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十九ページ目

 高級感漂う白い石を建材として造られた装飾店の扉をくぐり、店舗を後にする。この店はガイネベリアを代表する装飾店らしく、その品ぞろえのみならず接客の質までもかなり高いものになっていた。


――――――――――

【鳴き蛇のインデックスリング】を収集しました

【鳴き蛇のオパールグラス】を収集しました

【蛇巻くルビーネックレス】を収集しました

【輝銀のアメジバンド】を収集しました

――――――――――


 価格帯が非常に高いため、すべての商品を買うことはできなかったのだが、気に入ったものをいくつか購入することはできた。さらにほかの店も見てみたいが、今いる場所は街の中心部に近く、周りにある店舗は先ほどまで買い物をしていた装飾品店をはじめ、レストランなどの高級店が軒を連ねている。いくらか元手となる所持金を増やしたとはいえ、まだ残金を気にせず使えるほどではない。

 大変口惜しいが、今は有用なものであったり貴重なものを厳選して購入していくしかないだろう。


 街を歩いていて気付いたのだが、壁の内側は大雑把にだが居住区画が分けられているようだ。街を囲む壁のすぐ傍は旅人や所得が低い者などの居住地となっており、売られている物品もそういった客層を対象としたものになっている。そして領主館、すなわち街の中心に近づくほど商品の売価が上がっていくのだ。さらに区画の治安も中心部に近づくほど良くなっていくようで、今いる区画は時折全身鎧に身を包んだ騎士たちが巡回をしている。

 街の外の人間はあまりこの区画を訪れないようで、騎士や街の住人がこちらに向けるのは奇異の視線のみだが、特に実害があるわけでもないので気にする必要はないだろう。


 店舗を眺めながら道を進んでいると、やがてひときわ大きな屋敷が視界に入る。それは壁の傍の区域―貧民区―でも話を聞くことがあった領主の館だろう。まだ遠目から見えるだけだが、館の各所にはこの街のシンボルである、鳴き声を上げる白蛇を象った飾りが使われている。

 館の近くにはあまり建物はなく、広い中庭のようになっており、よく手入れをされた垣根や背の低い樹木に囲まれていた。そのせいで館にはまっすぐ向かうことはできず、また正面から館の入り口を見通すこともできないようになっている。

 おそらくは館の防衛のための構造なのだろう。それならば無論屋敷の近くや中庭は騎士により厳重に見張られている、と思いきや、近くには騎士どころか人の姿すら全く見えない。


 そのことに違和感を感じながら中庭の入り口と思われる垣根の隙間に近づいていたところ、それと同時に垣根の影から現れたローブを着た何者かと対面した。その人物はフードを目深にかぶっており顔が見えないが、細身で長身の女性であるように見える。

 そのフードの女性はこちらの姿を認めると、何も言わずに両手をこちらに差し出してきた。フードの女性とこちらとの距離はおよそ二十メートルほど。当然いくら手を伸ばせども届く道理はないのだが、フードの袖口から紐のような触手が幾本も飛び出し、矢のような速さでこちらに殺到する。


 そのあまりの急展開に驚きながら全書からジルラドと樹姫、さらに【アベイル砦】で手に入れた残骸から生成した新たな戦力、【躍心の鉄童】を展開した。


――――――――――

【躍心の鉄童】

分類:進精魂機ゴーレム・鉄人

等級:C-

権能:【進装】【吸機】

詳細:一度は残骸となり果てた進精魂機ゴーレムの残骸を使って造られた歪な鉄人。霊回水により修復された魂は、足りない部品を埋めようとするかのように周囲の無機物と同化しようとする。

―――――――――


 フードの女性から生える触手は、その量を爆発的に増やしながら押し寄せる。束ねられたことでまるで巨人の拳のようになった触手の前に進み出るのは【躍心の鉄童】だ。【躍心の鉄童】―略して”鉄童”―が両腕を前に広げると、その手と腕が絡繰り人形のように展開され、巨大なタワーシールドが形成された。束となった触手たちが、鉄童の腕から展開された盾に激突し、その際に生々しい激突音が響くが、フードの女も鉄童も特に怯んだ様子はない。

 ひとまず相手の先制攻撃を防ぐことはできたので、次はこちらの番だ。触手の束の横をジルラドが駆け、相手に肉薄する。枝分かれした触手がジルラドを打ち据えようとするが、ジルラドが振るう大剣により寄るものから斬り飛ばされ、逆に相手に損傷を与えることとなった。一度は鉄童により防がれた触手たちは、再び枝分かれしてこちらを狙うが、樹姫の結界と、鉄童の腕から新たに展開された長剣によりひとつ残らず捌かれたため、こちらに届くことはなさそうだ。念のため、自動人形をさらに数体出しておくが、このままでも十分身を守ることができるだろ。


 一方で、敵を攻めようとしていたジルラドは少し難儀しているようだ。こちらを狙うことを諦めた触手の大半はジルラドの動きを止めるために使われており、拘束こそされていないものの思うように前に進めていない。しかし、今こそ触手の拘束とジルラドの攻撃力が拮抗しているものの、追加の戦力を送れば攻防の均衡はジルラドに傾くだろう。

 フードの女性もそれを察したのか、ジルラドの援護のために出した追加の自動人形を目にした途端、その場で身をひるがえして走り去ってしまう。追ってもいいのだが、昨日懸賞金をもらいに行った際に拘束されたばかりだ。また変な騒ぎを起こしてもいいことになるとは思えないので、今回は大人しく見逃すことにしよう。


 その場に残されたのは、自衛のために出した自動人形たちとジルラドにより切断された触手の残骸だけだ。迷惑をかけられた礼、としては甚だ釣り合わないが、触手も収集しておく。


――――――――――

膨らむ肉手イラテ・ミドの肉紐】

分類:魔物素材・肉塊

詳細:母的存在により生み出された肉人の身体の一部。有機物への適合性が高く、様々な用途に利用できる。

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【肉吸いの生廻花】を生成します

以下の物品を消費する必要があります

笑痴の生き蕾 1000%/100%

膨らむ肉手イラテ・ミドの肉紐 150%/100%

華めく胞花フリグ・スポワの吸牙 1500%/100%

彷徨う腐体ワーダ・ロディの腐臓 4200%/100%

霊回水 5300%/100%

生成を行いますか?【はい/いいえ】

――――――――――


 幸いなことに今日手に入れた二つの素材を使った新たな生成候補が現れた。それを確認していると、後方、すなわち壁の方角から二人の騎士が歩いてくる。こんなところで自動人形たちを引き連れているのを見られるのはまずいので、慌てて全書に収納するが、おそらく数体の自動人形を見られてしまっただろう。

 また面倒なことになると思い騎士たちの様子を確認するが、騎士たちはなぜか歩く速度を変えないままこちらに近づいてくる。向こうから声をかけてくるかとその場で騎士たちを待っていたが、こちらに近づいてきた騎士はなんと警告を告げることすらせずに突然斬りかかってきた。

 慌てて身をかわすが、騎士は二人がかりでこちらに連撃を加えてくる。攻撃自体はかなり単純で二人が剣を振るっていても難なく避けられるが、いつまでもこうしているわけにもいかないため、全書に仕舞っている【糸引く胞掌】を使うことにしよう。


 この【糸引く胞掌】という手袋は各所に仕込まれた”胞嚢”から菌糸を射出し、そこから相手に菌を流し込んで身体の操作を奪う、という道具なのだが、菌糸が騎士に触れた途端、こちらが意図しなかった現象が起きた。

 鎧から露出した騎士の肌に菌糸が触れた瞬間、騎士の口から声にならない奇妙な叫びが発せられる。断末魔にも似た悲痛さを含んだその叫びをあげた騎士は、激しく身を震わせると力尽きたようにその場に倒れてしまった。これまで【糸引く胞掌】を魔物に向けて使った際にはこのような反応を見たことがなかったため面食らうが、残った騎士はやはり怯むことなく剣を振るってくる。本来であれば一方の騎士を操って同士討ちをさせるつもりだったのだが、思わぬ形で一人を簡単に無力化できてしまった。

 残った騎士もやはり菌糸に触れた途端気を失ってしまう。その過剰ともいえる反応に騎士たちの生死が心配になるが、二人とも気絶しているだけで息はちゃんとあるようだ。これならばまた捕まることはなさそうなので、内心で胸をなでおろす。


 騎士の様子を確認していると、二人の耳から黒色の粘液のようなものが流れ出していることに気づいた。何かわかるかもしれないので、それに触れないようにして全書で収集してみる。


――――――――――

食む肉虫インテ・ミクトの涎液】

分類:魔物素材・粘液

詳細:食む肉虫インテ・ミクトのそれぞれの外口から分泌される粘液。触れた者の精神を侵し、本人が気づかぬ間に外敵を襲撃する。

――――――――――


 どうやらこの騎士たちは何者かに操られてこちらを襲撃してきたようだ。【糸引く胞掌】を使った時の過剰ともいえる反応は、すでに【食む肉虫インテ・ミクトの涎液】により操られていたために起きたのだろう。

 無事に襲撃を凌げたのは良かったが、まさか街の中で明らかな敵意の元襲われるとは思っていなかった。さらにこの一連の襲撃にはどう考えても魔物が関わっていると思われる。

 まだこの街に来てそれほど日が経っているわけではないが、少なくとも街中で堂々と魔物が歩いているようなことはなかった。ということは、この街でも魔物というのは異質な存在なのだと思われるし、そんな存在に白昼の元襲われる、というのはなかなかの出来事だろう。


 だが、特段胸中に恐怖が沸き上がることはない。むしろ今のように新たな物品が手に入る可能性もあるし、波乱にはそれ相応の報酬がつきものだ。

 そんなことを考えながら、やれやれ面白いことになりそうだと、自然と口角が吊り上がるのだった。

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