して火事場泥棒などではないのだ。
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【絵画・ガイネベリア領主の館】を収集しました
【職工アーギの七つ道具】を収集しました
【職工アーギの作業つなぎ】を収集しました
【アーギの黒革手袋】を収集しました
【アーギの黒革足袋】を収集しました
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とはいえ、今いるのは壁の近くの貧民区。家に入っても家具すら置いていないところも多く、目ぼしいものは少ない。見つけた物品の数より討伐した魔物の数の方が多いという有様だ。
街の中には【重ねる肉物】と【食む肉虫】以外にも、先日領主の館の近くで襲撃してきた【膨らむ肉手】も出没しているようだった。どこからか湧いてきたのか、大量の魔物たちは近くにいる人間を見境なく襲っており、その被害は時を追うごとに大きくなっているようだった。
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【重ねる肉物の肉玉】を収集しました
【食む肉虫の脚爪】を収集しました
【食む肉虫の胚卵】を収集しました
【膨らむ肉手の血舌】を収集しました
【膨らむ肉手の柔肉】を収集しました
【膨らむ肉手の奇眼】を収集しました
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貧民区を出るころには、辺りには住民たちの血と死骸がまき散らされており、魔物たちがそこに群がり死肉をむさぼっていた。食事に夢中になっている個体もいればこちらに飛び掛かってくるものもいるので、最小限の戦闘を行いながら街の中心部に向かう。
普通に歩いていれば魔物に襲われてひとたまりもないところだが、当然周囲は自動人形たちに守らせており、さらには移動は【脚歩きの水体】に任せている。水体の上から眺める街の景色は、壮絶でありどこか現実離れしたものだ。
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【脚歩きの水体】
分類:偽造変命・粘体
等級:C-
権能:【歩這】【脚使】
詳細:様々な生物の四肢を取り込む習性を持つ【偽造変命】。取り込んだ素材を利用し、壁を這い移動することができる。
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中心部に行くほど裕福な住人が増え、貴重な物品も増えていくはずだが、それに比例して魔物による被害も激しくなっている。それでも残骸の中から目ぼしいものを探したいところなのだが、魔物の数が多すぎて探索に注力することができない。崩れた武器屋からいくつかの武器などを回収できたが、どれも先日購入したものだった。
新しい物品を発見できない代わりに魔物の襲撃はさらに頻度を増し、もはや入れ替わり立ち替わりといった具合だ。さらに領主の館にある程度近づいたところで、景観にも変化が現れる。
最初は皮を剥かれた大蛇と見紛ったそれは、よくよく見ると肉でできた木の根のように思われた。街の中心部の方から伸びているそれは、不気味に脈動しながらゆっくりと成長を続けているようだ。すでに一抱えほどの太さになっているそれは、見ている間にもじわじわとその体積を増しているように見える。
何も手を打たずにこのまま放置していれば、いずれはこの肉の根が街すべてを飲み込んでしまうのだろう。誰かに警告をしてもいいのだが、残念ながら近くに生きた人間は一人もいない。それどころか、鎧を着た騎士と思われる二人の男が肉の根に半身を飲み込まれていた。すでにこと切れた騎士たちは最後の意地とばかりに剣を固く握りしめたままだが、肉の根はその剣ごと獲物を取り込んでいる。
騎士が纏っている鎧をよく見てみると、肉の根に触れた箇所がまるで肉に侵食されているかのように生々しい質感となっている。そういえば、門前広場での戦いの際に、戦闘を行っていた自動人形にも似たような変化が起きていた。興味が湧いたため、試しに収集してみることにする。
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【肉染の白鋼】
分類:金属・変性金属
詳細:肉に浸食された精錬済みの白鋼。根本的な構造が変質するほどの影響を受けている。
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有用なものとは思えないが、現状を見るにおそらく滅多なことでは手に入らない素材なのは間違いないだろう。広場での戦闘も含めて多くの素材を手に入れたため、そろそろ生成候補を確認しておくことにする。
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【癒合肉】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
膨らむ肉手の柔肉 460%/100%
食む肉虫の涎液 500%/100%
生成を行いますか?【はい/いいえ】
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【膨肉の血薬】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
膨らむ肉手の血舌 250%/100%
重ねる肉物の膿肉 870%/100%
重ねる肉物の灰膿 1020%/100%
生成を行いますか?【はい/いいえ】
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【大怪爪】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
重ねる肉物の大爪 200%/100%
重ねる肉物の太歪骨 250%/100%
生成を行いますか?【はい/いいえ】
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【腐灰の餓鬼珠】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
重ねる肉物の乱杭歯 340%/100%
重ねる肉物の肉玉 100%/100%
食む肉虫の胚卵 150%/100%
膨らむ肉手の血舌 230%/100%
膨らむ肉手の奇眼 100%/100%
生成を行いますか?【はい/いいえ】
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【腕縫う纏肉】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
癒合肉 0%/100%
膨肉の血薬 0%/100%
招く怨手の赤腕 820%/100%
招く怨手の黒腕 800%/100%
膨らむ肉手の肉紐 290%/100%
物品が不足しているため、生成を行えません
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生成できる物品は素材となった魔物たちの特性を色濃く受け継いだものだった。試しにそれぞれの物品を生成してみたが、【大怪爪】と【腐灰の餓鬼珠】を生成したところ、思いがけない出来事が起こる。
【大怪爪】と【腐灰の餓鬼珠】はそれぞれ、大盾ほどの大きさの鋭利な爪と、乱杭歯が並んだ大口と単眼が備わった直径一メートルほどの肉塊、というなんとも奇怪な物品だ。【腐灰の餓鬼珠】に至ってはひとりでに浮遊し、近くにある死体を食べようとする用途も不明な物品なのだが、周囲を警戒させていた【反芻する凝肉】―肉男―がそれらを認識した時だった。肉男は生成したばかりの【大怪爪】と【腐灰の餓鬼珠】をむんずと掴むと、自分の身体にそれらをこすりつけ、あっという間に自分の体内へと取り込んでしまったのだ。さらにそれと同時に、肉男の腹部に【腐灰の餓鬼珠】と同じような大口が発生し、手からは【大怪爪】が伸びる。
どうやら肉男は特定の物品を吸収して、自分の身体として利用することができるようだ。せっかく生成した物品がなくなるのは癪だが、戦力が増すのは喜ばしいことだ。新たな物品の素材と思えば、押し寄せる魔物の見え方も変わるというものである。この調子で領主の館まで行ってみるとしよう。




